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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第四十四話 再会

「懲りん奴だ。いい加減飽きた」

「へッ?ぎゃぁぁぁ!」


 円のその一言の後、猫背の男は全身を炎で包まれ、そのまま倒れてしまった。


「――ッ!円ッ?」

「安心しろ、目の前に火柱を立てただけだ。気の弱そうな男だったからな、ショックで倒れたんだろう」


 刹那の生存を確認したことで円も冷静さを取り戻したのだろう。先ほどまで苦戦していた相手に対して、一瞬で的確な攻撃を加えて戦闘不能にしてしまった。そのあまりのあっけなさに呆気に取られる刹那だったが、まだ事は片付いていない。

 刹那は猫背の男からスキンヘッドに視線を移すと、そこではスキンヘッドが銃口をこちらに向けている所だった。どうやら、まだやるつもりらしい。


「相棒もやられたってのに、まだやるつもりかよ」

「ああいう輩は一度徹底して潰しておくにかぎる」

「仕方ないか」


 念のため猫背の男から武器を取り上げて、刹那たちはスキンヘッドに向かって行った。それを見てスキンヘッドが目を丸くする。


「くるなッ!くるなッ!」


 スキンヘッドが猫背の男の方へと視線を向けるが、彼はまだノビたままだ。ウロウロと視線を動かし、その視線は厳磨を捉えた。


「近づくな!おい、厳磨!お前も手伝え!」


 威嚇のために銃口を刹那たちに向ける。しかし、刹那たちは一向に止まる気配はない。刹那が生きていたことを確認し、呆気に取られていた厳磨は、スキンヘッドの声に我に返り、持ってきていたナイフを刹那たちに向けた。


「厳磨さん、もう止めろよ。さっき分かったんだけど、アンタが殺そうとしてる水神には子供がいるんだぜ?アンタは家族を奪われる辛さを知ってるだろう?」


 刹那が諭すように語りかける。


「うるさい!お前らに何が分かるッ?水神は息子の仇なんだ!」


 刹那の言葉はやはり厳磨には届かない。仕方ない、アレを言うしかないか。


「厳磨、もういい。邪魔をするなら殺してしまおう。町の外の人間だ。殺したって構やしない!」

「殺す?厳磨さんの息子さんみたいにか?」

「え?」


 刹那の言葉に厳磨の目が見開かれた。


「どういうことだ?息子は水神に殺されたんだろう?」

「いや、それは……」


 スキンヘッドは厳磨と目を合わせようとしない。額には汗が浮かび、明かに狼狽えている。


「アンタ、前から水神の子供を狙ってたんだってな。それで、前も水神を殺そうとしたみたいじゃないか。それを厳磨さんの息子さんに邪魔されて――」

「な、なんの証拠があるッ?」


 スキンヘッドは狼狽していた。それが刹那の話が真実だという何よりの証拠だ。


「本当なのか?」


 厳磨はスキンヘッドに詰め寄った。その目は驚きから怒りと憎悪が入り混じったものに変わり、ナイフは標的を変えていた。その気迫に押されたのか、スキンヘッドは目を合わせようとしない。


「こ、殺すつもりはなかった!アイツみたいに、いきなり飛び出してきたんだ!」

「お前ェェェッ!」


 厳磨がスキンヘッドに飛びかかる。


「うわぁ!」


 銃口が厳磨に向いた。まずい!レバーを引いてしまう。


「間に合え!」


 刹那が走った。だがここからでは距離がありすぎた――間に合わない!

 炎が移動砲台を包む。炎の勢いに驚きスキンヘッドが飛び退くと、厳磨も思わずその場を離れた。二人がまた近づくよりも早く、刹那がスキンヘッドと厳磨の間に割って入る。そして、スキンヘッドを睨み付けた。


「これ以上やるってんなら……容赦しないぞ?」


 刹那の手には先ほど猫背の男から奪った鍵爪がある。だが、本当に恐ろしいのはそれではなく、今刹那がまとっている雰囲気だ。

 いつもの陽気な雰囲気はそこには無く、あるのは明確な殺気と、底冷えするような鋭い視線。とても見た目通りの年齢の人間がする眼とは思えない。

 スキンヘッドにとって幸運だったのは、刹那が声をかけたことだろう。

 それは警告なのだ。もし無視すればただでは済まない。


「ヒィィィィィ」


 スキンヘッドは情けない声を上げると後ろも振り返らずに逃げて行った。そこに残されたのは、気絶した猫背の男と、刹那たち、そして、今の出来事で少し頭が冷え、放心状態になった厳磨だった。


「俺は、今まで息子の仇に良いように使われてたのか……」

「厳磨さん……」


 何と声を掛けて良いのか分らない。今何を言っても、それは気休めにもならないだろう。


「ずっと騙されて、何の罪もない水神を傷つけて。俺は、これからどうすれば……」


 己の犯してきた罪を思い出しているのか、厳磨は苦悶の表情を浮かべている。村の人から聞いた本来の生真面目な性格が戻ってきたのだろう。

 頭を抱えて項垂れてしまった厳磨に刹那が声をかけようとしたその時だった――


「父さん」

「――ッ!」


 その声は湖の方から聞こえてくる。少し低い、声変わりしたての男の子の声。


「あ、ああああ、和磨」


 そこにいたのはまだあどけなさの残る少年だった。その体は少し透けており、湖から数センチの所で浮いている。

 彼が厳磨の息子、和磨だろう。


「久しぶり、父さん」

「どうして?いや、今はそんなことはどうでもいい。あぁ、和磨」


 親子はお互いに近づくと、強く抱きしめ合った。厳磨の両目からは大粒の涙が流れている。


「これは一体どういうことだ?」

「分からねぇ。分からねぇけど、良かった……」


 それを眺めていた刹那と円だったが、刹那の方は軽く鼻をすすっている。


「お前、もらい泣きしているのか?」

「だって、感動的じゃねぇか。親子の再会だぜ?」

「ふむ、そう……だな」


 肯定した円だったが、何か歯切れが悪い。まあ、こいつのことだ、どうせ捻くれたことを考えているのだろう。

 しばらく抱き合っていた親子だったが、和磨の方からスッと体を引いた。厳磨の腕が名残惜しそうに空を切る。


「父さん、僕はそろそろ行くよ」

「もう行ってしまうのか?」


 出来ればずっと一緒に居て欲しい。厳磨の表情がそう告げている。


「父さん、僕と父さんはもういる世界が違うんだ。一緒にいることはできないよ。だけど忘れないで。姿は見えなくても僕はずっと父さんのそばにいるよ。だから、復讐なんて考えないで。そんな父さんは見たくない」

「……わかった」


 それから和磨の姿は段々と薄くなり消えていった。その後には、また静かな水面が残されていた。

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