第77話 銀髪弓使いのギガントスライム・アペイロン戦 その1
「これから……ボス戦」
ガチガチに固まった色合いでそう言ったのはダンジョンの奥底に置かれた巨大な両開きの扉の前に立つセリニであり、その後ろに杖を携えるリーザロッテが立っていた。
――わたしが……先頭……緊張……する。
本音はリーザロッテの後ろから付いていきたいセリニであったがそうせざるを得ない訳があった。
――わたしが……前に出て戦うから……そうするのが一番。
ボスモンスターとの戦いでは自身が前衛を務める――それは最初から決めていたことである故にボスモンスターと対峙した時に即時に動けるような陣形を組むのは当然。
それに近いことをリーザロッテは言い。聞いたセリニは驚きながらもその結論に正しいとして従った。
――始めよう。
突如の出来事故に様々感情が脳裏で踊るが気持ちの切り替えの為に目を瞑ると同時に無理矢理抑え込みながらセリニはリーザロッテに声を掛ける。
「開きます」
「行きましょう」
リーザロッテの声が聞こえると同時にセリニが扉を触れた途端に光る線が奔り、それを合図に大きな物音を立てながら自動で開き始めた。
「すごい」
扉の奥底から現れたひんやりとした空気を浴びながら雰囲気に圧倒されたセリニにリーザロッテは言葉を添える。
「普通のギガントスライムと戦ったときは扉が光る演出はなかった」
「そう……ですか」
聞きながら扉の先の部屋に足を踏み入れたセリニ。そしてリーザロッテの耳に届くのは扉が塞がれる音であった。
――逃走できないボス戦!
それが意味することを立所に気づいたセリニは緊張感が戦いに向けた高揚感に変化したことを実感しながら弓矢を手元に出現させた刹那、少し離れた地点に――二人の敵が落下する。
――大きい。
現れたのはスライムだ――だが今まで出会った個体とは段違いな大きさで二階建ての建物を軽く上回る程。
――お馴染みの……色。
その色合いは一欠片も雲が無い清々しい晴天の青空を過らせる蒼色であり、周囲を照らす輝きを放つ。
それを見たセリニは懐かしさや神々しさを感じていた――だが敵であり、リーザロッテが事前に言っていたことを確かめる為にその周囲に目を向ける。
――別もいる。
その周囲には六体のスライムが確認できる。
――リーザロッテさんが言っていた数。
数えを終えたその瞬間――ギガントスライム・アペイロンは身を縮める。
――これも……。
その動きは攻撃前の体勢であり聞いた通りの動きだ――故に心の中で声を出すと同時にセリニの背後からリーザロッテの詠唱の声が届いた。
「【強化術式】――【氷之壁】――【アイス・ウォール】」
堂々とした言葉が紡ぎ終わるとセリニの目の前に現れるのは煌らかな氷で形成された壁。
それと同時にギガントスライム・アペイロンは突撃して――進路上にある氷の壁に突っ込んだ。
「冷たい!」
青い巨体の突進を受けたことで衝撃音と同時に砕け散った氷の壁の欠片から放たれた寒気を感じたセリニの所感を余所に場には大きな変化が発生――銀髪の少女は即座に気づいた。
――凍った!
二階建ての建物に相当する大きさのスライムが凍りついた光景は壮観でもあった。
――本当に……。
本心から驚いたセリニだが目の前で起きた有様はリーザロッテから事前に聞いた通りのものである。
それ故に次に発生した現象も想定の内であった。
――もう……割れる。
数秒前まで傷無しな氷面であったが現在はあらゆる部分に罅割れが発生している。
そしてふるふると揺れている。
高い場所に積もった雪が地面に落ちる寸前、そんな光景を連想したセリニはすぐに動けるように身体の姿勢を動かした途端に――圧を与えるような色合いのリーザロッテの詠唱が耳に届いた。
「【浸蝕魔術・防壊】】」
声が場に響くと同時にギガントスライム・アペイロンの真下に現出するのは暗い輝きを放つ潤朱に染まる円であり、その内側には今まで見た魔法陣とは異なる図形が記されているとセリニは気づいた。
――今までと違う。
そして放たれた魔法の名がこれまで聞いた魔法と命名の文体が異なると把握したセリニであったが――後回しにすると頭を切り替えた。
――リーザロッテさんが防御力が低くなる魔法をかけたら!
