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第八夜-2


☆2


 青尉はまた学校を休んだ。

 時は昼休みである。辰生は携帯をいじって情報収集に努めていた。駄目だと分かっているのに、貧乏ゆすりが止まらない。――さっきから、流れてくる情報と言えば、ユウレカがM=Cを襲ったとか、グレムリンが倒されたとか、そんな物騒な、しかも信憑性は全くない噂ばっかり! その上――辰生は空っぽの隣の席をちらりと見て、溜め息をついた――状況的にも内容的にも、少尉が関わってそうで怖いんだよな・・・。怪我人のくせに、無茶なことばっかりしやがって!

 むうううう、と、携帯を睨みつけて唸る辰生を、柚姫(ゆずき)は背中から罵倒した。

「・・・何やってんの円谷。キモイんだけど。」

「あ? あぁ、葉山――」――と、望月もいる。

 青尉の席に望月が座り、柚姫は机の上に腰掛けてゆったりと腕を組んだ。「あんたも大概ぼっちだよな。青尉以外に友達いねぇのかよ。」

「いや、いるわ。いねぇわけないだろ。」

「ふぅん?」と、柚姫は半信半疑な目つきになった。「ところで、アイツは今日は何で休んでんの?」

「それがさぁ、いっくらメールしても全然返信来ねぇんだよなぁ。病院とかだったら神島先生が言ってただろうし、普通にただ欠席ってだけなら返信あってもおかしくねぇのに。」

「寝てんじゃない?」

「・・・それは・・・ありそうだな。」

「あーでも、確かに何かあったかもなぁ。」柚姫はあっさり言を翻し、今朝見た光景を思い返した。「アイツん家前を通ったらさ、バイクが数十台って並んでたから。ま、大方、朱将さん――青尉の兄貴な。お兄さんの関係だろうけど。あんなにたくさん集合すんの久々に見たからな。」

「へぇー・・・」平然と相槌を打ってから、今聞いた話が並の話ではない、ということに辰生は気が付いて、「・・・少尉のお兄さんって、どんな人なんだ?」

「お前なら知ってるだろ? 数年前にすげー噂になった、『農高の赤鬼』っての。」

「『農高の赤鬼』っていうと・・・あれだろ。西商を1人で叩きのめした、とか、学校の壁に拳がめり込んだ跡がある、とか、3階から落ちて無傷だった、とか、背後から鉄パイプで殴られても笑ってた、とか―――」

 望月が小さな声で「それって本当に人間なの?」と呟いた。

 柚姫は頷いた。

「うん、人間だよ。その人、青尉の兄貴だから。」

「えっ。マジで?」

「マジマジ。」

 ちなみに、噂の9割方は真実だから。と柚姫は飄々と付け加えた。

 辰生は苦笑いを浮かべて、黙るしかなかった。――まったく、兄弟揃って凄いやつばっかりなんだな、刀堂くん家はっ? それからふと携帯に目を落として――・・・え? あれ? 何だコレ。ちょいちょいちょいちょい、待って待って。パッと目に飛び込んできた文字列を見て、辰生は慌てて画面をスクロールした。見ていたのは、能力者マニア達の能力者マニア達による能力者マニア達のためのチャットルーム『電光会議室』である。少し目を離していた内に、話がずんずん進んでいっていたために、何の話をしているのか全く分からなくなっていたのだ。

 ええと・・・読んでないのはここからか。


>267:ハンニバル  【速報】M=Cがユウレカに宣戦布告!

>268:ぱっくまん  え、ちょ、それガチ?

>269:bbsb  いや、ガセだろ。いくらハンニさんの情報でも、さすがに信じられん。

>270:ハンニバル  そ、れ、がっ、ガチなんですよ~。

>271:ハンニバル  ちょっとソースは極秘なんですけど、信憑性は90パーですんで!

>272:M&Ms  ソースって中濃? それともウスター?

>273:ぱっくまん  黙れドMのソース厨

>274:M&Ms  やだっ、そんなに褒めないで(はぁと)

>275:ハンニバル  どちらかと言ったらウスターソースですかねー

>276:bbsb  のるなよハンニさん。

>277:bbsb  それよか詳細はよ。

>278:ハンニバル  りょかです。ではでは、長文行きますよー。

>279:ハンニバル  昨夜遅く、M=C第一支部がユウレカの戦闘部隊に占拠されたって噂はもうお聞きしているかと思いますけど、それは本当のことです。ここでも度々話題になっていた『能力封じ』の方法、どうやらユウレカさんはしっかり開発に成功していて、実戦にも登用されたみたいですね。それによってM=C第一支部が陥落、と。一部外に出ていたM=Cメンバーか、どうにか逃げ延びたメンツかが本部に報告し、M=C上層部がキレた模様です。で、ついさっき宣戦布告がなされました。第一支部の解放と、この件に関する損害への賠償を要求し、それが本日夜9時までに果たされなかった場合、即時報復に向かう、と。続))

>280:ぱっくまん  マジで? いやこれマジで?

>281:M&Ms  全面戦争開始的な雰囲気じゃなぁい?

