第1話 サトーとハナちゃん
https://img1.mitemin.net/bi/vb/6k4ccngnicln6pbghrsd3c8l8zjf_13ps_16o_sg_1nzlt.png
扉絵です
「ところでサトー、お前、ピル・ゲイツって知ってるか?」
場所は純喫茶スワン。
名物プリンアラモードをほじくりながら、ハナちゃんの質問が炸裂する。
「知ってますよそれくらい、バカにしないでくださいよ、マイクロンソフトの人でしょ。」
泥のようなコーヒーを片手に、ムッとしながらも、サトーはどこか得意げである。
「まあさすがにこの程度はわかるわな。ちなみにワードとかエクセルとか、サトーは使えるんか?」
ハナちゃんの指先に実装された極彩色のネイルが光るたび、メロンやチェリーがてんこ盛りのプリンアラモードでさえ、地味に見える。
「任せてくださいよ、私こう見えてもブラインドタッチとかできちゃいますよ。50過ぎのおっさんだと思って見くびらないでください!」
殺処分寸前の捨て犬がエサをもらえたようにサトーはおおはしゃぐ。
「お前、やるやんけ、ほいだら、スティーブン・ジョブズは、どや?」
カラコンなのか、真っ青な瞳をいじわるそうに細めながら質問を続けるハナちゃんは、小悪魔を通り越して本物の悪魔なのかもしれない。
「もちろんわかりますとも、アポーの創始者です。」
今どきの小学生でも答えられそうな質問に正解しただけで、サトーは得意げに胸を張る。その救いようのない小物感がこの小汚い喫茶店によく似合っている。
「ソーシシャとか、えらい難しい言葉使いくさって。阿保とちがうか。」
「ちなみに私、アポーフォンユーザーですよ。」
普段なら砂糖とミルクを飽和量までぶち込むサトーだが、ギャルの手前ブラックを気取っている。
だからコーヒーは一向に減らないのである。
「どうでもええわ、いらんことぬかすな盆暗、どつき回すど。」
「ああー、すいません師匠、調子に乗りすぎました。」
「ほな次や、次。ジェフ・ベーゾスは、どないや?」
「えー?あー、うーんと・・・」
サトーが眉間にしわを寄せる。
「ほーかほーか、わからんか」
ハナちゃんがニタリと笑う。
鳥の羽ばたきのようなツケマがばさばさする。
サトーにはそれがまるで天使のほほ笑みに見える。
「何でへでへしとんねん、うちが可愛すぎるからって、昇天すなよ。大アマゾンや、大アマゾンの創始者や。南米のジャングルちゃうど。」
「あー、あのなんでも売ってるネットショップですよね。そういえばそうでした。」
「ほたらジョージ・ソロンは、わかるか?」
「あーなんか、聞いたことあるような・・・あのーソロン財団とかなんとか・・・」
「おいサトー、お前、それっぽいこと言うてテキトーに乗り切ろうとすなよ。知らんのやったら知らんて、言え!」
「はいすいません知りません。」
「ほんま、しょもないやっちゃで。投資家や、トーシカ。億単位で金つっこみよる連中のひとりや。」
「へー。」
「ウォーレン・バフィットとかジェム・ロジャースとか、そのへんの仲間やな。」
「そうなんですか。師匠はギャルなのに、物知りですねえ。勉強になります。」
「世界三大投資家とか言われて、調子ぶっこいとるねん。」
「ひゃー、私も一度でいいですから、調子ぶっこいてる人生ってのを送ってみたいもんですよ。」
ハナちゃんがポシェットを、そっと開く。
中から、豚足を引っこ抜く。
「でや、ここからが本題や。」
人差し指と中指で豚足を挟むハナちゃんの青い瞳が、ぎらりと光る。
「こいつらの共通点、なんかわかるか?」
「え?共通点ですか、そりゃ、要するに成功者ってことでしょ?」
当然でしょ、という表情でサトーが答える。
「まあ、せやな、もっと下世話な言い方すれば、超絶金持ちってことやな。」
「ですよねー、ほんと、ウラマヤシイですよね。」
「ほうか、ウラマヤシイか?」
「そりゃそうでしょうよ。誰だって、ウラマヤシイに決まってますって。」
