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120.後をつけてみましょう


 離宮の門を潜りやってきたリディウスさんを、私は前庭で出迎える形になった。

 ピリピリとした空気を気にする様子もなく、リディウスさんが一直線に歩いてくる。


「リディウスさん、ごきげんよう。どのようなご用事でいらっしゃったのですか?」

「届け物だ。レティーシア様が読みたいと言ってていた書物が見つかったから、僕が届けに来た」

「……それだけのために、リディウスさんがわざわざ離宮まで?」


 研究一筋のリディウスさんは、ほぼ魔術局に住み着いている状態らしい。

 よほどのことが無い限り、魔術局を離れることはないだろうと、オルトさんが苦笑交じりに語っていた。


「……レティーシア様のためだからだ」


 言いつつも、リディウスさんが顔を反らした。

 どう見ても怪しかった。


「っ、おいおまえっ‼ どういうことだよ⁉」


 キースが食い掛った。

 あからさますぎるリディウスさんの態度に、我慢できなくなったようだ。


「リディウスおまえやっぱり、レレナを誘拐したんじゃないか⁉」

「……なんだって?」


 リディウスが視線を険しくし、キースを睨みつけた。


「酷い勘違いだ。適当なことを言わないでくれ」

「勘違い⁉ ならこれは何だって言うんだよ⁉」

「‼ それはっ……‼」


 オルトが指さした水色の羽に、リディウスの顔が固まった。

 表情を隠すように、ぷいと背後を向いてしまう。


「……用件は済ませた。帰らせてもらおう」

「逃げるのかっ⁉」


 キースの叫びにも振り返ることなく、リディウスの背中が小さくなっていく。


「待てよ‼ 止まらないと――――レティーシア様⁉」


 リディウスへと槍を向けるキースの前に、私はすいと立ちふさがった。


「キース、槍をおさめて。そのやり方じゃ、何も解決しないわ」

「ですがっ……‼」


 キースが歯噛みしている。

 激情をぶつけるように、強く槍を握りしめていた。


「キース、落ち着いて。私も何もせず、リディウスを見逃すつもりはないわ」

「……何か考えがあるのですか?」


 キースの浮かべた疑問へと私は、


「釣りよ」


 そう返したのだった。


 ◇ ◇ ◇


 ――――とっぷりと夜が更けた頃。

 魔術局近くの木陰に、私とルシアンは身を潜ませていた。


「……来ますかね?」

「おそらく来るはずよ」


 声を潜め会話していると、魔術局の裏出口からひっそりと出てくる影がある。

 闇に溶け込むような、黒いマントに黒い髪の組み合わせ。

 私の予想通り、険しい表情をしたリディウスさんだった。


 リディウスさんはあたりを見回すと、道を外れ暗い木立の中を進んでいく。

 こちらも見失わないよう、静かに後をつけていった。


 夜の森を進んでいくと、木立がまばらな場所にたどり着く。

 月光を浴び佇むリディウスさんへと、近づいてくる人影があった。


「……リディウス、こんな時間に人目のない場所に呼び出して、一体なんのつもりだ?」


 姿を現したのは魔術局所属の魔術師、ベレアスさんのようだ。

 訝しむベレアスさんへ、リディウスが鋭い視線を向けていた。


「一つ確認したいことがある」

「何だ? もう夜も遅いんだ。手短にしてくれ」

「……ベレアス、君、レレナの誘拐に関わっているだろう?」

「っ……!」


 ベレアスさんが息を呑んでいる。

 突然の問いかけに、動揺を隠しきれていないようだ。


「いきなり何を言い出すんだ? リディウスおまえ、また魔術研究に没頭して睡眠を削ったんじゃないか?」

「違う。僕は正気だ。時間の無駄だから誤魔化さないでくれ」


 リディウスさんが手にした杖を構える。

 魔術式の刻まれた杖は、魔術の発動を補助する効果があった。

 熟練した魔術師が杖を用いればごく短い詠唱で、攻撃魔術を放つことが可能だ。

 リディウスさんの本気に、ベレアスさんの気配が揺らいでいた。


「……そうか」


 呟きと共に、ベレアスさんの肩が落ちた。


「おまえ、なぜ感づいたんだ?」

「偶然だ」

「魔術一筋で他に興味の薄いおまえが、私が怪しいと偶然感づいたと言うのか?」

「……昨日、魔術触媒のありかを聞こうと君を探していたら、部外者と話し込んでいたところだった」

「あの時のことか……。私もおまえもついていないな」


 天を仰ぐベレアスさんには、心当たりがあるようだった。

 焦る様子もないベレアスさんに、リディウスさんが険しい表情をしている。


「あの時たまたま、君たちの会話が聞こえてしまったんだ。『誘拐した』『例の場所へ監禁を』『協力してくれ』『共犯だろう』……途切れ途切れにしか聞こえなかったが、物騒なのは間違いなかったからな」


 立ち聞きの結果リディウスさんは、ベレアスさんを疑い始めたようだ。

 こっそりベレアスさんの後をつけ、レレナの監禁場所に一度足を運ぶことになったに違いない

 その際に偶然、マントの間にでもはさまっていた、水色のくるみ鳥の羽を落としてしまったようだ。


「……ベレアス、これ以上誘拐に加担し、罪を重ねるのはやめにしてくれ」


 杖を構えながら、リディウスさんがベレアスさんへ語りかけた。


「だからおまえが、私を止めにきたのか?」

「そのつもりだ」

「……断ると言ったら?」

「魔術を使うまでだ」


 リディウスさんが詠唱を始めた。

 高速で呪文が唱えられ――――


「馬鹿が」

「ぐっ⁉」


 リディウスさんの腹に、ベレアスさんの膝がめり込んでいる。


「この距離なら、殴る蹴るの方が早いだろうが」

「なっ、おまえ……!」

「……だからおまえは魔術バカなんだよ」


 意識を失ったリディウスさんを、ベレアスさんが受け止めている。

 リディウスさんを草の上に横たえると、がしがしと頭をかいていた。


「……魔術バカのくせに、どうして気づいちまったんだ」


 間が悪い奴め、と。

 哀れむように呟くベレアスさんへと、


『――――投げよ雷の網‼』

「がっ⁉」


 私の放った雷が直撃したのだった。


お読みいただきありがとうございます。

次は明後日、火曜日に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ん? 安易に攫われたことを教えてるけど… 研究所の職員が知ってる(?)というのは、王宮中にもう知られてるのですか?
[一言] なるほど リディウスお手柄だな 最後はかっこ悪かったけど
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