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この世界の理不尽に耐えられず、心から願ったら異世界の空に放り出されたのだが???  作者: はるのひ


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第1話 落ちる星

挿絵(By みてみん)


風が、耳の奥で叫んでいた。


(?????は?)


全身を叩く空気の壁。目を開けた瞬間、視界いっぱいに広がったのは夜空だった。


いや、違う。

星が上にあるんじゃない。横にある。流れてい

る。


一一落ちてる。


俺、落ちてる。

体が勝手にひっくり返った。眼下に大地が広がっていた。


暗い荒野に、ぽつぽつと焚き火の光が見える。風に混じって、声が聞こえた。


「------ キャァァ----」


悲鳴だった。


目を凝らす。焚き火の周りに、檻。鉄の檻の中に人影がいくつも見えた。


小さい。子どもだ。少女たちだ。檻の外には武装した男たちが数人。


その向こうに一一影。焚き火の光を遮るほどの、巨大な影。

四本の脚。裂けた口。地面を揺らしながら檻に近づいていく、岩のような体。


男たちが笑っていた。檻の中の少たちが泣き叫んでいる。男の一人が檻の扉に手をかけた。


あれは。


あれは、餌にするつもりだ。

胸の奥で、何かが弾けた。熱い。心臓じゃない。

もっと深いところ。魂の底から突き上げてくる、どうしようもない衝動。


泣きそう。でも泣いてる場合じゃない。



………守りたい。


右手に、重みを感じた。見ると、一振りの刀を握っていた。いつから持っていたのか分からない。


でも、手に馴染んでいた。まるでずっと前から、この手のために作られたみたいに。


考えるより先に、体が動いた。落下の速度をそのままに乗せて、巨大な影に向かって振り下ろす。


ズバン!!!!!!


一閃。


凄まじい威力。


巨大モンスターの体が、頭から尾まで真っ二つに割れていく。


地響きとともに左右に崩れ落ちた肉塊が、砂埃を巻き上げた。


着地。


片膝をついた姿勢で、地面にめり込んだ刀を握ったまま、真は荒い息を吐いた。


静寂。


男たちが凍りついていた。


伸も凍りついていた。


檻の中の少女たちも、泣くことすら忘れて目を見開いている。


真はゆっくり立ち上がった。


自分の手を見た。震えていた。


なんだ、これ。


なんで俺、こんなことができた?


そもそも一ーなんで俺、空から落ちてきた?

頭の中が真っ白になった。そして、唐突に思い出した。

俺の名前は高浦(こうら) 真(しん)


思い出したくない記憶………。


現世ではひどかったな。

いじめに遭い絶望だった。

いじめてる方はなんとも思ってないかもしれないが僕は辛かった。


人にそんなことして心の中は本当に楽しいのだろうか?

僕か何した?


声をあげるのも諦めた。

でも恨まなかった。憎まなかった。




でも僕の心と体は限界だった。


家に帰ると母さん。


僕の顔見て少し驚き

でもすぐに何も言わず頭を撫でてくれた。


「よしよし大丈夫だから」と

張り詰めていた心がほつれて激しく泣いた。


夕食は甘口カレーだった。

優しい母さんの味。

(大好き)と心の中で……。


父さんはいつも優しく僕に


「人を憎むな。恨むなよ。」


「人に優しくしていればいつか帰ってくるもんだよ」

ってよく言ってたな。


信じていた。父さんがそう言うなら、そうなんだと思っていた。


暖かく大きい手でよく撫でてくれたな。


社会人になっても状況は変わらない。

孤独、周りの目、孤独感、憎しみが溜まりそうになっても両親の暖かさに助けられてきた。


でも。

返ってきたのは、理不尽だった。



通り魔。


たまたまそこを歩いていただけの二人。たまたま刃物を持ってうずくまっていた犯人に声をかけただけの二人。


ニュースは三日で消えた。


犯人に動機はなかった。誰でもよかったと、男は言ったらしい。


誰でもよかった。


あの二人じゃなくてよかったのに。


他の人でも良かったなんて事言えないが

俺にはそう思いたくなるほど辛かった。


男は責任能力が無いと無罪になった。


殺された父さん、母さんは戻ってこない。


何が正しくて間違っているのか考え方すらも分からなくなった……。


布団の中で膝を抱えた。


目を閉じると、子どもの頃に読んだファンタジー小説の世界が浮かんだ。

剣と魔法の世界。

冒険者が旅をして、仲間と出会って、誰かを守って、笑い合う世界。


そんな世界に行けたら。

行けたらな。


行きたい。


誰かを守れる自分になれたら。


父さんと母さんの言葉を、今度こそ証明できたら。


意識が薄れていく。眠りに落ちる直前、光が見えた気がした。


(眩しい!!)


