Fw190
バトルオブバミューダのバトルロワイヤル戦は海戦マップで行なわれる。
事前の予想通り、あたしはひどい混戦の只中に叩き込まれていた。
「うおっとっ!」
斜め上方から降り注ぐ曳光弾をかわす。撃ってきたスピットファイアが離脱していくが、追撃はできない。真正面から別の機体が迫っていたのだ。F4U〝コルセア〟――アメリカの海軍機だ。武装は12.7mm機銃を6門備えている。いま機首を上げたら蜂の巣だ。
あたしはあえて正面対決を避けなかった。
(――零戦じゃないし、いけるっしょ!)
今回、あたしはFw190という戦闘機に乗っている。
ヘッドオンでの射撃時間は一瞬。すれ違ったコルセアはエンジンを撃ち抜かれ、黒煙を吹いていた。あたしが撃った20mm弾と13mm弾の仕業だ。こちらも被弾してしまったが、ほぼ影響はない。
「さすが丈夫で長持ち、ドイツの軍馬! やっぱりバトルロワイヤルに向いてるわ、こいつ」
コルセアは一応まだ飛んでいるが、もはや瀕死状態だ。カメラをまわすと先ほどのスピットファイアが戻ってきていた。
「うわー、うっざ」
あたしはFw190を降下させた。スピットファイアはあっさり後ろにつくと撃ち始める。向こうがだいぶ優速っぽい。
「……ばっちり貯めてきやがったな」
素早くロールを打ち、弾雨をかわす。この機動こそがFw190の真骨頂である。スピットファイアは追従しきれないようだが、有利な立場であることには変わりない。
(この機体じゃ旋回戦は完全アウト。ガンガンロールしてスピットを前に押し出すしかないけど……)
バトルロワイヤル戦のステージⅢともなれば、参加機は強者揃い。こっちの目論見には乗るとは限らないけど、他に手もない。
あたしはロールしながらスロットルを閉じ、さらに着陸フラップを全開にした。空気抵抗が増え、速度がみるみる落ちていく。Fw190は着陸フラップが異常に頑丈で、ほとんどの速度域で使用できる。スピットファイアが同じ真似をしたら、フラップが壊れて吹き飛ぶだろう。
賢明にもスピットファイアは急減速につき合わなかった。速度を保ったままFw190を追い越し、右方向へひねりを加えながら急上昇していく。撃てるか? いや、ダメだな。旋回力不足でエイムを合わせきれない。無理に追いかけて昇ればこっちが死に体になってしまう。ともあれ、危機は脱していた。
「はー、ヤバかった。仕切り直しだわ」
あたしはFw190の機首を左へ向けた。降下を続けながらスロットルを開き直し、スピットファイアから距離を取っていく。突然、後方から爆発音が轟いた。
「ありゃっ!?」
スピットファイアは多数の爆煙に包まれ、炎を吹き出していた。対空砲火を喰らっているのだ。見れば海上を遊弋する何隻もの対空砲船〝Flakフェリー〟が、満載した砲を撃ちまくっていた。あたしは慌ててマップを確認する。
「あいつ、戦闘空域外に出ちまったのか……」
バトルロワイヤル戦には厳密な戦闘空域が定められている。戦闘空域はスタート後、徐々に狭まり、最終的には開始時の1/6ほどまで縮小する。もちろん事前に警告表示はされるが、空域の縮小時に退避が間に合わなかったり、うっかり空域外に出てしまった機体には正確無比の砲火を加え、懲罰を下す。
ちなみに陸地部分には高射砲塔〝Flakタワー〟がにらみをきかせ、さらに高空には巨大な対空飛行船〝Flakエアシップ〟が戦闘空域周辺を巡行している。
完全に打ち砕かれ、スピットファイアは細かい破片になって落下していった。あたしが撃ったコルセアも、とっくに他の機体に撃墜されている。
とにかく目立たないように行動しよう。バトルロワイヤル戦では敵を墜とすより、終盤まで生き残れる立ち回りが重要なのだ。スコアを稼ぐ必要はない。
周囲を警戒しつつ、あたしはFw190をじわりと上昇させた。
□
最終的にあたしは四回目の挑戦でステージⅢを勝ち抜けた。これによって三つのイベントメダルが揃い、無事天鷲を入手した。早速テスト飛行をしてみたのだが、零戦とは真逆な性能だった。
高空へ昇れるだけのエンジンパワーがあり、高度8000mで730km/hも出る。マジで爆速だ。武装は同じ日本の戦闘機Ki-84 hei〝疾風〟と同じだが、20mmの装弾数が400発と多めなのが嬉しい。
ただし旋回性能はダメだ。マジで日本機か疑わしくなるほど曲がらない上、すぐ速度が落ちる。大きな機体にメガ盛り装備を詰め込んでいるせいでクソ重く、エネルギー保持率が悪い。機首が長いからぱっと見スリムだが、実態はぜんぜんデブなのだ。低中高度で格闘戦をやろうものなら、簡単に墜とされるだろう。
まあ降下制限速度は920km/hだし、高速域でも舵の反応自体はいい。ロール性能もそう悪くないから、高速を維持して上空からの一撃離脱を徹底できれば活用できそうではある。
「……よし」
テスト飛行を終えたとたん、机の上でスマホが振動する――恵美からの着信だった。




