第0話 槙島千国は、幸が薄い。
槙島千国は、幸が薄い。
それは生まれて此の方、定められた運命のよう。
生まれてすぐ、自身の誘拐、あるいは取り違え……とにかく、本来の親元から、離れそうになった。
4歳、加減を知らぬ子供同士のケンカで、彼は窓ガラスにつっこみ、盛大に血を流した。
7歳、実行犯の近くにいた知り合いというだけで、万引き犯として叱られた。
13歳、偶々、飛び降り自殺を試みた若者の下敷きになって複雑骨折。しかも死に損なった若者から、あとで散々文句を言われる。あまりにもあんまりなので、後日、センゴクはこの若者を呼び鈴鳴らして殴りに行った。
16歳、日に2度、交通事故に遭う。両方とも他人を庇ってのことで、幼い少女と老婆だったから、ロマンスが生まれるはずも無く。更に、それぞれ片腕、片足を骨折した。
17歳、何故か女連中の恋愛相談を引き受ける羽目になる。なんでも、センゴクの仲介を受けるとカップル成立率が8割を超えるのだとか。誰だ、そんな噂を流した奴。たまには俺にアタックする奴はいないのかと嘆いたが、結局誰も現れなかった。意中の相手が、相談相手にいたことが一層ショックだった。
18歳、またもや事故にあう。やっぱり誰かを助けるためで、しかもその日は雪の降った翌日で特に事故が多く、都合二人と一匹の命を救ったのだが、それが原因で大学受験当日だというのに、センゴクは両腕を骨折した。当然大学には不合格になって、晴れて浪人生となる。
19歳、家が放火される。幸い家は保険に入っていたが、センゴクの私物は全滅だった。
20歳、ぼったくりバーで、お金は払えないと意地を張っていたら、身包みをはがされた。
22歳、内定を貰っていた企業が、突如として倒産する。外資系の大企業だったのに。
以後、なんとか別の会社に入れたものの、そこでも前任者のやらかしが発覚してクレーム処理を引き受けるハメになったりなど、多彩な困難が待ち構えているのだが、それはまあ、想像してもらうとして。
このように、この男は幸が薄いのだが、しかし、自分のことを不幸だと思ったことは、一度も無かった。
幸が薄いが故に、欲望が薄くなった。
高望みをせず、平穏無事に毎日を生きられることが、どれだけ幸せなことかと、身に染みて感じていたから。
彼女は出来ないが、それはそれ。いつか後悔するかもしれないけど、今日も元気に働いている。
それに色々な知り合いもいる。
昔助けた幼女は、すくすく育って今では中学生になって、時折手紙やらメールのやり取りをしているし、助けた老婆は地元の名士だったりして法務関係で相談に乗ってもらったりしているし、昔ケンカした自殺志願者は、今ではベンチャーを立ち上げて、センゴクに慰謝料という名の振込みを毎月続けている。
他にも合気の達人やら、狐耳のコスプレ居酒屋ではたらく苦学生なんかとのエピソードもあるが、まあ割愛。
そんなセンゴクだが、欲望が薄いといっても、趣味が無いわけではなかった。
この男、結構な甘党である。
甘いものは別腹と、幸が薄い顔で、平気でスイーツめぐりを楽しむ。
だから、30歳の誕生日に、ホールケーキ丸ごと食べようとしたことも、別に彼にとっては当たり前のことで。
それと同じくらいに、誰かの運命に関わって、不幸な未来を回避するのも当たり前。
何度も死に掛けて、それでも尚、助けた命が健やかであるのなら良かったと笑うのも、彼にとっては当たり前。
幾つもの運命を覆し、自分の運命を片っ端から叩き折っていたが故に幸の薄いこの男、センゴク。
その全てが、30歳童貞が魔法使いになるという都市伝説を具現化する、盛大な運命
だと、神でさえも気付かない。
数多ある平行世界の中、唯一、このセンゴクだけが死の運命を回避し、魔法使いに至る。
その日センゴクは、デパート地下の5000円はするホールケーキを買い込んだ。
「ふっふっふ、楽しみだな~」
30歳の誕生日に一人寂しくろうそくを立てて、甘いケーキに舌鼓を打つ。
その奇跡が起こるまで、あと、23分と50秒。
あらゆる運命を壊し、建て続けた、その全てが結実するまで、あと――。
これにて、魔人センゴクは真の完結です。お疲れ様でした。
もしもう一度センゴクを書く機会があるのなら、そのときは、地球救世編にしっかり肉付けしたものになるでしょう。
ではでは、次の作品でお会いしましょう。
ぴょん!! っと、次の作品が出来ました。お楽しみください。
『閃きの鬼神と桃色姫~ジャポン大陸の白兎~】
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