アイス・ウォールによってギガントスライム・アペイロンが氷結状態になったらリーザロッテがデバフをする。
それは事前に決めていたことであり、セリニも行動を起こした。
「わたしも」
声を零すと同時に赤い草――短時間攻撃力を上げるアイテム『闘争草』を手元に出現させたセリニは即時に使用。
それと同時に地面に描かれた円は強い輝きを放ったと同時に消え去るとギガントスライム・アペイロンの周囲を潤朱に染まる靄が覆う。
――成功したときのエフェクト。
デバフを使用すると話したリーザロッテであるがボスモンスター相手に効果が発揮するか解らないとも言ってたがそれは杞憂に終わったとセリニは察する。
――仕掛ける……。
浸蝕魔術・防壊は防御力を下げる効果がある。
ならば相手側の防御力によって威力が左右するスキルを使うべきと思案したセリニが身体を動かし始めたと同時に氷が破砕されてギガントスライム・アペイロンは再び動き始めた傍らで――
「【ドラゴン・バレット】」
紡がれた詠唱に応じて真上を過ぎるは龍の弾丸。そのまま龍の顎が敵の身体を喰らったと同時にセリニは接近しながら冷たい色合いで攻める為のスキルを呟いた。
「【暗影流出・黒き浸透】」
セリニの身体の内よりせり上がるは黒き影の粒子――それらが集結するのは既にしなやかに動き始めた右足であった。
一秒前に魔法を受けて怯んでいたギガントスライム・アペイロンに黒い影を纏う蹴りが直撃する。
――押し出せた。
蹴りが直撃したギガントスライム・アペイロンはその場から吹き飛ばされて地面に直撃すると更に跳ねて距離が伸びる。
――ここまでは……予定通りですね。
吹き飛ばしてリーザロッテからギガントスライム・アペイロン分断――その後は自身に釘付けして倒す。
それがセリニへと伝えられた作戦であった。
――大きくて……吹き飛ばせるのか……不安だったけど……よかった。
ギガントスライム・アペイロンと目にしたときに思った事を脳裏に過らせながら走り――倒すべきモンスターの前に到着したセリニはダメージを稼ぐ為にスキルを発動させた。
「黒き浸透・漆黒飛刃」
――作戦は成功。
セリニのスキルによってダメージを与えられているギガントスライム・アペイロンをちらりと見ながらリーザロッテは安心感を感じていた。
――お供のスライムは驚異じゃない。
セリニがギガントスライム・アペイロンを吹き飛ばした後にボスモンスターの取り巻きと交戦、瞬く間に倒していたリーザロッテ。
――初めて戦ったときは六で済まされてない。
少し前の経験から終わりでないと理解していたリーザロッテは油断せずに視線を周りに向ける。
すると洞窟の石を突き破って姿を現したかのような形をした水晶があり、青い輝きを放ってた。
その水晶は二つあり、左右対称の位置に鎮座する。
――ギガントスライムの時はなかった。
今となって初めて気づいた変化――ならばそこで何かが起こるとリーザロッテが判断した矢先に――その水晶は正体を現わした。
「なるほど、あそこからも」
不意に水晶の光が一点に集った刹那に青い球体に造られると意思を持った存在――スライムが出現する。その数は二匹であった。
――あの水晶から出現したスライムにわたしは。
初戦での敗北の原因を把握したリーザロッテ。
だが思考に微かな隙間の時間を向けた分だけ――動きに遅れが現れる。
「しまった!」
出現したスライムは既に動き始めている。それが自身に向かって進んでいるなら待ち受けて魔法を放てば問題ない。
だがギガントスライム・アペイロンと交戦しているセリニの元に向かった場合は話は別である。
――手が追いつかなかったら横槍も対処してって言ったけど。
自分達の計画が上手くいかない場合に備えた場合のことも話していたリーザロッテであるが――早々にそうなるの想定外であった。
――二体……四体。
リーザロッテの双眸に映るのはギガントスライム・アペイロンとスライム四体に囲まれたセリニだが――
「【暗影変異・黒之鋭刃】」
寒冷とした声に応じて弓を包む黒い刃が現れる。
それを手にしたセリニは舞うように廻すると刃の軌跡を陣取るモンスター達が切り裂かれて――ギガントスライム・アペイロン以外は粒子となって消失する。
――速い。
イレギュラーな襲来に対応したセリニを見たリーザロッテであったが驚きはそこまでない。
――あれくらいは当然ね。
ガイアの安らぎからここまでの道中までのセリニの動きを見ていた為であった――そしてとある想像をする。
「弓じゃなくて剣とかだったらどれだけ」
近距離で振るのが本領の武器を使用していたらどれ程のものなったのか? そんなことが頭に過ったリーザロッテに接近するのは新たに出現していたスライムであり、突撃を繰り出したが――無から現出した結晶を伴う爆発を浴びて消滅する。
「倒せる」
一見すると無防備な姿を晒していたリーザロッテだが余裕がある内に自身の身を守る術の一つを起点に発生する攻撃でギガントスライム・アペイロンのお供であるスライムを一撃で仕留められるのか試すための偽装であった。
――次。
それが終わると同時に数秒前に倒したスライムが現れた方向とは逆側の水晶に目を向けるリーザロッテ。
――水晶から現れたのは。
――これで四体目
そこには既に新たなスライムの姿が現れている。
その移動先は――セリニが戦っている場所だった。
「行かせない」
少し前の失敗はもうしないと決めたリーザロッテは反射的に長杖を前に出したその刹那に詠唱を口にする。
「【グリント・バレット】」
長杖の先端から現れた白い光の球体はそのまま突き進んでスライムに衝突。
光は霧散し同時にスライムも倒された。
――四体目の次は五体目。
だがその間にも新たなスライムが出現している。
「どんどん現れる」
初戦の経験から予期していたリーザロッテであるが想像以上のペースだと舌を巻いた――しかし戦意は高いままだ。
――誘ったのがわたしだから。
――わたしもやらないと。
セリニにボス戦の協力をしたのが自身であり、ボスを一対一で倒してと頼み込んだ以上、不甲斐ない姿を見せられないとリーザロッテは意気込んでいた――その熱意は魔法の詠唱にも宿る。
「【イグニス・バレット】!」
リーザロッテの熱意が実体化する如く放たれた炎の弾丸は五体目のスライムの蒼球を瞬く間に焼き尽くした――その後ろではギガントスライム・アペイロンがその球体を輝かせながら大きく跳躍しそのまま勢いよく落下する光景が繰り広げられていた。




