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フォニックス 光と闇  作者: ことこん
第十章 研究所とセンク
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第四部 一旦の安息

 僕は迷わず火の玉に突っ込んでいった。キリュウの思惑通りになってしまったが、こればかりは仕方ない。無情にも火の玉はそこそこの速度で落ちていった。この大きさだと、無効にした後立っていられるかわからない。だったら、僅かな可能性に賭けて“吸収”をするしかない。吸収とは、ありとあらゆる妖力を消費する技に対して、体に触れたその一瞬だけその妖力を根こそぎ奪うことだ。成功すれば技は消えて自分の妖力が増えるが、失敗すればノーガードでその技を喰らうという博打。しかも、タイミングはもはや秒の世界を超え、μs(マイクロ秒)レベルの誤差が命取りになるという細かさだ。そのため、知られていてもする人はおらず、ましてや成功例なんて聞いたことがない。まさか僕がこれに賭ける時が来るとは思っていなかったが、これが最善の方法だ。僕は火の玉に向かって腕を伸ばした。指先が燃えそうな程熱い。これは目測より手の感覚に頼った方がやりやすそうだ。僕は増していく熱気を感じながら、その瞬間を待った。今だ!と思った瞬間、僕は火の玉を吸い込むイメージを持った。しかし、火の玉は消えず、失敗した…ように見えた。僕の手に火の玉が吸い寄せられていく。キリュウが純粋に驚いた表情でこちらを見ていた。他人の力をもらって強くなるのと、自らの努力で強くなるのでは強さの質が違うと思う。火の玉は完全に消え、代わりに僕の妖気が高くなったのを自分でも感じた。しかし、着地をしないと意味がない。僕は急いで体勢を整えようと思ったが、クミさんが受け止めてくれた。クミさんはさっきとは違って、覚悟を決めたような顔をしていた。僕は気圧されて何も言えなかった。クミさんは倒れたはずのバボットに向かって歩いていった。僕は気になったが、目の前にキリュウがいるのでそちらに集中することにした。キリュウは小さい火の玉を大量に作って僕に飛ばしてきた。でも、それで分かった。キリュウの残り妖力はそんなにない。技の威力が心なしか落ちているような気がしたのだ。僕はさすがに吸収や無効を連発する訳にはいかないので、まえに進みつつ避け、キリュウに近づいていった。後ろに気配を感じて振り向くと、バボットが立っていて驚きと共に戦闘準備をした。しかし、バボットには生気がなく、なんだか見えにくいが糸がある。見ると、クミさんが五本指でバボットを自由自在に操って攻撃していた。よく五本だけでここまでやれるなというぐらいの滑らかさだった。操り人形になったバボットはキリュウに容赦なくキリュウを攻撃する。しかし、その行為がキリュウを怒らせてしまった。キリュウはバボットを薙ぎ払おうとしたが、バボットは巧みな動きでそれをかわした。クミさんはもう一つの手を向けるとそこにいた蛇を操った。キリュウはやがて防戦の一手を辿るようになり、ついには地面に倒された。キリュウは本当に悔しそうだった。

「うー。やっぱり勝てないのか。こんなに悔しいと思ったのは久しぶりかも」

「あなたはここで消えておいて」

真剣味を帯びたクミさんの声は普段よりよっぽど恐ろしく感じた。しかし、キリュウは笑みを絶やさない。突如、視界に白馬が現れてキリュウを咥え、そのまま消えた。また逃してしまったようだ。クミさんはバボットを置いて、僕の方を向き直った。もういつもの調子に戻っていて、こっちの調子が逆に狂いそうだ。でも、勝つことができただけよし、と、しよ…ってあれ?体に力が入らない。クミさんは僕をベッドまで運んだ。今度は痛みじゃなくて疲労で動けないなんて、余計に情け無い。クミさんは僕を左寄りに置き、右側に自身も寝た。なぜかクミさんのほうが寝つきが良かった。僕も、何度も呼吸しているうちに瞼が重くなってきて、抗わずにそのまま目を閉じた。


 目の前の父さんが怖い。まあ、これに関しては自己責任だから仕方がない。帰ってきて早々実験室に連れて行かれた僕は、なぜか何もしないし話さない父さんを眺めているしかなかった。

「キリュウ。失敗続きのようだな。だが、これは俺が本当にお前をきちんとしなかったことにも非があると思っている。過去より未来だ。キリュウ、次の仕事だ。ひとまずセンクと糸兎は諦め、お前が長年付け狙っていたあの女をもってこい。シンプルだろ?」

「やった!で、決行はいつ?」

「こちらの都合上長くて半年になりそうだ。やる気があるのは良い事だが、あまり感情移入しすぎるな。まあ、今回は少しサービスするべきか。キリュウ。あいつをお前がこの仕事で持ち帰ったら、俺の研究が終わった後はお前がどうするか決めていいことにしてやろう」

「えっ?ほんと?やった!よし、今回は特に頑張らないとね!」


 くしゃみが出た。誰か(うわさ)でもしとるんかな?


 本人やフォニックスたちはこんなことがあったとは梅雨知らず、普通に任務をこなしていた。この当たり前に感じる日常が、崩れ去ってしまうかもしれないというのに。

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