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秋の日の掃除

とある日の金曜日の夕方のことだった。


「あんた達、どっちか庭の掃除してきなさい」


そう母に命じられて、リビングで寝転がっていた幸彦と裕の双子の兄弟は決まっていたかのようにジャンケンを行った。

その結果、じゃんけんに負けた幸彦は渋々と庭の落ち葉を掃いていた。


年は十七。短く整えた黒い髪。体格は同年代と比べて大きくはない。だが運動が好きなことも合って、筋肉が引き締まっていることから痩せすぎている印象は与えなかった。


「ちくしょーさむいー」


したたる鼻水を啜りながら、せかせかと動かす手は赤い。十一月になった今は夕方になればずいぶんと冷えた。特に木枯らしが吹くと、幸彦の体はブルブルと震える。


「チョキを出せば良かった、うー」


唸りながら、箒を動かす。庭に植えてある紅葉が風が吹くたびにハラハラと葉を落とし、幸彦はそれを見るたびに、げんなりと顔に影を落とした。


「まとめて落とすわけにはいかないのかね?」


紅葉の木にそう訪ねてみるものの、特に答える訳がない。今年は猛暑であったから、さんざん水を撒いてやったのに、恩知らずなやつだと憎々しく思う。


「おや、幸彦くん。精が出るねぇ」


ふと声をかけられ視線を向けると、隣の家のおじさんが腰ほどの高さに塀の向こうに立っていた。恰幅の良い人の良さそうな顔をしたおじさんは不動産屋を商店街で営んでいる社長さんでもあり、お歳暮の時期には飲みきれないからとジュースを箱ごとくれたりするありがたい人だった。


「どうもー。いやぁ、さむいですね」


愛嬌のある笑顔で、幸彦は挨拶に対応した。こういった日々の積み重ねが100%ジュースにつながるのだ。


「そうだねぇ。おとといあたりからグッと寒くなったよ」


「ほんとですよ。でもおじさんは今日、仕事はどうしたんですか?」


「いや、実は親戚が挨拶にくるって言うんでね。早めに店を閉じてきたんだよ。ほら、家の店は小さいからねぇ。付き合いが一番大切なんだよ」


「へー、その人は帰られたんですか?」


「今しがたね。この近くの別荘を売りたいと言ってきてねぇ」


「へえぇ。別荘ってすごいですね」


「まあ、今は不景気だからねぇ。昔は結構持ってる人もいたんだよ」


しみじみと不景気はよく無いよねぇと呟くおじさんに、幸彦はなんと答えてよいものか判らない。生きてきて、好景気にぶつかったことの無い幸彦にはよく分からない話だった。


「ちょうど、西油山の……」


そう言っておじさんが指差した方向には地元の人間にはなじみ深い山がある。この辺に住んでいれば遠足や、ピクニックには必ず名前の挙がる候補であり、標高も700mと手頃。展望台までの観光道路も走っており、その途中に整備された自然公園には梅の花が多く植林されていて地元の人々に愛されている。


けれども、住むには不便だろうと幸彦は思う。何せ山の麓をしばらく行かないとコンビニも無ければ、スーパーも無い。近いと言えるのは自然公園の売店くらいで、お菓子とジュースとインスタントカメラ以外は売っていない上に休日しか開いてない。


「あんなところにですか?」


「まあ……そうだねぇ。地図でもへんぴなところでねぇ」


やれやれとため息を掃くおじさんに対して、幸彦は商売って難しいもんなんだなぁとしみじみ思う。


そしておじさんはふと、何かに気がついた表情を浮かべて口を開いた。


「幸彦くん。ちょっと、お使いを頼まれてくれないか?」



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