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第18話 神々の祭典、開幕

 

 センゴクの出るラグナロック・カーニバル決勝トーナメント前日。

 決勝トーナメント進出を決める、予選組のバトルロイヤルが試合会場で繰り広げられていた。

 何かしらのスポーツで勝敗を決める決勝とは異なり、予選のバトルロイヤルは、純粋な力勝負である。

 ある意味で決勝よりも熱狂するため、一部のフリークは決勝よりも、こちらこそが真のラグナロック・カーニバルと推す声も多い。

 そりゃあ、殆どガチで戦っている元のラグナロクにもっとも近い形なのだから、熱狂するのも当然かもしれない。

 

「いやあ、でも凄いねえ。ホント、決勝からの出場でよかった」

「ほんとですねー」


 センゴクと実体化を果たしたAI・アイリスは観戦用の観客席でもふもふとフライドポテトをかじりながら神通力の飛び交うバトルロイヤルを観戦していた。


「やあ、隣、失礼するよ」


 センゴクの隣の空いている席に断りを入れて男が座った。

 肩に掛かるくらいの長さのウェーブの掛かった髪で、眼鏡を掛けた青年だ。

 そこはかとなく、ジョニー・〇ップに似ているのは、気のせいだろうか。


「君、おのぼりさんかい?」


 青年がやおらにセンゴクに尋ねた。


「おのぼり……?」


「君、人間だろう? 死んでいない人間が天界に来るなんて滅多にいないから。よっぽどの偉業を成し遂げないと天界へ登る許可なんて下りないだろうしね。かくいう私も天界に来れたのは死んでからでね」


「はぁ……そりゃあまた」


 青年のテンションにいまいち付いていけず、というより天界の常識についていけずつい生返事を返してしまうセンゴク。


「ふむ、偉ぶった態度もないし、君はできた人間のようだ。やはり、カーニバルの招待選手かな?」


「ええ、一応。今日は会場の下見ついでに、どんなヒトたちがいるのかなって、見物です。あ、お一ついかがですか?」


 センゴクは、フライドポテトの入ったカップを差し出した。


「おお、ありがとう。いただくよ。それにしてもやはり招待選手だったか。実は、私もなんだ。名はヨシュア、もし大会で対戦することがあれば、お手柔らかに頼むよ」


「俺は槙島センゴクです。胸を借りるのはこっちですよ」

 

 青年――ヨシュアの差し出した右手をセンゴクは手に取り握手を交わした。不思議とセンゴクの心は温かくなった。


***


 しばらくして、試合終了の合図がなり、現在のグループの予選が終了した。


「さてと、私はそろそろ失礼するよ。実は、今のグループに、私の弟子が出場していてね、それを見に来ていたんだ。負けたようだし慰めて上げないと」


 ヨシュアは立ち上がり、センゴクに一言別れの挨拶をして去っていった。


 休憩時間を挟んで、次のグループの試合が始まる頃にアイリスが大きく息をついた。


「緊張しましたね……」


「うん、なんで? 緊張する場面があったか?」


 アイリスは、少々疲れた顔をして、


「……ああ、マスターは、神話に疎いのでしたね……先ほどのヨシュアさんですが、あのお方は、地球でも五指に入る有名な神様です」


「へえ、じゃあお忍びって言うか、偽名なのかな」


 アイリスは首を横に振った。


「いいえ。いいえマスター。呼び方としてはマイナーであるだけです。ヘブライ語でヨシュアとは……」


 アイリスが説明した。

 その説明を聞いて、センゴクが得心したと手を打った。


「あー、なるほど。雰囲気あったもんねえ。ジョニデにも似ていたし」


 センゴクも只者ではないとは思っていたらしい。それでも気負っていないのがまたセンゴクたるところだが。




*** 



 決勝トーナメント当日。


 決勝では、因果律への干渉を除くありとあらゆる力が解禁される。

 種目はランダムで決定され、大戦の直前で発表される。

 出場者はシード選手を含めた全256名で一対一で戦う。

 神に仏、聖霊に妖精、伝説や神話の英雄などなど、参加者はとにかく偉大な実績がある面々ばかりである。

 

 そこへいくと小市民で、Tシャツにジーンズという出で立ちのセンゴクはどうも浮いていた。


 だが、こう見えて人類絶滅の危機をすでに三度も防いだ最新の超越者である。またそれ以外にも偉業を重ねており、すでに今大会の台風の目と目されていた。

 もちろん、情報収集をしていないセンゴクはそんな風に見られているなんて知りもしないし、アイリスもセンゴクがプレッシャーを感じないようにと配慮して、神々の情報を与えないようにしていた。 


