27話 記憶の片隅
お待たせしました。私は元気です。
少々駆け足気味ではありますが、27話です。
夢の中。
俺は真っ暗な世界の中で浮遊していた。
……こっちの方が冥界に似てるな。
「…………ひ…………………………………り……………………」
声が聞こえる。その声は慣れ親しんだ声ではない。
「疾風…………の……星………」
仮面男の声だ。
「二度も……………何故………そこまで………邪魔を…………」
ノイズが混じって不快な音と化した声は更に続く。
「何故………何故だ…………時を超えても……………邪魔を…………」
怨みの声が次々と聞こえる。
そして
「次は絶対に消す。」
刃物以上に鋭い声が俺を貫く。
暗闇が崩壊する。
「!?!?」
悪寒がして飛び起きる。
その勢いが布団を吹き飛ばす。
って、あれ? 布団?
「あ、マスター。おはようございます。」
……シアンが横で寝てるんだが。
「……どういう状況?」
「さぁ……? 私もついさっきまで眠っていましたから……。」
……どういうことだ?
辺りを見渡す。
ベットの他にソファとテーブルに椅子、テレビがあるがその他の家具はあまりない。
どうやらここはラーメン屋の4Fの一室みたいだ。俺が寝泊まりする際に借りてた部屋と構造が似ている。
そこまで把握すると、ドアの外からドタドタとした足音が聞こえてくる。
「あ、二人とも起きてましたか。」
「ほら。やっぱり起きると思ってたわ。」
琴さんと若葉さんだ。
「じゃ、私は皆に報告しにいきます。」
「ありがとうね。案内。」
「いえいえ。ここの4Fってたまに部屋が増えてるから気をつけてね。」
「急にホラーにしないで!」
若葉さんが戻っていった。
で、琴さんはベッドの横の椅子に座る。シアン側の。
「二人とも、まずはお疲れ様。見事な勝利よ。」
「勝利した感覚ないんですが……」
「あー、マスターと同じく。」
夢でも見てたかと思ったら花畑に飛ばされて、そんでもってまた仮面男の呪いみたいなのが来たし。
「そういやシアンってさっき夢見た?」
「ええ。なんか真っ暗で「次は殺すー」って感じの夢を見たわ。」
シアンが起き上がりベッドの縁に腰掛ける。
俺も布団を退けて、足を伸ばして座る。
「……寝起きだから語彙力については突っ込まないことにして、」
琴さんがパネルを出す。
「……うん。二人とも正常ね。脈が安定してる。」
「……マスターに脈ってあるんですか?」
「失礼な。一応人間だわ。それにシアンこそ脈はあるのか?」
「私は精霊ですからね。」
「ちなみに貴方は脈無いですよ。」
「嘘……」
どうやら俺は人間をやめたらしい。
なんかショック。
「逆に臓器や脈まで再現できたらそれこそ人造人間が蔓延ってるだろうしね」
「流石に先輩でもそれは無理だろうね。」
二人が何が言っているがショックで頭に入ってこない。
「落ち着いた?」
「……ああ。」
「そんなに気に病むことじゃないだろうに。「俺は人間をやめるぜジョニー!」的なテンションで臨んだら?」
「それができたら苦労はしません。」
実際今も引きずってる。
「ともかく、無事なようでよかったわ。」
琴さんがパネルを弄りながら呟く。
「あの仮面も消滅したようだし、一難去ったようね。」
「……その言い方だともう一難あるみたいだけど?」
「いやいや、とんでもない。面倒なことは昨日全て終わらせたわ。本当に終わりよ。」
……昨日?
