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番外編その2 いっちゃんにおはようとお休みを

以前行ったアンケート結果を元にした、いっちゃんの番外編です。

だいぶお待たせしてしまいました。

最初はいっちゃん一人称で書いていたものの行き詰まり……。


……一人称、難しいですね。

書き直した結果、レティーシアの目線で、いっちゃんのおはようとお休みを見る内容になりました。


時間軸としては本編114話(この番外編の前に掲載されている話)と115話の間あたりになります。

ささやかないっちゃんとの日常を、楽しんでいただけたら嬉しいです。


「んんっ……」


 小さく鼻を動かすと、甘い香りを感じた。


「……もう朝ね……」


 目を覚まし、一番最初に吸い込む苺の香り。

 それがここのところもっぱらの、私の日常だった。


「いっちゃん、おはよう」

「にゃっ!」


 すぐ近くで鳴き声がした。

 瞼を開け顔を横に向けると、いっちゃんの瞳と目が合う。

 朝の光を浴びて、ライトグリーンの瞳が宝石のように輝いている。

 床に二本足で立ち、寝台のふちに前足をかけこちらを覗き込んでいるようだ。

 

「今日もいっちゃんはいい香りね……」

「うにゃっ!!」


 勿論ですとも!

 と言うように、いっちゃんが頷いている。


 毎日苺を食べているせいか、いっちゃんの体からはほんのりと、苺の香りが漂っている。

 本当にかすかな香りだけど、こうして近くでいると、甘酸っぱい香りを感じることができた。


「にゃにゃっ!」

「わかったわ。ちょっと待っててね」


 急かすいっちゃんに応え、枕から体を起こした。

 いっちゃんは毎朝、朝ご飯を催促しにやってくる。

 ここのところ気温が上がってきたせいかご無沙汰だけど、以前は布団の上にのしかかり催促してきたのだ。 


「レティーシア様、おはようございます」


 サイドテーブルの上の鈴を鳴らすと、少しして盆を持ったレレナが入ってきた。

 盆の上にはルシアンが淹れてくれた紅茶と、いっちゃん用の苺ジャムが載せられている。


「おはよう、レレナ。朝一で会うのは珍しいわね」

「メリナさんは今、ジルバートさん達と一緒に城下の朝市に行っているみたいです」

「それは楽しみね。今回はどんな食材を仕入れてきてくれるかしら」


 いつも目覚めの紅茶を持ってきてくれる侍女メリナ。

 使用人同士、ジルバートさんとも仲良くしているようで、よい食材を求め時折、一緒に王城の外へ出かけていることがあった。


「いっちゃん、お待ちかねの朝ご飯よ~。……食べないの?」


 いっちゃん用の器に苺ジャムを装ったのに、なぜか口に運ぼうとしなかった。

 どうしたのかと見ていると、いっちゃんが紅茶のカップを見上げている。


「……飲みたいの?」

 

 いっちゃんが頷いた。

 そういえば私は昨日、目覚めの紅茶に苺ジャムを入れ飲んでいた。

 どうやらいっちゃんも、真似したくなったようだ。


 レレナに頼み、いっちゃん用のジャム入り紅茶も持ってきてもらうことにする。

 カップの半分ほどまで入れられた紅茶を前に、いっちゃんがおひげを揺らしていた。  

 

「いっちゃんは猫舌だから、ちょっと待っててね」

 