 そしてファンファーレと共に、ラグナロック・カーニバル決勝トーナメントの開会式が始まった。

 

 代表として、The Greatset Oneと紹介された、髭を生やしたナイスミドルが祝辞を述べた。


「略してTGO……タゴさんか」


 そんな呟きをもらしたセンゴクを、彼の回りにいた選手達は、驚いてぎょっとした目で見た。

 ああ、こいつ、なんて豪胆な奴なんだと。T.G.Oと言えば、神々の間でも超がつく大物のヤ〇ウェさんだからである。

 彼もまた参加選手としてエントリーしていた。優勝候補の一角である。


 

 あれこれのスケジュールを経て開会式は終わり、早速決勝がスタートした。


 センゴクの出番は2時間後にやってきた。


 相手は、参加選手の中でもトップクラスの火力を誇る、スルトさんだ。


 もっとも、その火力が生かされるかどうかがわからないのが、ラグナロック・カーニバルのミソなのだが。


「それじゃあ行ってくるよ、アイリス」


「はい、マスター。勝敗はにはこだわりません。無事に帰ってきてください」


「はは心配性だなあ、アイリスは」


 潤んだ瞳で見上げるアイリスの頭を、センゴクは撫でた。


「死んでも生き返るらしいし、地味な競技になるかもしれないしさ。一応君のマスターとして、恥ずかしくない戦いをしてくるさ」




 スルトは5Mほどの巨人だった。頭には湾曲する立派な角二本ある兜をつけており、全身からは炎が噴き出していた。


「でけえ……」


「よろしくなあ、万象の。言っとくが手加減しねえぜ?」 


「はは、そりゃあ困った」


 意外と人好きのする笑顔を見せるスルトに、苦笑いでセンゴクが答えた。

 そして種目を決めるスロットが回転し、発表される。

 種目は、ボクシングだった。


 すぐさまスルトの巨大さにあわせたリングが会場に現れ、二人はリングの上に立った。


「ははは、俺向きの種目になっちまったなあ!」


 スルトがつけたグローブから炎が噴出した。直接触れずとも、人間なら蒸発させるだけの熱をもった炎だ。

 グローブが燃えていないのは、神々の品だからか。



『さあ、スルト選手に対するは、今回初参加にして数々の神話領域からの推薦のあったセンゴク選手だ! スルト選手の炎とパワーに、センゴク選手はどんな戦いを見せてくれるのか、期待しましょう!』


 実況の天使ウリエルがシャウトに近い声で場を盛り上げる。

 ちなみに解説はジェフティことトト神である。



***



 試合開始のゴングが鳴り響き、まず前に出たのはスルトだ。

 一撃でも決まればスルトの勝ちが見えているこの勝負、スルトが積極的に出ない道理はない。


「くらえい!!」 

 

 スルトがチョッピングライトを繰り出した。

 ただの人間では、インパクトの瞬間に骨も残らず蒸発してしまうだろう一撃だ。


「コードアクセス」


 センゴクはスルトの一撃から逃げようともせず、愚かにもその拳にあわせて拳を打ち出した。

 巨人と、か弱い人間の拳がぶつかったにしては信じられない轟音が会場に響いた。

 センゴクは、スルトの拳に負けず存命していた。

 スルトはこの一撃で、センゴクは前評判以上の強敵だと認識し、歓喜の笑みを浮かべた。

 この男ならば、全力が出せる。初戦から至高の戦いが出来ると。

 そう思った瞬間だった。


「な、なにい……!?」


 スルトから、唸り声が上がった。

 なぜならセンゴクを殴った拳の炎が消え、それどころか凍ってしまい、右腕を動かすことが出来なくなったのだ。


「お、俺の炎を消すどころか……はっ!?」


 スルトが動揺している間に、センゴクが飛び上がってするとの眼前に迫っていたのだ。


「せい」


 センゴクのこめかみを狙った一撃が炸裂した。


「……っ!!」


 スルトは、そのままダウンし、ついには立ち上がらずKO判定を受けて敗退した。


『なんという幕切れ! なんという番狂わせ! スルト選手の圧倒的アドバンテージを覆して、センゴク選手がスルト選手を秒殺ノックアウト~~!! 強い、強いぞセンゴク! 本当にどっかから湧いて出てきたんだ、このニューフェイスは~~!!』


 こうしてセンゴクは無事、2回戦進出を決めた。

センゴク「やべえ、ちょっとちびっちゃった」


アイリス「よっし、カーニバルくじ、マスターに全賭けして大正解!!」

 

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