眼前に迫る矛先
「ゆぅううううううーーーーーーーー!!」
幸彦は弟の名前を叫んで呼ぶ。
反応がないので、さっきよりもっと大きな声でもう一度呼ぶ。
「朝から、大きな声ださないでよ!」
寝癖のついた不機嫌そうな顔で、扉を開けた裕がそう言う。着ているのは水玉のパジャマだ。
しかし部屋に入ったとこで、兄が妙なポーズをしているのに気がついたのだろう。怪訝な表情を見せて幸彦を見る。
布団を床に引いて、四つん這いになって押さえている。まるでツイスターゲームかなにかのような姿は変だった。
いったい何事だと首をひねる裕に対して、幸彦は怒鳴った。
「網を取ってくれ!」
「網?」
「押し入れの中に有るから!」
「……はいはい」
「急ぎだ!」
「はいはい!」
ばたばたと押し入れを開ける裕は「何だよ、もう」と押し入れを開ける。
そこは魔窟だった。
「兄さん!! すごい事に成ってるんだけど!!」
思わず裕は怒鳴る。ここを探せと言う兄に非難の目を向ける。
「全部ものを出せ!!」
しかし、幸彦はそう言って怒鳴る。
裕はその言葉に押し入れの奥に向きなおった、出てくる出てくるゴミの山である。
「ちょっとは片付けなよ!」
押込められているものをかき出しながら、裕は悲鳴に近い声を上げた。
「良いから早くしろ!」
「はいはいはい……んもう。あった!」
取り出したのは大きな網だった。去年の夏、親戚の子供がセミ取りをした事が無いというので幸彦が張り切って買ってきたものだ。
「これ?」
「投げろ!」
言われるがままに裕はそれを放り投げた。幸彦が前のめりで受け取る。
かせが外れて、布団から銀色が飛び出てきた。
裕は何だと目を丸くする。
兄はそれを捕まえようと網を振り回す。
……そう言えば昨日の妖精さんは?
しばらく惚けていた裕は疑問に思いつつ体を動かす。
「裕!!」
兄の緊迫した声に振り向くと、眼前に銀色の槍が迫っていた。
スローモーションに見える。銀色は鎧で、その背中には羽が生えていた。手に持った槍がすごく大きく見える。
「っ!!!!!」
「せいっやぁあああああああ!」
身動きも取れず、顔に鋭い痛みを感じて裕は膝から地面へと崩れ落ちた。