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フォニックス 光と闇  作者: ことこん
第十章 研究所とセンク
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第二部 敗北と謎の女

 「いてててて。いやー、強かったよあの人。技がどっかに消えてくんだ。多分、今の戦力じゃあ勝てないんじゃないかな?どうするの?父さん」

しかし、目の前の研究者は変わらぬ表情で僕を見ていた。これは何か手があるってことだな。

「キリュウ。お前の実力は十分だ。しかし、少々単純すぎる。トリッキーな戦法も覚えておけ。俺からはそれだけだ」

返事をする暇もなく、父さんは去っていった。うーん、勝つために、どうすればいいかなあ。そうだ!いいこと思いついた!


 僕は、(おぼろ)げな記憶を頼りに研究所に向かっていた。場所が変わっていないといいのだが。しかし、突如真上から火の玉が降ってきたが、すぐに避けられるレベルだ。どうやら正解のようだ。

「やっぱ避けられたか。強いね、君。さっきは負けちゃったけど、僕、いいこと思いついちゃったから!いっくよー!」

今度は正面から突っ込んできた。突進…ではなさそうだ。僕はサーベルを抜き、キリュウを突いた。しかし、手応えがない。残像だったか。まあ、後ろにいるのは分かっているが。僕は軽く飛んでキリュウの攻撃を避けた。キリュウも跳んだが、あまり届いていない。しかし、キリュウはなぜかもう一度空中で跳んで僕の足を一瞬触った。しまったと思った瞬間、視界が真っ暗になった。キリュウの誇らし気な声が聞こえる。

「サポートありがと。さあて、こっからどうするつもり?見えないんなら戦いにならないんじゃないの?まあ、降伏するって言ったら命だけは助けてあげるけど?」

残念ながら僕の力でこれは無効にできる。だが、ここはあえて見えていない振りをして油断させた方がいいだろう。キリュウは僕の目の前でずっと返事を待っていた。しかし、突然僕を火の玉で攻撃し始めた。当然僕はそれらを無効にする。キリュウは面白くなさそうに口を尖らせた。僕はキリュウがもう1人の方に目を向けた瞬間に攻撃した。キリュウは吹っ飛び、木に当たった。もう1人の少女も襲いかかってきたが、峰打ちで気絶させた。キリュウは立ち上がると、僕と目を合わせてきた。また何かを仕掛けてきたのは分かったが、対応しきれなかった。何かの状態異常であることは分かったが、無効にできなかった。まさか。キリュウは不敵な笑みを浮かべた。

「これでもう技を消せなくなったよ、センク君」

放たれた火の玉を避けると、その先にキリュウがいて、また目を合わせて来た。すると、今度は全く動けなくなった。キリュウは落としたサーベルを拾って僕に向けてきた。

「さあ、選びなよ。ここで僕に殺されるか、研究者で実験材料になるか。まあ、君にも僕にも決定権はないんだけどね。どうするの?父さん」

『そいつの力は相当だ。連れて帰って来い』

「オッケー、じゃあ行こっか」

キリュウは僕を縄で縛り、引っ張って運んでいった。自分から乗り込んでいって、こんな様子とは情け無い。僕の特殊能力は“無効”で、誤ってやる気を無効にしてしまいしばらく戦っていなかったのが仇となった。一瞬、何かの影が見えた。でも、何も起こらない。気のせいだろ…。僕の体が浮く心地、つまり瞬間移動を感じた。体が自由になり、気づけば僕は気絶していた。


 目をそっと開けると、見慣れない天井。僕は上半身を起こそうとするが、全身が痛くて動かなかった。一体、ここは…。ミシンの音が聞こえる。僕は危機感を持って懸命に五感を働かせていたが、突如長い耳を持った女が視界に入ってきた。

「あっ、起きた。あなた、大ピンチだったね。私はクロッセオ・ミキアン。見ての通り兎で、糸兎なの。長いからクミって呼んでいいよ。あなたの国の人の名前はみんな短いもの」

僕は話そうとしたが、また痛みが邪魔をしてくる。

「無理しない方がいいわ。あなた、三日も寝てたのよ?なんで助けたのか不思議がってるみたいだけど、偶然通りかかっただけ。昔からの性分でさ、困ってる人を見かけると放っておけないの。あの人吹っ飛ばして来ちゃった。別に目的があるわけじゃないから安心して寝ていて」

感謝を伝えたくても伝えられないのがもどかしい。クミが視界から消え、再びミシンの音が聞こえ始めた。クミがミシンを使っているのだろう。

「私、人の心の声を聞くことができるの。だから、少しお話ししましょ?あなたは誰なの?」

僕はセンクです。よろしくお願いします。

「礼儀正しいのね。もしかしてお坊っちゃま?」

まあ、人には言われます。

「あなた、結構可愛い顔してるね」

クミさんはミシンを止めて僕に顔を近づけてきた。きょ、距離が近い…。

「あはは。やっぱり可愛いね。センク君、分かりやすすぎ。きちんと看病するから、安心してよ。最後まで責任は取るからさ」

そういえば、こんなたわいもない会話をしたのはいつぶりだろう。だんだんと(まぶた)が重くなっていく。

「おやすみ」

そう聞こえた気がするが、僕は心の中でも返事をせずに意識を手放した。

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