「ねえ、今って何日?」
「あーっとね、セレモニーから5日は経ってるわ。」
「「え?」」
「逆によく5日も飲まず食わずで生きてるわねって感心してるわ。」
……すごいな。
「て、点滴とかは?」
「剣霊さんには定期的にバフをかけて餓死や栄養失調を防いでいたわ。貴方には何もできなかったけど……」
「……さっきから俺の扱いが酷くないですか?」
「……それは認めるけど、一応、ラーメン屋の皆と相談した結果なのよ? この状態のまま死んでしまったら最悪消息不明のまま生き返らないかもってことになって、下手なことができなかったし。」
「……なんかすいません。」
下に降りてみると、いつもと変わらない景色がそこにはあった。
「あっ、悠斗。」「悠斗だ。」
真っ先に俺に気づいてくれたのは紬と凛だ。
「もう大丈夫なの?」
「まあな。バッチリ回復したと思う。」
「……悠斗がちょっとぼやけてる気がするんだけど?」
凛に言われて自分の腕を見てみると、確かに解像度が(少しだけ)荒くなっていた。
多分どこかで一発貰ったんだろうな。
「致命傷で済んでるから大丈夫。」
「「それは大丈夫じゃないでしょ……。」」
ダブル呆れ声。
「ま、こうして生きてるから問題ないだろ。」
と、何のフォローにもなってないフォローをすると
「……そうだね。英雄だもんね。」
「何も問題ないね。」
さっきとは一転、笑って返してくれた。
「英雄?」
「そう。王国の危機を救った英雄サマじゃん。」
「これで肩書がついてないのは紬だけになったね。」
「ちょっ! その内私も何か二つ名付くから!」
「はいはい。負けないように頑張ってね。」
「もー!」
……英雄ね。
「ん? どしたの悠斗?」
「いや、なんか嬉しいなって。」
「「??」」
二人が顔を見合わせる。
「「「………」」」
そして
「「「ふふっ。」」」
3人同時に笑った。
「お、兄ちゃん。もう大丈夫なのか?」
「はい。お騒がせしました。」
あの二人と離れて大将のもとへ。
このカウンターに座るのも久しぶりな気がする。
「いやー、まさか兄ちゃんがやってしまうとはな。」
「? 何をですか?」
「何をって、あの仮面の男を倒したじゃないか。」
「あー。でも、正直俺がMVPというわけではないですよ?」
大半のダメージを叩き出したはヒビだろうし、倒したのは実質秋葉だし。
俺も攻撃はしたけれど、ほとんどがシアンの手を借りただけだし。
「何話してるの?」
と、秋葉が隣に座ってきた。
「いやな、兄ちゃんが凄いことをしたなって話だ。」
「ああ、凄かったよねハルト。まさかあんな切り札があるなんてね。」
「いやいや、俺も俺がやったなんて俄には信じられないんだけど。」
右手を見る。
……すこし薄れてること以外は普通の手だ。
「でも、とどめ刺したのは秋葉だろ?」
「あれは……とどめだけど実際ハルトじゃん。」
「ん? 兄ちゃんじゃないのか?」
「「え?」」
あれ?
「実際、あの大きな光のエネルギーを出したのは兄ちゃんだろ?」
「その後ですよ。花畑で。」
「花畑? 何のことだ?」
「「え?」」
あれ? なんか食い違ってる。
「あのあと花畑で私が仮面を撃ち落として、」
「そうそう。そこから意識が消えたんだ。秋葉もか?」
「二人が倒れてから私も頭が回らなくなったのは覚えてるよ?」
「うーん、情報班の情報とは何か違うな……」
……あれ?
結局、二人とも夢を見てたという結論に至った。
「そういや秋葉、身体は大丈夫か?」
「特に問題はないよ? 魔法もいつも通り撃てるし。」
手に火の玉を出す秋葉。
「元気そうだな。」
「うん、何か討伐してくる。若葉さーん!」
燃えたマフラーを翻し、依頼カウンターの方へ向かった。
「そういや兄ちゃんの方は大丈夫か? だいぶ消耗したと思うけど。」
「大丈夫らしいですよ。魔法を撃てるかはわかりませんけど。」
もう一度右手を見る。
……この右手だよな?