 猫そっくりのいっちゃんは、やはり熱いものは苦手のようだ。

 本物の猫ほどとはないとはいえ、淹れたての紅茶は少し待つ必要があるようだった。

 じっとカップを覗き込み、肉球をかざし温度を測るいっちゃん。

 しばらくすると慎重に、カップの持ち手を掴み口元へと持っていった。


「……にゃっ!」 


 この食べ方もイイネ。

 と言うように、カップ片手にいっちゃんが頷いている。

 まるで人間のようなその姿に目を細めていると、レレナがいっちゃんを見つめていた。

 山猫族なだけあって、レレナも猫そっくりないっちゃんが好きなようだ。


「今なら、いっちゃんのこと撫でられるはずよ」

「私がいいんでしょうか?」


 レレナは遠慮がちにしている。

 彼女の連れてきた黒猫メランといっちゃんが不仲なのを、気にしているようだった。


「メランはメラン。レレナはレレナよ。レレナのことは、いっちゃんも苦手じゃないもの」

「なっ!」


 肯定するように、いっちゃんが鳴き声をあげた。

 背中を押され、レレナがいっちゃんへとしゃがみこんだ。


「かわいい……。それにいい香り」


 いっちゃんの撫で心地と、ほのかに漂う苺の香りを感じて。

 レレナが小さく、頬をほころばせたのだった。



 ◇ ◇ ◇ 



「あら、いっちゃん、これから散歩へ行くの?」


 ぴよちゃんにくるまれ、その後身支度を整え、朝食を取り終えた時。

 一階の廊下を歩いていると、玄関へと向かういっちゃんとすれ違った。

 いっちゃんはちらとこちらを振り返り頷くと、そのまますたすた歩いて行く。


「ここのところ毎日、どこへ行ってるんでしょうね?」


 背後に控えていたルシアンが小さく疑問を口にした。


「わからないけど、危ないことはしていないみたいよ」


 いっちゃんに聞いても、散歩という以上のことはわからなかった。

 少し気になるけど、「危険な場所には行かないようにする」と約束してくれているので、追及しないことにしている。

 自由にストレスなく生活できるよう、いっちゃんのやりたいようにさせていた。


「いっちゃんにも、いっちゃんなりの付き合いがあるかもしれないものね」


 庭師猫という幻獣であるいっちゃんだけど、離宮にいる猫の中には、仲の良い子もいるようだ。

 離宮の外の猫にも、顔見知りの相手がいるのかもしれなかった。



 ◇ ◇ ◇ 



「ぴよっぴ!」


 いっちゃんの帰宅に気づいたのは、私ではなくぴよちゃんが先だった。

 鳴き声の向けられた方向を見ると、燭台の灯された廊下を四本の足でいっちゃんが歩いている。


「ぴぴよぴぴっ!」


 何やらぴよちゃんが、いっちゃんへと話しかけている。

 初対面時、いっちゃんに突撃をかましビビらせたたいっちゃんも、今は私とルシアンが教え込んだ結果、いっちゃんへの急接近は控えるようにしていた。


 ぴよちゃんの呼びかけに、いっちゃんは立ち止まりしばらく考え込み。

 やがてするりと、サバトラの体をぴよちゃんへとすり寄せていく。


「ぴっ!」


 これ幸いとくるみこんでくるぴよちゃんを、いっちゃんも受け入れている。

 ライトグリーンの瞳を細め、ふわふわの羽毛を堪能しているようだ。

 しばらくすると、もう満足と言うように、いっちゃんが体を離していく。


「ぴぃ……」

「にゃっ!」


 名残惜しそうなぴよちゃんに構うことなく、いっちゃんがこちらへ近づいてくる。

 実に猫らしい、マイペースなその姿。

 ふわふわを満喫して次は、苺料理でお腹を満たしたいようだった。

 


 ◇ ◇ ◇ 



「うにゃうにゃ……」


 苺タルトに苺アイス、そして練乳掛けの生苺。

 たっぷりと苺フルコースを味わったいっちゃんが、寝床の上で丸くなっている。


「今日はたくさん散歩をして疲れたのかしら?」


 頭を撫でると、いっちゃんが喉を鳴らした。

 もふもふ、ごろごろ、もふもふ。

 喉を鳴らすいっちゃんは、いつまででも撫でていられそうだ。

 目を細めうっとりと撫でていると、やがて少しずつ、ごろごろ音が小さくなっていく。


「おやすみなさい、いっちゃん」


 瞳を閉じ、夢の世界へと旅立ったいっちゃんからは。

 朝と同じようにふわりと、苺の香りが漂っていたのだった。

 






お読みいただきありがとうございました。

本編の続きも本日23時ごろに更新予定なので、よろしくお願いします。

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