光の中に、女性が立っていた。


長い髪が風もないのに揺れている。


瞳は深い青で、星を溶かしたような色をしていた。美しいのに、どこか寂しそうだった。


(……あなたをずっと見ていました)

声が、頭の中に直接響いた。

(どれだけ理不尽な目に遭っても、あなたは誰も恨まなかった。)

(憎まなかった。その心を、私はずっと探していました)


女神、と直感した。理屈じゃない。

この存在は人間じゃない。

(あなたの心こそが、この世界を変える唯一の力です)


女神の手が真の胸に触れた。温かかった。母さんの手に似ていた。

「心の力を、あなたに」

光が胸の中に流れ込んできた。


真が消えた後、女神は呟く。

(私が救いたかった世界。どうか救って……私の事も………。)


ーーそうだ。

真は荒野に立ったまま、すべてを思い出した。



俺は死んだのか。それとも夢なのか?


それとも転生したのか。


ここが、あの憧れた異世界なのか。

ふと見た自分の手は小さかった。


子どもの手だ。

呆然としていると、足元で何かが動いた。


緑色の、小さな生き物。尖った耳。濁った目。

手には錆びたナイフ。


ゴブリンだった。


ゴブリンなんて見たこともないのに分かった。


ゴブリンもコラソンを見上げていた。


二秒間、完全に目が合った。


「うわあああああっ!」

「ギギャアアアアッ!」

同時に叫んだ。

真は反射的に踵を返して全力で走り出した。


巨大モンスターを一刀両断した男が、膝丈ほどのゴブリン一匹に背を向けて、全速力で逃げていた。


初めての異世界だ。何がいるか分からない。何が起きるか分からない。怖い。とにかく怖い。


真が駆け抜けた風圧で、ゴブリンは音もなく三回転半して荒野の彼方に消えていった。本人はまったく気づいていない。


砂埃が晴れた荒野で、少女は立ち上がっていた。


檻の扉が衝撃で壊れていた。

奴隷商の男たちは巨大モンスターの血飛沫を浴びて腰を抜かし、動けなくなっている。


少女は走り出した。あの人が走っていった方向に。


でも、もう影も形もなかった。


立ち止まって、夜空を見上げた。星が静かに瞬いている。


さっきあの人が降ってきた空。


顔を覚えている。

あの目を覚えている。


怖がりながら、それでも刀を振ったあの目。


少女は両手を握りしめた。


絶対に、もう一度会う」

声は小さかった。でも、震えてはいなかった。

挿絵(By みてみん)

どれくらい走ったか分からなかった。


気づけば森の中にいた。

木々の隙間から月明かりが差し込んで、足元の落ち葉を銀色に染めている。


息が切れて、木の幹に背中を預けた。


刀はまだ手にあった。


心臓がうるさい。

汗が冷たい。

異世界の夜の空気は、思ったより澄んでいて、少しだけ甘い匂いがした。


怖かった。


何もかも分からなくて怖かった。


でも、さっきーーあの少女たちが食べられそうになっていた時、体が勝手に動いた。


あの瞬間だけは、怖くなかった。


父さんの声が聞こえた気がした。


「お前は優しい子だ。それでいい」


目頭が熱くなった。


父さん、母さん。


俺、多分異世界に来たよ。


まだ何も分からないけど。


今度は──誰も失わないから。


その時、木々の向こうに光が見えた。



最後までお読みいただきありがとうございます。

すごく感謝します。


前世では理不尽な思いばかりしていた主人公。

女性耐性が一切なく、ビビり、天然、ちょっとスケベ。


果たして異世界では幸せになれるのか一緒に見守っていただけたら嬉しいです。

次の話しも読んでもらえるとすごく喜びます。


よろしくお願いします。

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