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フォニックス 光と闇  作者: ことこん
第六章 悲しい再会
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第五部 別れるなんて

 私は目を覚ました。見慣れない無機質な天井。私は病院に運ばれたのか。ウーベイが隣にいて、安堵の息をついていた。よっぽど心配してくれていたんだろう。傷はまだ痛むけど、もう大丈夫だろう。私は体を起こした。ウーベイが慌てている。誰が治療してくれたんだろう。こんなに早く治すなんて、よっぽどすごい医者かそういう技使いにしかなし得ない事だ。

「姉さん!すっごい心配で…本当に、本当に良かったのでございます!すごかったんですよ!先程マントを羽織った不思議な出立ちの人が来て、姉さんや他の患者さんも次々と治していって!でも、『ただの放浪人だ』と言って立ち去ってしまって…いつかお礼がしたいのでございます!」

畳み掛けるように話すウーベイを見ていたら、なんだか元気になって来た。私はベットから降りようとしたが、こちらに向かってくる妖気を感じて動きを止めた。なんだか、馴染みのある妖気…。いや、これはライトさんの妖気だ。鈍い私でもわかる。ドアが開けられた。ライトさんがノックもせずに入ってくるなんて珍しいな、と思ってライトさんを見たが、随分と暗い顔をしていて話しかけられなかった。

「イネイ。その様子を見ると、もう大丈夫そうだな。…イネイを撃ったやつ、絶対許さないと思っていたんだが、…ムルル、だったんだ。でも、あれは本人の意思じゃなかった。だから責められなかった。考えたんだ。イネイはフォニックスの近くにいたら危険なんじゃないかなって。それに、ミレイの時に言ったチャンスは、もう使ってしまった。俺だってそんなこと気にしたくないさ。でも、イネイが危険な目に遭って、しかもその戦いが毎回複雑な形で終わって…。足手纏いとか、そういうのじゃない。イネイの決意も大事にしたい。だけど、これ以上危険な目に遭わせたら、穀物屋敷の人たちに合わせる顔がないし、何よりイネイが気がかりなんだ。だから…」

ライトさんの目から涙が溢れた。ライトさんは慌てて拭ったが、全然止まる様子はなかった。

「あれ…?おかしいな。ちゃんと決意したのに、泣かないって、笑顔で話すって、決めたはずなのに、なんで泣いてんだ?くそっ。なんで俺の体はこんなに嘘が苦手なんだよ?これは、イネイのためにやろうとしたことなのに。イネイ、俺からは無理みたいだ」

何が無理かなんて、言わずともわかってしまう。私は思わず…ライトさんの頬を思いっきり叩いた。体勢を崩してかがみ込んだライトさんに対し、私は立ち上がった。

「なんなんですか!私の為だなんて言われて、ズコズコと穀物屋敷に帰って行くなんて思ったんですか!しきたりがなんですか!複雑な形ってなんですか!ミレイさんは、これっぽっちもそんなことを言っていませんでした!勝手に決めつけないでください!それに、足手纏いなのは誤魔化そうとしたって事実です!歴史研究に行っても、強くなれる訳じゃありませんし!…すみません。ちょっと言い過ぎましたね。ライトさんの気持ちはわかります。もしライトさんが心から望むのなら、私にどうこう言う権利はありません。ただの居候ですから。実は、ウーベイは知っていると思いますが、別にフォニックスの本拠地にいなくとも私はこういう目に遭うんですよ。だから、ライトさんが別れたいだなんて言ったとしても、私は絶対認めませんし、あそこにいます。ライトさんは少し勘違いをしています。私の決意は、ライトさんありきなんです。それくらい、私にとってライトさんは大事な存在です」

ライトさんの綺麗な茶色の目が揺れる。

「…イネイ、そんなことを言ったら、俺、一生手放せる気がしなくなっちまうぞ?別に俺は強くなんてない。親父の真似をしているだけだ。別れるなら、今くらいしかチャンスが無いと思うが?」

「どう言おうが私の考えは変わりません」

気づけば、ライトさんを睨んでしまっていた。ウーベイが私の睨み顔にびっくりしているのが視線の端でわかる。ライトさんはため息をついた。

「…俺、何を話に来てたんだろ。やっぱ俺、情けないな」

「ライトさん!そういう所ですよ!もっと自分に自信を持ってください!私が保証します!だから…」

今度は私の方が泣いてしまった。

「ずっとずっと、一緒にいてください」

ライトさんは、驚いたようにこちらを見た。しかし、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「ああ。絶対に、守ってやる」

部屋のカーテンが大きく揺れた。すると、なんだか心地の良い風が吹いて来た。火照った体を冷ましてくれるようだった。突然、ドアが開いた。

「他の患者様のご迷惑になるので、お静かに」

看護師さんに、注意されてしまった。その後ろには、なんとツーハちゃん。

「ライ兄、イネイさん、うるさい」

そのまま去っていった2人を見送ると、私は改めてライトさんを見た。それに気づいたライトさんが私を見た。その瞳に映っている私は、きっと真っ赤なのだろう。勢いってすごい。


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