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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第十三話 決着

 まるで駒を回すように刹那に巻き付いた棍が引き戻される。だが、彼の体に巻きついているのは反しの付いた凶器だ。移動するたびに刹那の体を抉りながら巻き戻されていく。


「がァァァァ!」


 あまりの激痛に刹那が断末魔の声を上げる。飛びそうになる意識を刹那は精いっぱい繋ぎ留めていた。


「勝負あったようね」


 凛の手に戻った棍は刹那の血で真っ赤に染まり、ところどころに服の切れ端が絡みついていた。


「刹那!」


 対する刹那はボロボロの体でボタボタと血を流しながら辛うじて立っている。傍から見ても立てているのが不思議なくらいの重傷だ。


「ま、まだ、終わってない」

「その体でどうしようって言うの?」

「まだ、戦える」


 刹那が神威を構える。だが、足はふらつき、その切っ先は揺れていた。しかしその目はまだ死んでいない。真っすぐに凜を見据え、隙あらば攻撃を加えようとしている。

 それを見た凛は顔を引き締め、改めて多節棍を構えた。


「ごめんなさい。アナタのこと舐めてたわ。アナタはりっぱな戦士ね。敬意を表して、全力で終わらせる!」


 先ほどと同じように凛が棍を振り回す。空気の裂ける音が勢いを増していく。フラフラになりながら、刹那は全力で思考する。

 今の状態の自分にこれ以上攻撃を捌き切る体力は残っていない。ならば、相手の渾身の一撃を確実に抑えなけば――

 そしてついにその時はきた。十分な力を蓄えた棍が刹那の体を抉るべく飛び掛かってくる。


 まだ、まだだ――


 棍が刹那との距離を瞬く間に縮めていく。


 焦るな。もう少し、まだ早い――


 まるで一秒が何十秒にも感じられた。その間も棍はまっすぐにその標的へと伸びていく。


「――ッ!」


 膝が力を失って傾く。ダメだ、まだ倒れるな――


 そして、ついに巨大な蛇が刹那の身を食らうため、彼の目の前で身をよじらせた――今だ!


「なッ?」


 そこに響いたのは肉を抉る音では無く、鉄と鉄がぶつかり合う音だった。

 刹那は彼の体を絡めようとする棍を見事にその刀で弾いたのである。

 その光景に凜が信じられないものを見たとばかりに目を見開く。だが、彼女も手練れの戦士、すでに動揺の色は消え、即座に次の行動に移った。


「ちっ」


 不発に終わった棍を手元に戻そうと引っ張る凜。ほとんどの部分を攻撃に使ってしまったため、今の彼女はあまりに無防備なのだ。だが、その隙を刹那は見逃さなかった。満身創痍の体に鞭打って一気に凛との距離を詰める。この機を逃せば勝機はない!

 目の前まで迫った刹那が神威を大きく上に振りかぶる。その攻撃に備えるため、凛はまだ完全に戻り切っていない棍を防御に使おうと両手で頭上に構えた。

 しかし――


「うおォォォォォ!」


 何かが折れるような鈍い音。

 棍が凛の持っている部分のちょうど真ん中を境にして切れてしまっている。これでは使い物にならない。

 そこに刹那の神威が迫る!

 先ほどまで凜の方が出していた空気を切り裂く音を今は刹那が出している。振り下ろされる神威に凜は死を覚悟したのか目を瞑った。

 だが、神威は彼女を切りつけることをせず、首筋でピタリと止まっていた。 

 刹那はそのまま微塵も動かない。ただ黙って凜を見つめている。ゆっくりと目を開いた凜はふぅっと小さく息を吐いた。


「……私の負けね」


 そう言うと、凜は両手を下げて抵抗の意思がないことを示す。それを認めた刹那は、両肩の力を抜いた。その瞬間、どっと疲れが押し寄せる。


「最後に私の全力を出し切れてよかった。さぁ、殺して」

「え?」


 凛の言葉に刹那が固まってしまう。勝ったから殺す?意味が分からない。


「だって、私は決闘に負けたんですもの。負けてまで生き残っていたくない。堅要の戦士として、負ければ相手の手にかかって潔く死ぬ」

「円、それも堅要って所の決まりなのか?」


 刹那が円の方を見ると、彼も黙って頷いた。勝負に負けたら死ぬとは、ずいぶん厳しい決まりだ。


「決まりなら、仕方ないか……」


 刹那は神威を振り上げ……そのまま鞘に収めた。


「なッ?どうしたのよ、早く殺しなさいよ!」

「やだよ、女の子を手に掛けたりしたら、寝覚めが悪いじゃん」


 その拍子抜けするような回答に一瞬反応が遅れる凛。


「また女扱いしたわね!私が女だから殺さないって言うのッ?」


 凛の瞳に再び闘志の火が灯る。しかし、刹那はそれを冷ややかに見つめた。


「別にそういうわけじゃない。ただ、君すごく強かったし、その、なんて言うか、ちょっと変なんだけど、戦ってみて楽しかったんだ。だから、ぜひまた手合わせ願いたいなぁ、と」

「手合わせ……そう」


 強いと言われていくらか気分が良くなったのか、凛の目から闘志の火が消え始める。


「これで、終わりで良いんだよね?」


 刹那の問いに凛が黙って頷く。それを確認した刹那は嬉しそうにニッコリとほほ笑むと、最後にこう言った。


「君、結構可愛い顔してるんだから、決闘なんかで死んだらもったいないよ?」

「なッ?え?ちょっと!」


 文句を言おうとした凛の目の前で刹那はバッタリと倒れてしまった。どうやら、全ての体力を使いきってしまったようだ。


「終わったな」


 倒れた刹那の元に円が歩み寄ってくる。凛は顔を赤くして照れているような文句を言いたそうな微妙な顔で刹那を見下ろしていた。


「まだやる気なのか?」

「いえ、もういいわ。私の武器壊れちゃったし」


 凛が拾い上げた多節棍の切り口は綺麗に両断されている。


「賢明な判断だな。コイツが起きたら何か伝えておくことはあるか?」

「次は負けないって言っておいて」

「承知した」


 凛は多節棍を仕舞うと、その場を去って行った。彼女が見えなくなるまで、円はその背中を眺めていたが、見えなくなるとボロボロになった刹那を見下ろした。


「一時はどうなる事かと思ったが……」


 今の刹那は先ほどまでとは違いとても穏やかな顔をしている。

 隙だらけの今なら……


「今日の所は勘弁してやるか」


 円は刹那の荷物から毛布を出すと、刹那の体にかけてやった。


「ふむ、あの時ガマの油を買っておけば良かったか?」

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