>282:bbsb  冗談じゃ済まされないぞ・・・。

>283:ハンニバル  対するユウレカさんですけど、M=Cさんの要求に応じる気配はなく、むしろ宣戦布告を受けて立つような動きを見せているようです。県内にどんどん戦闘部隊を送り込んできていて、M=Cさんの第一支部を仮の拠点に、迎え撃つ様子です。全面戦争、ガチで始まっちゃうかもしれませんよ。

>284:bbsb  ハンニさん、これどこ情報?

>285:M&Ms  おっ、それ自分も気になる!

>286:ハンニバル  えへへ~、すいません、そっから先は詮索なしで頼みます。

>287:ハンニバル  そういや、りんどぶるむさん、いらっしゃいます?

>288:ぱっくまん  さぁ、さっきまではいたけど。なんか用なん?

>289:ハンニバル  いや、用ってほどじゃあないんですけど。

>290:M&Ms  怪しいにゃあ、何の用かにゃあ

>291:ぱっくまん  黙れドM似非猫もどき

>292:M&Ms  似非、と、もどき、は一緒だと思うんだにゃあ(笑)

>293:ハンニバル  先日話題に上がった『最強の能力者』さんについて、ちょっと僕でも信じがたい情報が入って来たのですけど・・・。

>294:ぱっくまん  それってあれだろ。この間の駅前のテロ鎮圧したヤツ

>295:M&Ms  代名詞が多いんだにゃあ

>296:ぱっくまん  いい加減にしないと殴るぞドM

>297:M&Ms  それはむしろご褒美だにゃあ! ぜひお殴り下さいにゃあ!

>298:bbsb  最強の能力者がどうかしたのか?

>299:ハンニバル  ユウレカさんが宣戦布告に乗っかったのが気に掛かって、ちょっと深めに調べてみたんですよね。そしたら、ユウレカさんが『最強の能力者』を捕まえたっていう話が出てきていて・・・。

>230:bbsb  ・・・さすがに、嘘だろう?

>231:ハンニバル  僕も、嘘だと信じています。

>232:M&Ms りんどぶるむくーん、最強の能力者さんについては、君が一番詳しいんじゃないのかなー?

>233:ハンニバル  僕もそう思ったんですけど・・・何か知りませんか?


 ここまで読み、数秒かけて事態を飲み込んでから、辰生――りんどぶるむ、と呼ばれている彼は、慌てて画面に指を走らせた。今までは適当に誤魔化しつつ情報収集してたけど・・・こんな状況だったら、もう隠しておく必要ないな! そう判断し、『最強の能力者』が自分と同じ学校に通う友人であること、そしてその彼が今日学校を休んでいること、などを隠していたことを謝罪しつつ発言した。そして、さらなる情報の提供を求める。


>235:りんどぶるむ  すみませんっ、そういうわけなんで、情報よろしくお願いします!

>236:bbsb  了解した。全力で事に当たる。

>237:ハンニバル  そっか、それは心配ですね。僕ももうちょい無茶してみますねー!

>238:ぱっくまん  おおおお、なんかすげぇ事態になってきたなぁ!

>239:M&Ms  世間は狭いんだにゃあ・・・こっちもちょいと、あちこち当たってみますよん。

>240:ぱっくまん  おちおち寝てらんねぇな! さっそく潜ってくるぜ!

>241:ハンニバル  りんどさんの追加情報もお待ちしてますよ~

>242:りんどぶるむ  もちろんっす! じゃあ、ちょっと一旦落ちますね!


 チャットルームからログアウトするなり、辰生は鞄を掴んだ。

「あ、葉山っ、少尉ん家の場所教えて!」

「えー、なんでー?」

 柚姫は実に気だるげに返事をしたが、「頼む!」と両手を合わせた辰生の真剣な表情に、眉を顰める。

「・・・何かあったのか?」

「・・・。」辰生は無言で頷いた。

「よし、じゃあ私が案内してやる。」

「えっ?」

「詩桜里、私、なんだか急にお腹痛くなってきちゃったー」――棒読みここに極まれり、という調子でそう言って、柚姫は親指を立てた――「ってわけで早退すっから、後のことはよろしく。」

 望月は溜め息をついた。すっぱりと諦めよう。もとより、この破天荒な女は自分で決めたことは絶対に曲げないと、まだまだ短い付き合いながら、骨身に染みてわかっているのだ。

「わかったわよ・・・で、あんたも行くってわけね?」

「えっ、おっ、おう!」

 望月は再び嘆息した。あぁあ、こんなに溜め息ばっかじゃ幸せなんか寄ってくるはずが無いわ・・・ま、仕方ないわね。何にせよ――「気を付けて行ってきなさいよ。んで、行くからにはちゃんとやってくること。・・・刀堂にもよろしく」

「あぁ、ありがとな、望月!」

 ――この笑顔にほだされるようになったのが運の尽きだ。

 柚姫はひょいとリュックを肩にかけた。

「オーケー、それじゃあ、さっさと出よう!」


☆3


 青尉の家は、辰生が思っていた以上に壮観だった。二階建ての一軒家。塀で囲まれた敷地内には、普通の家と同じくらいの大きさの納屋と、車が三台は悠々と置ける広さの庭。そこに色とりどりのバイクが何十台と鎮座している。

