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第68話 銀髪弓使いは感触から

 数多の木々が放つ輝きによって照らされた夜の森林が微かに揺れ動く――静寂を乱したのは地に叩きつけられたホブゴブリンの棍棒だった。

 その後ろには銀髪の少女が近距離で弓矢を構え――スキルの名を口にした。


「【弓術きゅうじゅつ貫穿かんせん】」


 輝きに包まれた対象を貫く矢は肉体を穿つ。

 狙われた対象であったホブゴブリンは倒れこみながら消滅した。


「ホブゴブリンにも……だいぶ慣れたかな」


 敵対者を倒したことを確認しながらセリニは淡々と呟いた。

 しかし数秒後に後悔の感情が溢れ出した。


「普通に……終わっちゃった……」


 セリニがした事はモンスターと戦い倒した。

 戦闘があるゲームなら当然であった。

 されどもその倒し方が駄目だった。


 ――折角……一対一で戦えてたのに。

 ――ボス戦に向けての用意が……。

 強力な敵を倒す為には徹底的な準備が必要と考えていたセリニは自身の不甲斐なさに自責の念を感じる。

 だがしかし少し考えると自身は早とちりしているのではと思えてきた。


 ――洞窟の中がダンジョンで……その先にボスが潜んでいる……その可能性もあるのかな。

 ――だったら……普通に倒して大丈夫だったかな。

 アルーセから言われた事はボスが潜んでいる事だけ――それ以外は未知なる場所であるとセリニは認識する。


 ――とりあえず……洞窟に入ろう。

 兎にも角にもダンジョンの確認を最優先する事に決めると夜空に目を向ける。

 そこには小さな黒い梟――オウルが少し進めば届きそうな地点の空中で静止していた。

 セリニの眼前は背が高い草で覆われている。 


 ――待機……しているね。

 現在進行形で目的のダンジョンに向かっていたセリニだったがその道中にてモンスターが襲来――そしてその悉くを返り討ちにしていた。

 だがその間は足が止まっており、オウルの行方が解らなくなるのではと一抹の不安を抱えていたが一定距離まで進むと自身を待ってくれる事に気づいてそれは氷解した。


「進もう」


 それを再確認して歩もうとしたセリニは今いる場で数秒立ち止まって故にモンスターが再び襲来しないのか心配となって周囲を見る。

 その結果は問題なかったが気になるものを発見した。


「採取ポイント」


 言うと同時に歩み寄り光る草に触れるとパネルが現れ入手したアイテム名が表示された。


魔力纏(まりょくまと)そう

 

 それを読んだセリニの声色は淡々としていた。

 理由はシンプルである。


「これで十個め」


 習得したアイテムはこの付近で既に収集済みであり、セリニの感覚からは新鮮味は消えていた。


「持続時間は一分で使用すると物理の攻撃ダメージを魔力による攻撃ダメージに置き換える」


 アイテム効果を口にしたセリニは知った瞬間から役に立つ場面が想像できていた。


 ――防御が高いモンスターや倒す事になる……他の人に有効だね。

 そんなシチュエーションを想像してそれはそれで面白いと思いセリニは笑みを浮かべる。

 だが魔力纏い草にはデメリットと言える効果があった。


 ――使用中は無属性になって属性値を上昇させるスキルやアイテム効果が……無効。

 心の中で口にしたセリニだが現在のところ属性が込められたスキルやアイテムを重宝していない為に気にはならなかった。

 ――そして……衝撃値が半分になる……。

 だがもう一つのデメリットに関しては決して無視できるものではなかった。

 蓄積させる事で敵対者の動きを止めてダメージ量を上昇させるショック状態を引き起こせる。その効果が絶大である事をセリニは実感している。


 ――数値が半分……つまり。

 その数値が半減する――即ち魔力纏い草を使用中にショック状態にするには従来の攻撃をいつもの二倍当てる必要性がある事にセリニは効果を見た途端に気づいた。


 ――物理攻撃を拒絶する……そのくらい硬い敵が出てきたら使おうかな。

 手にしたアイテムの有効に活用する方法を考えたセリニだが数秒後に新たな考えが沸き上がる。


 ――ショック状態にした後に魔力纏い草を使うのもいいかもしれない。

 思い浮かんだ方法を実戦で試したいと思ったセリニは自然と笑みが沸き上がる。

 