「まあ、そやろな、特にお前みたいにゲーハーでブーデーなら、尚更やろな。」
「ちょっとちょっと師匠、言いすぎ言いすぎ!」
ハナちゃんが豚足を灰皿に置く。
「でもな、本当の共通点は、成功者とか、金持ちとか、そういうこととちゃうんやど。」
「え?そうなんですか、おお、なんか一気に本題って感じがしてきましたね!」
サトーが身を乗り出す。
「じゃあ、なんなんですか?師匠、教えてくださいよ。」
ハナちゃんのプリンアラモードはいつの間にかチェリーの種とメロンの皮だけになっている。
サトーのコーヒーは冷めきったまま全量を保っている。
「精神や。」どや顔のハナちゃん。
「セーシン?」阿保ヅラのサトー。
「そや。精神の創造力や。わかるか?」
「セーシン?ソーゾーリョク?いや、ぜんっぜんわからないです。」
「天と、地」
サトーを見つめながら、ハナちゃんが続ける。
「ウチューと、ニンゲン」
「・・・」
「カミサマと、人類」
ハナちゃんの瞳の青みが、さらに深まる。
サトーは怖い。
なんなら、早く帰りたい。
「豚足と、プリンアラモード」
「は?」
「そんな両者の接点を作り出す秘密、それが精神の創造力なんや。」
「いや、絶対違うでしょ!」
「そやさかい、長い間、ずっと秘密にされてきたんや。」
ハナちゃんが、豚足をそっとポシェットにしまう。
「そりゃ秘密にしますよね。だって、豚足でプリン作るって話なんでしょ?それ、怖すぎますよね。」
「パゥワーがな、強力すぎるんよ。」
「ですよね、意味不明すぎますもんね、は、はは・・・」
「でもやぞ、もし仮に、その力を自由に使いこなせたら、どや。」
ハナちゃんの目に力がこもる。
「どや・・・って、豚足で、プリン作れたらって、ことです、か・・・」
「ちゃうがな、人類とカミサマをつなぐパゥワーを、自在自由に扱えるんやったら、それって、どう思う?」
「ど、どう、って・・・」
サトーがゴクリと喉を鳴らす。
「でじまばいやーやんけ。」
「でじま、ばいやー・・・つまり、マジで、ヤバい、と・・・」
「ほらほうよ、もうそれ、ばっきばきにでじまばいやーなパゥワーやろが。」
再びハナちゃんがサトーを見据える。
「そのでじまばいやーなパゥワーを使ったら、お前もピル・ゲイツになれるっちゅう話があるとしたら、どや。」
「私が、ピル・ゲイツぅ?」
「そやど、ニシナリのピルゲイツこと、リッチ・ザ・サトーが爆誕するねんど、これって完全に素敵なことやと思えへんか?」
「師匠・・・ちょっと何言ってるか、まったくわからないです・・・」
言いながらサトーのメガネがギラリと光る。
「でもニシナリのピル・ゲイツに、なれるものなら、なりたいですー、っきゃー!」
もしもニシナリの底辺ギャルがキバリオンマスターだったら
この物語はチキュー上で最もディープな街ニシナリで、社畜のサトーが自称底辺ギャルのハナちゃんに出会い、シモ半身以外の交流を通じてウチューの真実を知り、やがて恋に落ち(ないかもしれない)、キバリオンの奥義的ななにかしらを駆使しながら、自らのさえない人生を発展的に再構築していく、愛と奇跡の大河ドラマ的ラブロマンスストーリーなのである。
(知らんけど)
なお、念のため申し添えるのであるが、この物語は徹頭徹尾フィクションであり、我々が生きるこの地球という三次元空間とは、いかなる関係性においても完全に別の世界、いわゆるパラレルワールドを舞台としているのである。そしてこのことが、この物語のキモだったのねー、ということが最後の最後で判明するのである。
つまり読者の皆様は、ついうっかりこの第1話を読んでしまったからには、一蓮托生、呉越同舟、最後の最後まで付き合うしかないのである。
<第2話予告!>
社畜のサトーはいかにして自称底辺ギャル、ハナちゃんと出会ったのか!?
次回、ショーゲキの出会い編。
ニシナリ・ラヴ・ストーリーは突然に!
そして運命の扉が開く・・・
っきゃー!