「試してくるか? そこから裏庭に出れるぞ?」
厨房の横の扉を指して大将が言う。
「裏庭? 裏の裏庭に何かいるんですか?」
「二羽鶏が……いないけど、案山子がいるぞ。試しうちにどうだ?」
「あ、じゃあ行ってきます。」
裏庭には先客がいた。
「あ、お兄。」
「よっ。ヒビ。」
魔王サマもといヒビだ。
「……本当にヒビか? 俺が知ってるヒビとだいぶ性格が違うんだが。」
「まあ……ね。いろいろあったんだよ。主にオオカミくん絡みで。」
ヒビがベンチに座る。
俺も横に腰掛ける。
「その話し方はヒビだな。ってことは魔王サマのアレはキャラ付けか?」
「そんなところだよ。こうだと魔王に似つかないとかで。」
ヒビが笑いながら言う。
……見た目とかは確かにヒビだ。服装は中二チックだけど。
何で気づかなかったんだろうか?
「……やっぱり、お兄は凄いね。」
「ん?」
「だってさ、あの仮面男を倒したじゃん。あんな凄い技で。」
「凄いって、たまたまだよ。なんか出た。それだけ。」
「それでも、倒したことは事実だよ? 僕でも倒せなかったあいつを。」
再度ヒビを見る。
雰囲気は昔の病弱の優しい少年だが、ガタイはそこそこある。
……こう見ると変わっているな。
「だから、お兄は凄い。僕にできないことをできるお兄は凄い。」
そう言うと、ヒビは立ち上がった。
「コホン。 で、悠斗は何しに来たんだ?」
「はる……って、え?」
急にヒビ起きた変化に驚く。
雰囲気が完全に別人だ。
「どうした?」
「……いや、魔法の試しうちをしようってな。」
……そう。今の彼は魔王サマなのだ。
立ち上がり、彼と距離を取る。
「手合わせ願えるか? ヒビ?」
ヒビの目を見つめて尋ねる。
「……ああ!」
勇ましさと、少しの優しさを持つ声がそれに応えてくれた。
[おしまい?]
「ではないぞ。恐らく。」
冥界。反応が遅れて致命傷を食らってしまった。
「これで終わってハッピーエンドって言えるのか?」
[一件落着で大団円には見えますよ?]
「あ、そう……」
……らしいです。ハイ。
[だからもう復活は要りませんよね?]
「は!? それこそバットエンドじゃねえか!」
主に俺の人生が。
[冗談ですよ。余生を楽しんでください]
「なにその残り少ない感じの言い方は?」
[大丈夫ですよ……多分]
……凄く怖いんだが。
と、こんな感じで俺は別の世界で悠々と異世界ライフを送っている。
「そういや兄ちゃん。」
「何ですか?」
「王都から請求書が来ているぞ。」
「……え? 何それ?」
世の中とは理不尽でできている
例えば、今日みたいな日
「は? 王城修理費……?」
「何の風の吹き回しなんだろうな……?」
「俺全く関係なくないですか?」
「そのはずだが……」
「しかもバカ高いし! え? 一、十、百、千…………」
「ちなみに兄ちゃんの口座には980gしか入ってないぞ。」
「ええ……詰んでません?」
でも、そんな不条理が苦にならない日常を手に入れた。
「……いや、普通に辛いぞ。」
「月に11万g返済するにしても6年は余裕でかかる計算になるな。」
「そんなローン返す感覚で城が建つんですか……?」
こんな日々はこれからも続いていく。
「何? また悠斗何かやらかしたの?」
「あー、これは流石にハルトに同情するよ……」
「……これ、俺が手伝ったらいけないやつだよな。」
この世界で。素晴らしい仲間たちと共に。
という訳で27話でした。
これにて1章は一区切りとさせて頂きます。
拙い部分もありましたが、ここまで読んでくださりありがとうごさいます。
(物語はまだ続きます)
それでは、いつになるかわかりませんが
次章 浮遊大陸編 でお会いしましょう。




