第1話 目覚めた悪役令嬢
第1話 目覚めた悪役令嬢
王城の大広間。
豪奢なシャンデリアが輝く中、貴族たちの視線は一人の令嬢へ注がれていた。
公爵令嬢──フランシスカ・カルメネール
藤色のドレスを身に纏う少女は、両腕を騎士に拘束されてもなお背筋を伸ばし、静かに王太子を見つめていた。
王太子レナードは勝ち誇ったように口角を上げる。
「フランシスカ・カルメネール!貴様は長年にわたりシャーリーを虐げ、数々の悪行を重ねた!よって私はここに婚約を破棄し、貴様を反逆罪により処刑する!」
会場からどよめきが上がる。
王太子の隣では、平民出身の少女シャーリーが涙ぐみながら彼の腕にしがみついていた。
「フランシスカ様……どうしてこんなことを……」
フランシスカは何も答えない。
答える必要がないからだ。
証拠は捏造。
証人は買収済み。
味方だったはずの者たちは皆、彼女を見捨てた。
父も母も。
友人も。
婚約者も。
すべて。
「何か言い残すことはあるか」
王太子の問いに、フランシスカは小さく笑った。
「……ありません」
その一言だけを残し、彼女は処刑台へ連れて行かれた。
刃が振り下ろされる。
世界が暗転する。
◇
……目を開ける。
見慣れた天井だった。
「お嬢様、お目覚めのお時間です」
侍女のマリア声。
窓の外から差し込む朝日。
まだ若葉色の庭園。
フランシスカはゆっくりと身体を起こした。
「……生きて、いる?」
「おはようございます。建国祭まであと7日、楽しみですね」
侍女マリアが、起き上がったフランシスカの肩ににストールをかけながら話す。
建国祭まで──あと7日。
その瞬間だった。
頭の中へ、大量の記憶が雪崩れ込んでくる。
ゲーム。
攻略対象。
悪役令嬢。
婚約破棄。
処刑エンド。
そして、自分はそのゲームを何度も遊び尽くした日本人だったこと。
「……ふっ」
思わず笑いが漏れる。
「そういうこと」
すべて理解した。
未来も。
裏切る者も。
利用できる者も。
王太子がどこで誰と密会するかも。
主人公がいつ泣き真似をするかも。
誰が証拠を捏造し、誰が偽証するかも。
全部知っている。
フランシスカはベッドから降りると、迷いなく窓辺に立つ。
「お嬢様?」
「すぐに着替えるわ」
「朝食でしょうか?」
「違うわ」
静かな声だった。
「王都で一番信用できる情報屋。それから商会長。王家の財務官。司法卿。あと、騎士団に面会を」
マリアはぽかんと口を開ける。
「……お、お嬢様?」
フランシスカは微笑んだ。
「時間がないの」
窓の外へ目を向ける。
あと7日。
普通なら絶望するだろう。
だが彼女は違った。
「一週間あれば十分」
机の上へ王都の地図を広げる。
赤いペンで丸を付ける。
銀行。
商会。
王城。
教会。
騎士団。
そして王宮。
「まずは婚約解消の打診」
さらさらと予定を書き込んでいく。
「次に証拠回収。裏切り者の切り捨て。味方の確保。資産の保全。最後に──」
フランシスカは楽しそうに笑った。
「断罪イベントの乗っ取り」
その笑顔は、処刑を7日後に控えた少女のものではなかった。
まるで、勝利が約束された盤上を見つめる棋士のようだった。
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新たな令嬢物語始動です!
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