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総員一名の救助隊

弟にめがけて銀色の兵士が飛び出すのを見て、幸彦は冷や汗が吹きだす。


『目を狙え!』


さきほどの兵隊の声を思い出す。幸彦は血の気が引き、足が震えた。


「裕!!」


惚けている裕がその声に反応して振り向く。その眼前に妖精の兵士が迫る。最悪だ。


網をのばすが遅い。間に合わない。


「っ!!!!!」


「せいっやぁあああああああ!」


弟が悲鳴を上げる。音がして、妖精の兵士の体が裕にぶつかった。


「この!」


幸彦の伸ばした網が裕にぶつかって弾かれた妖精の体を捉える。


虫取り網をバンとそのまま床に叩き付けるように蓋をして、幸彦はもう一度裕の名前を叫ぶ。


「裕! 大丈夫か!?」


目に傷が入ったら、失明!?


幸彦がそう考え、顔を青くしながら裕を見た。


しかし尻餅をついた裕は痛みで顔はしかめていたものの、血などは出ていないように見えた。


「いったぁ……なんなのさ」


そう言って裕が押さえつけているのは目ではなく眉間だった。


「だ、大丈夫か?」


ドキドキしつつ、幸彦がそう訪ねる。それに対して、裕は大丈夫じゃないよと愚痴をこぼした。


「眼鏡にぶつかったんだ。鼻で止めるところがめり込んだ……いたい」


よっぽど痛いのか、涙目でそう語る裕は失明していないらしい。


は、はぁああああああああ。よかった。


安堵の深いため息を吐いて下をみると、網の中に捕まえた騎士が手に持った何かで網を破ろうと暴れていた。


そもそもこいつが悪いのだ!


「どりゃぁあ!」」


網をすくい上げるように持ち上げ、ぶんぶんと力任せに振り回す。


振られた網の中に入った妖精は無秩序に振り回される網の中で悲鳴を上げた。


どうだと思いながら、網の口を縛って様子を見ると、妖精はぐったりと動かなくなっていた。


「わああ! 眼鏡に傷が入ってる!」


よかったな、目玉に傷がつかなくて。


幸彦は裕の悲鳴を聞きながら、ぐったりとした妖精の騎士をどうしたものかと悩んでいた。


 ◆


「……ええっと? リリィさんが攫われたってこと?」


予備の眼鏡をかけた裕が、準備をしている兄にそう尋ねる。


「そうだ。よくわからんが、俺に襲ってきたそれの仲間が連れてった」


幸彦が、それと言って指出した先にはプラスチックの虫かごが置かれていた。


良くデパートなどでカブトムシを入れている透明の箱形の容器に、緑色の編み目の入った蓋がされている飼育箱だ。


その中には目を回した妖精の兵隊が入っており、外し方が判らないので鎧はそのままで、武器だけ別に取り上げていた。


「連れて行ったってどこにさ」


「あの額縁の向こう側だ」


さらにそう言って指出した先には、見た事も無い額縁が確かに置かれている。


立派な額縁である。裕は見た事の無いそれに首をひねった。


「……えっ?」


「あの額縁の向こうが妖精の国だ。不思議アイテムだ」


理解が追いつかず、裕は眼鏡に手をかける。


そう言えばと裕は昨日、聞いた話を思い出す。妖精の国に行ける不思議な額縁。


「……それは西油山の洋館に合ったんじゃないの?」


裕はそう幸彦に聞いていた。それがなぜここにあるのだろうか?


「夜の内に持ってきた」


そう答えた幸彦の言葉に、裕はぎょっとする。


「よ、夜の内にまた山登りしてきたの!?」


そんな弟の様子に、幸彦は慌てて口を開く。


「泥棒じゃないぞ、隣のおじさんからは『欲しい物は持っていって良い』って言われてたんだからな」


誤解するなよと手袋を付けながら話す兄に裕はめまいがしてきた。


「行動が早すぎる……」


「そうだろう」


どこか自信たっぷりに胸を張る兄に弟は呆れた。日を改めて行くと言うのは出来なかったのか? 


