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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第五十話 穴の先へ

 いつまでも届かない出口を眺めていても仕方がない。刹那たちは先に続く洞窟を進んだ。と、十分ほど歩いて凛が突然立ち止まる。


「ちょっと待って」

「ん?どしたの?」

「なんか、揺れてない?」


 刹那はその場に立ち止まり神経を集中してみたが揺れなどは感じない。


「気のせいじゃない?」


 再び歩き始めた刹那に置いて行かれないように、凛も後に続いた。

 だがそれから五分もしないうちに再び凛が足を止めた。


「また揺れた」

「だから、気のせいだって」


 相手にしようともしない刹那の言葉に納得できないのか、凛はしゃがみ込み地面に手を付ける。


「やっぱり揺れてる」

「そこまで神経質にならなくても――ッ?」


 刹那の言葉を遮るかのように突然足元が揺れ始めた。手を付けなくても分かるくらいの大きな揺れだ。


「なんだこれ?」

「とにかくここにいたら危ないわよ!」


 凛が声を荒げるのも無理はない。揺れによって天井の破片がポロポロと落ちてきているのだ。下手をすればこのまま生き埋めになってしまう。


「戻りましょう!」


 凛が叫び来た道を戻ろうとした時だ――


「危ない!」


 凛の目の前で轟音とともに壁が崩れる。だが、それと同時に彼女の体が後ろに引っ張られ、土砂の雨とでもいうべき光景を凛はほんの鼻先で見ることになった。


「あ、ありがと」


 寸でのところで刹那が凛の腕を引っ張り下敷きになるのは避けられたが、道は完全に塞がれ、戻ることは出来なくなってしまった。

 まだ揺れは収まらない。それどころか、段々と強くなっている気がする。


「こっちだ!」


 戻ることが出来なくなった今、進むしか道はない。刹那たちは先の分からぬ道を突き進んだ。

 進めど進めど同じような岩壁ばかり、その間も揺れは強くなっていく。そして、追い打ちをかけるように轟音が響き渡り、刹那たちのほんの五メートルほど後ろから洞窟が崩れ始めたではないか。


「マジかよッ?」


 崩れる洞窟に飲まれないように刹那たちは全力で走った。少しでも走る速度を緩めればこの洞窟と運命を共にすることになってしまう。

 だが無情にも崩落の速度はどんどん上がっていく。五メートルほど後ろだったのが今や二メートル後ろまで迫っている。

 激しい崩落の音に耳が痛くなる。舞い上がる土煙で呼吸がし辛くなり、視界は悪くなる一方だ。


「くそっ」


 このままではいずれ追いつかれる。ここで生き埋めになってしまうのか。

 そしてついにその魔の手は刹那たちの真後ろまで迫ってきた。

 崩れた土が背中に当たる。


 ここで終わりなのか――


「見て!あれ!」


 凛が指差した先には開けた場所が見えた。もしかしたら先ほどと同じような場所につながっているのかもしれない。


「飛ぶぞ!」


 刹那の掛け声とともに二人はその場所へ飛び込んだ。

 間一髪、滑り込むようにして二人はその空間へたどり着いた。振り返ってみると崩れた土砂が洞窟への入り口を塞いでいる。

 危なかった。あと数秒遅れていたら、あの中に生き埋めになっていたところだ。


「ふぅ~、何とか助かった」


 命拾いした刹那が立ち上がると、そこは先ほどと同じような人の手の入った場所だった。見慣れぬ装置がたくさん置かれ、その無機質な沈黙が不気味さを漂わせる。


「さっきの場所もだけど、こんなに機械があるなんて、いったいなんなんだここ?」


 何らかの手がかりがないかと辺りを見回すと、不思議そうにこちらを見る凛の姿があった。


「ん?なんかあった?」

「あのさ、聞いて良いかな?」

「どうぞ?」

「機械って何?」

「え?」


 一瞬、刹那の時間が停止した。

 彼女が何を言っているのか理解できない。機械は機械だろう。


「機械ってあの鉄の塊のこと?」

「あ、うん」


 いくつかの機械の中から凛が適当に一つを指差し、刹那が肯定するようにうなずいた。凛はそれを認めると、その機械をマジマジと見つめ、「ふ~ん」などと言いながらその機械に近づいてペタペタと触り始めた。


「これが機械って言うのか。それにしても、よく君、そんなこと知ってるね?」


 不思議そうに刹那の方を見る凛は、とても自分をからかっているようには見えない。


「本当に機械って知らないの?」

「知らなくて悪かったね。でも、私だって大和のいろんな所に行ったけど、機械なんて見たことないよ。君、どこで機械なんて見たの?」


 そう言われても、刹那にもよく分からない。ただ機械を見たときに、機械だと認識できただけなのだ。


「もしかして大和以外の大陸で見たとか?君、大和の外に行ったことあるの?」

「いや、それは……」


 答えようがない。そもそも自分がどこから来たのかも分からないのだ。誰で、どこの出身で。そんなことは全て分からないのだ。では、なぜ機械は分かったのだろう?


「話したくないならいいけどね」


 凛は刹那の沈黙が何かしらの事情があって隠していると判断したのか、そのまま奥へと歩いて行ってしまった。

 ――と、急に彼女の足が止まる。それを不思議に思った刹那がそちらへ歩いて行くと、彼女は前を向いたまま固まっていた。


「何見てんの?」

「あ、あれ……」


 凛が指を震わせながら目の前を指差す。そちらに目を向けた刹那の目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。

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