 ――考えるのは……やっぱり楽しい。

 手持ちのアイテムをやり繰りするのも好きなセリニは心の温度が高まったその最中に――届いたのは異音であった。


「!」


 現実は聞かない音質であった為に即時に気づいて警戒心を強めて周囲を見る傍らに――セリニは聞こえた音を口にした。


「ぽよん?」


 特徴的であった為に印象に残ったセリニは音を出した柔らかいものの正体を推測――すると今いる世界にうってつけなモンスターが脳裏に姿を見せる。


「もしかして」


 その存在には一度会ってみたいと思い声を上げたその瞬間、セリニの眼前の草を掻き分けながらモンスターが現れた。

 プルンとした質感のサッカーボールくらいの大きさの球体に目が付き、灰色の色合いで統一されたモンスター――スライムであった。


「スライム!」


 一目でモンスターの名前を察して歓喜の声が沸き上がったセリニ。

 そんな調子の少女に向けてスライムは体当たりを繰り出している最中であった。

 しかしその一撃は擦過さっかもせずに空振りとなる。


 ――そうくるよね。

 歓喜の声を出すと同時にセリニは警戒心も抱いており、その場から飛び退いていた為であった。


 ――わるスライム……なんだよね。

 身体の何処かから鳴る形で響いたとある台詞を思い出しながら倒すべきと敵と認識したセリニに対してスライムは身体を震わせると二度目の体当たりを繰り出した。


 ――見切ったよ。

 人が投げる球と同程度の速度の体当たりであったが――セリニにとっては既に見慣れた速度であった。

 その場から動く事なく弓を振り上げるとスライムに直撃して突き飛ばされる。


 ――この……感触。

 弓から鋭敏えいびんに伝わったぷにぷに感に困惑するセリニ――それと並行して別の感覚も流れ込んだ。


 ――手応えが……変……だね。 

 幾度も弓を直接的に振るってモンスターを攻撃してきたセリニであったがスライムに当てた途端に初めてモンスターに当てたような心持ちとなっていた。

 その傍らで弓の攻撃を受けたスライムは健在――突き飛ばされた先にあった枝の上に乗った。


「――!」


 人では表現できない叫びを上げたスライムは標的としているプレイヤーに三度目の攻撃を仕掛けようと地面を見た。

 だがそこには輝く木で照らされた草原だけだ。

 標的としていたプレイヤーは――自身の真上。


 ――これで……スライム撃破。

 セリニの靴裏から出現した鋭利な短剣は振り下ろされて灰色の球体を両断。

 そのままシャボン玉の様に弾け飛び――スライムだった液体は粒子となって消滅した。


「スライムを倒すと……冒険が始まった気分になるね」


 そんな所感を口にしたセリニがいる場所は枝の上であった。

 スライムを仕込み武装で倒すと枝を掴み一回転して枝の上に座り込む姿勢となっていた。


 ――習得してよかった。

 自身の足先から出現した短剣を見ながら自身の選択が当たっていたと口に出したセリニだったが――先のスライムとの戦闘で抱いた疑問が表層に現れる。


「あの感触は……何だろう?」


 思い出したのは攻撃を当てた刹那の感覚であった。


 ――短剣の時も……感じた。

 とどめの一撃を加えた瞬間もそれは身体に伝わっていた。

 セリニはその感覚は言葉として表せるものだと思えた。


「手応えが……無い?」


 今迄の攻撃は確実に当てた感触があったが――スライムに対する攻撃はそれが欠けているとセリニは感じ取った。


 ――共通しているのは……武器だけど……。

 ――矢で攻撃したら……どうなるかな?

 試していない攻撃方法をしたら変化が起きるのかと想像したセリニ。


「進めば……またスライムと出会えるよね」


 エンカウントしたモンスターはツインファンタジーワールドの中では初めて出会った。

 つまりここから先はそのモンスターが登場するエリアであるとセリニが予想した途端に――パネルが表示される。


「?」


 予期できない出来事であったが前振りもなくパネルが現れる事には慣れてきたセリニはその内容に目を通す。


「スライムとゴブリンの……衝突イベント?」


 書かれていたのは異なる勢力による抗争が起こること。

 どちらも知っているモンスターであるが自身には関係ないと思ったが――イベント発生地点を見て自身にも関わる事だと気づいた。


「わたしの……真後ろ」


 セリニが向かっていた地点でそのイベントは起きている。

 そして既に喧噪けんそうが始まっている事に気づいた。


「どんな感じかな」


 折角だから発生したイベントを見る事にしたセリニは座り込む位置を変える。


「オウル」


 その合間に黒い梟が隣に止まっていた事に気づきながら前を向いたセリニ。


 ――派手にしてるね。

 目の先では数多なゴブリンとスライムによる戦いが繰り広げられている――それと同時に進もうとしていた地点が先まで歩んでいた森林とは異なるロケーションだと気づいたセリニはそれを言葉で表わした。


「廃墟」


 朽ち果てた壁や天井、破壊された調度品ちょうどひんや砕かれて倒れた木々が散乱しており、その周囲を雑草が囲っている。

 しかし現時刻は夜で本来なら目視できない筈であったがセリニの目にはその光景がしっかりと映り込んでいる。


「ここも……明かりがあるんだ」


 瓦礫となった岩や木――更には雑草から光が発生していた。

 それらの光源はセリニが向かうべき場所を照らし出していた。


 ――あれが……進む場所……かな?

 廃墟の中には一部の塗装が剥げて砕かれ。瓦礫が邪魔しているが一本の道があった。

 その先には洞窟への入り口があった。


 ――そうだよね。

 自身が立ち止まった地点を見たセリニはその場所から真っ直ぐに進むと洞窟に到達すると計測できた。

 だがそこに行く前にするべき事があった。 


 ――けど……その前にあれを開けないと。

 俯瞰できる場所からエリアを把握できた為に所々に宝箱が置いてある事に気づいた。

 セリニは宝箱を探すのも好きであり、その為ならエリアの隅から隅まで歩く事を厭わない。

 

 ――行く場所は決まったけど。

 目標を定めたセリニだがその場からは動いていない。


「この争いは……どうしよう」


 思案している傍らでゴブリンとスライムの戦いは続いている。

 それらのモンスターがこれからする事を妨害するだろうとセリニは予想する。


 ――一番したい事は……乱入だけど。

 狂想なことを考えたがここはゲームであるために問題ないとセリニは思う。

 今後の激しい戦いに備えての練習――そして純粋に戦闘をしたい気持ちを抱くが今回は自制していた。


 ――それは……スキルを手に入れてから。

 セリニがアルーセから託されたオウルに導かれてここまできたのは転移を可能とするスキル『領域転移』をボスを倒して入手する為であり、戦闘に介入してモンスター軍団に敗北したらその道が遠のくと把握している。


 ――だけど……通らないと進めない。

 しかしながらも目的地を塞ぐ形で軍団による戦闘が続いており、どうするべきかとセリニは考え始めた。

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