「そ、それで。兄さんはどうするつもりなの?」


「とにかく、追いかけてリリィを助ける」


「た、助けるって、どうやって」


「向こうに行ったのは見た。追いかける」


「お、追いかけられるの?」


「しらん」


言い切る兄は、しかし準備を止めようとはしない。


「……ええっと、無謀なんじゃない?」


訪ねる裕に幸彦は意思を宿した目を向けて答える。


「無謀でも何でもやるんだ。寝起きだったからよくわからなかったが、そいつ等とリリィは喋ってた。多分顔見知りだ。リリィの親のところに行けば何かわかる」


「……一応あては有るんだと思いたいけど、リリィさんの実家の場所は知ってるの?」


「し、しらん……」


指摘されて初めて気がついたらしい。呆然とした声で幸彦は答えた。


「……頭痛がしてきた」


あてがあるんだか、無いんだかよくわからない。無謀なのか、果敢なのか、まあ、そうしたところが兄の良いところなんだろうと裕は好意的に解釈するように勤めた。


「そしたら、この妖精が起きるまで待ってたら?」


裕はそう言ってプラスチックの容器を持ち上げてみせる。


言われて、幸彦は少し止まるが首を横に振る。


「一刻を争うかもだし……。水を掛けたら目を覚ますかな?」


「……車酔いのときに水をかけて、目を覚ますのならあるいは」


ちょっと考えて無理だと思う。


「時間の無駄だ。それにぽんぽん喋るかはわからないし」


「それはわからないんじゃない? ヒントくらいなら聞けるかも」


「じゃあ、それは任せる」


「……はいはい。留守番もまかされましたよ。夕飯までには帰って来てね。また母さんが心配するから」


「わかった。じゃあ、行ってくるから」


「ああ、まって。多分、リリィさんは王様と何かしらの関係があるとおもうから、それを調べた方が良いと思うよ」


裕の言葉に幸彦は再び首を傾げる。


「そんな事、言ってたっけ?」


「王家の皆とか言っていたからね……。関係者じゃないかな。これも勘の話だから兄さんの事は何も言えないけど」


「そうか……そうだな。まず王様を探すか。どこ探せば良いんだ?」


「多分川沿いに探せば良いんじゃない? 人……というか、地上人ってのが住んでると思うから」


「……なんでわかるんだ?」


「人の生活に水は不可欠だから。だいたい川沿いには集落がある……と思うけど、花の蜜が主食だから違うかもしれないけど」


裕はそう自信なさげに喋る。基本的に歴史上で人類は川沿いに集落を作る事が多かった。だがこれは畑を作るのに水が必要だったという要素が大きいように裕は思う。


そうであれば花を栽培しているのではないかというのが裕の予想だった。


弟がそこまで考えているとは知らず、幸彦は感心したように頷く。


「……そういえば、地理の時間にそんなの習ったな。メソポタン文明とかだ」


「メソポタミヤ文明ね」


「そうそれ」


訂正の言葉に幸彦は頷いて、ふと思いついたように裕に訪ねる。


「わかった……裕、あれ貸してくれ」


「あれって?」


「エアガンとゴーグル。お前持ってただろ。すごいやつ」


そう言われて裕は自分が持っているM16アサルトライフルを思い浮かべた。電動エアガンでBB弾が三百発打てる。グレネード……ショットガンのように玉が飛び出るびっくり兵器付きだ。妖精相手なら、相当戦えるかもしれないが……。


ふと横を見ると妖精が寝ている。裕はこの小さな体にBB弾が当たったどうなるだろうと考えた。正直考えたくない絵が頭の中に浮かんできて、ゲンナリする。


少なくとも……エアガンで発射されたBB弾はアルミ缶を凹ませるくらいのパワーがあるのだ。昆虫なら吹き飛ぶ。昆虫より妖精は明らかに柔らかそうだ。


スプラッタ間違い無しだ。


「生き物に向けちゃ駄目だから貸さない」


裕のその言葉に幸彦はそうかと一つ頷くだけだった。


「……うん、そうだな。じゃあ、ゴーグルだけ貸してくれ」


「わかった。でも気をつけてね」


部屋へと戻る裕の言葉を受けて、幸彦は自分の装備を見直した。


頭から野球帽、風邪などのときに付けるマスク。マフラーにダウンジャケット、手袋。ズボンは二枚履き。靴はブーツを履く予定だ。


出来るだけ重装甲で行くべきだと判断した結果である。


「はい。ゴーグル」


部屋に戻ってきた裕が持ってきたのは透明のゴーグルで、普通の眼鏡と違って上や横に隙間が無いものだった。それを付ければ装備は完璧である。


それをしばし眺めて、裕は何とも言えない顔で考え込み、そして言った。


「暑くない?」


兄は答える。


「暑い」


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