「けっこう・・・でかいっつーか、広い、な。」

「農家の家なんてこんなもんだよ。」

 実にあっさりとそう言って、柚姫は我が家のように敷地内へ踏み入った。玄関脇のチャイムを押して、返事がくるのを待たずに戸を開け放つ。農家の家などこんなものだ。最新の防犯システムはご近所付き合いである。

「こんちはー。葉山ですー。・・・って何してんですか、朱将さん?」

 柚姫は呆れたような声を上げた。戸をくぐってすぐ左手側にある広い和室で、朱将がやんちゃそうな青年――良平――にヘッドロックをかけていたからである。

「何って、ヘッドロックだけど――」と、素直に答えて、ふと朱将は、今が平日の午前中であることを思い出したらしい。「――それよかお前、何でウチにいんだよ。学校はどうした?」

「早退してきました。」

「はぁっ?」

「青尉はいますか?」

「っ・・・。」

 強張った朱将の顔を見て、柚姫は察したらしい。

「まさか、本当に誘拐されたんですかっ?」

「・・・その話、どこから聞いた。」

「コイツからです。ほら、円谷。」

「ふえっ?」唐突に話を振られて、辰生は飛び上がった。それから慌てて、朱将に向かい頭を下げた。「あっ、はっ、初めまして! 円谷辰生って言います! 少尉――えと、青尉の、友人っす! それでその――」辰生は一瞬だけ、どう話したものか迷って、「――『電光会議室』っていうチャットで、最強の能力者がユウレカに攫われたって噂が出てて、そんで、ほんとに青尉が休んでるから、何かあったんじゃないかって思ってそれで・・・来たんですけど・・・。」

 ここで言い淀んだ辰生が恐る恐る顔を上げて朱将を窺うと、彼は険しい表情のまま、「まぁ、とりあえず上がれよ。」と、顎で2人を呼んだ。

 銘々に「お邪魔します。」と言って和室に上がり込み、その場の異様な面子と空気感に、辰生は正直怯えを隠せなかったのだが、

「――あれっ、M=Cの人じゃんっ?」

 M=Cの少女――鳴神速美を見つけた途端、素早く駆け寄った。

「なぁなぁ、第一支部が落とされたって本当?」

「えっ・・・どうして、そのことを?」と、速美。

「噂で聞いた。うわ、ガチなんだコレ。したら、M=C本部がユウレカに宣戦布告したってのも、マジ?」

「はいっ?」速美は目を剥いた。「え、待ってください、そんなの初めて聞きましたよ!」

「じゃあこっちはガセ・・・? いや、待てよ・・・」と、辰生はスマホを開いた。そこではチャットルームがいつにない盛り上がりを見せている。「目撃情報多数・・・やっぱ、M=Cの主戦力が集まってきてるみたいだな。ユウレカの移動も確認済み、っと。ってことは――」辰生は思考を巡らすように天井を仰いで、「――なぁ、M=C第一支部って、(あずま)川上流? 流筝(りゅうそう)の北の、一般民家?」

 速美の顔があからさまに引き攣った。『何故それを。』とはっきり書かれた顔を見て、辰生が頷く。

「当たりか。ってことは、あそこだから・・・あの周辺に張り込んでもらえば動向が分かるかな。」

「あ、あの・・・あなた、何者です・・・?」

「いや、俺はただの、能力者オタクだけど。」

 平然とそう答えた辰生に、速美はもう何を言う気にもなれなかった。

 不意に、廊下をパタパタと歩く音がして、「朱兄ー、全部で何人――」黄佐が顔を覗かせた。そして、「――・・・あれ。なんで増えてんの? ていうか、柚姫ちゃんっ? どうして・・・学校は?」

「早退してきました。」これ言うの2度目だな、と内心で呟く柚姫。「青尉が誘拐されたって聞いたんで。」

 柚姫の言葉に、黄佐は表情を曇らせた。「・・・その話、もうそんなに広まってんの?」

「いや、ここだけの話っすよ。」と言ったのは辰生だ。「『電光会議室』は基本的に、外への情報発信はしない方針でいるんで、大丈夫だと思います。」

 そこで初めて黄佐は、辰生を視界に収めて、「『電光会議室』・・・って、まさかあの、会員制の?」

「はい、そこです。」

「能力者の情報が最も早く、最もたくさん集まる場所って言われてる――」

「――まさにそれです。俺、こう見えても実は、そこの会員なんで。」

「っし、情報源来たコレ!」黄佐は隠さずにガッツポーズをした。それから取り繕うように笑みを浮かべて、「あ、俺は刀堂黄佐。こっちは俺の兄貴で、朱将。青尉のお友達かな? よろしく。」

「はい、円谷辰生って言います。青尉がヤバいってことは知ってるんで、全面的に協力します! よろしくお願いします!」

「そう言ってもらえると有り難いよ。早速で悪いんだけど、M=Cとユウレカの動き、どこまで分かる?」

 辰生は不敵に笑った。「ネットさえあれば、どこまででも。」


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