カナタの怒り
「・・・・・・・・・?」
予想していた衝撃が全く来ない。
恐る恐る目を開く。
砂埃が舞う中、リル達の前に立っていたのは――――。
「おい、テメェ。なにしてんだよ」
カナタだった。
「カナタ君・・・・。どうして・・・・?」
「おう、リル。その説明は後でな」
安心させるように笑みを向け、アーネスに向き直る。
「・・・・・よくもこいつらに手ぇ出したな」
「あらぁ、ナイトのご登場ぅ?」
その言葉にイラッときたカナタ。
「リル、これ持っててくれ。あと、魔力切れで伸びてるそこの2人を頼む」
そう言って指についていた指輪を2つ外す。
その瞬間、カナタの魔力量が上がった。
「(なっ・・・・・・!この魔力量・・・・・・・!)」
リルはカナタの魔力量に驚いていた。
「う~ん、こんなもんなのかぁ。がっかりだなぁ」
驚いているリルに対してアーネスは心底がっかりしていた。
それは表情にも態度にも表れている。
「マルク様、落ち込むだろうなぁ」
「!」
“マルク”という言葉に、今まで無反応だったカナタが反応した。
「今、“マルク”って言ったか?」
「言ったけどぉ、それがどうかしたのぉ?」
カナタが反応を見せたことに笑みをこぼすアーネス。
「お前、前魔王に命令されたのか・・・・?」
「あははっ、違うよぉ。全部アタシの判断だよぉ」
「・・・・・・そうか」
「(前、魔王?・・・・なんの話をしているんでしょうか?)」
話に全くついていけないリル。
「そうか。ならお前を・・・・・・・殺す」
カナタからおびただしいほどの殺気が放たれる。
「っ!(なんですか、これは!)」
自分に向けられたわけじゃないのに、リルはカナタの殺気に怯えて動けなくなってしまった。
「アタシを殺す・・・・・?ふふっ、本当に出来るの?“現魔王様”ぁ」
「(え・・・・・・、現魔王?誰が・・・・・?・・・・カナタ君が?)」
魔王とは、魔物・魔族を統べる王のことである。
その魔王がカナタだということを信じられず、リルは固まった。
「(想像してたのと、全然違います・・・・・・)」
何故か夢を打ち砕かれたような感覚がする。
ちなみにリルが想像していた魔王像はとにかくでかい人。
「うるさい、黙れ。《ウォータースラッシュ》」
なんの前触れもなく、カナタは水の中級魔法を放った。
「《竜巻》」
アーネスも中級魔法を放ち、カナタの魔法を相殺させた。
相殺させたときに起こった爆風がリルを襲う。
「(と、飛ばされそうです・・・・・。カナタ君は・・・・)」
カナタの方を見てみると、爆風に飛ばされないようにしているわけでもなく、ただ平然とそこに立っていた。
「(嘘・・・・!?)」
アーネスの方も見てみたが、彼女もカナタと同じように平然と立っていた。
「(どうして平然と立っているんですか!?)」
まるで自分のほうがおかしいような気がしてきた。
「あーあ、本当にがっかりぃ。これならぁ、アタシでも倒せちゃうかもぉ」
くすくすと笑うアーネス。
「はっ、戯言を」
「本当のことでしょー。まぁ、早くマルク様の元に帰りたいしぃ、次の魔法で終わらせるわぁ」
「上等だ、来いよ」
クイッと人差し指をまげて、アーネスを挑発した。
「ほぉんと、生意気ぃ。―風神よ、我が声を聴き力を貸したまえ。すべてを巻き込む暴風を―!《風神招来》!」
「うそ・・・・。神級なんて・・・・・・」
アーネスが唱えたのは風の神級魔法。こんなのを防ぎきれるわけない。
リルにとっては絶望的な状況だった。
だが、カナタは笑っていた。
「(どうして・・・・・・?)」
考えるが、風が吹き荒れ、思考の邪魔をする。
少しでも力を抜くと、飛んでいきそうだった。
「っ(レナちゃんと、ガネル君は・・・・・・っ!?)」
あの2人は気絶している。この暴風で飛ばされるかもしれない。
左右にいる2人を引き寄せ、抱きしめる。
「大丈夫だ、リル」
リル達を守るように、カナタが前に立つ。
風の音で、かき消されているはずなのに、背中しか見えていないのに、カナタの声はちゃんとリルに届いた。
「ばいばぁい」
アーネスの魔法が、飛んできた。
「はぁい、終わりぃ。早く帰ってマルク様に報告しよぉ」
「その必要はないな」
砂埃に背を向けたアーネスの前に人影が現れる。
「あっ、マルク様ぁ!来てくれたんですかぁ?」
「ああ」
「ありがとうございますぅ」
うっすら頬を染めながらマルクの腕に抱き着く。
「マルク様ぁ、聞いてぇ。現魔王ってぇ、とぉっても弱かったのぉ」
「弱かった?」
「そうなのぉ。だからぁ、アタシが倒しちゃったのぉ」
「ふっ、そうか」
マルクがアーネスの頭を撫でると、嬉しそうにすり寄る。
アーネスを撫でながらも、マルクの視線は砂埃に向いたままだった。
「帰るぞ」
「はぁい」
2つの気配が消えた。




