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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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94/186

第94話 ▶開戦

「おい醍醐。俺様の目が腐っていなければ、あの角。鬼に見えるのだが?」

「鬼だろ。テメェ、さっきマイクで言ってたの聞いてなかったのか」


 Dランクの仮設テント。

 観客が我先にと下山する中、真津璃たちは黙って事の成り行きを見守っていた。宿敵が現れたというのに、彼女たちの心は思いのほか冷静だった。感情的な人々を見てかえって落ち着いたのだろう。


 真津璃は短く息を吐いた。

「それで、月尊さん。これからどうするんだ?」

「あいつらに好き勝手言われるのは、あんまりいい気分はしねえな」

「フゥン。戦うというなら俺様も助太刀するぞ」


 三人の声を受け、月尊は静かに正座を解いた。

「……本来であれば、私は皆さんを危険から遠ざけなければならない立場にあります。ですから、これは私の個人的なお願いです」


 立ちあがり、彼女はグッと歯をくいしばった。

「彼らを追い返してほしいのです。唯人さんを、桃神郷を助けてくださいっ……!」


 胸の内から湧き出る、団月尊の本音だった。嘘偽りない心の叫び。

 三人の答えは決まりきっていた。その言葉を待っていた、と言わんばかりに三人は腰をあげる。


「フゥン。まだ身体に痺れが残っているが、これくらい誤差の範囲だな!」

「天地、テメェ一人にいい格好はさせねえぞ。俺も戦う。決勝戦に出られなかったぶん、派手に暴れてやろうじゃねえかっ」


「私も同意だ。どうしてもこの手で倒さないといけない輩がいるのでな」 

 真津璃の声には含みがあった。


 三連星の一角、筋肉漢ビドゥ。真津璃はかつて彼と船上で拳を交わし合っている。

 その事実を知るのは彼女と要、加えて唯人の三人のみ。


 しかし。

(妙だと思っていたのよね。鬼と交戦したあの時、手応えはあったのになぜだか違和感があった。その正体も今ならわかる。あいつは、手を抜いていたんだ。……でも、どうして。あいつの目的は、船を襲撃する以外の何かだったというの?)


 真津璃が思考を巡らせる中、月尊は静かに俯いた。

「……あ、ありがとうございます。本当に、ありがとう」


「気にしなくていい。桃太郎というのは、すべからく鬼を討つために存在している。ここで戦わずしていつ腰元の刀を抜く?」

「真津璃の言う通りだな。まず、やつらの元から唯人と備然を救い出すぞ」

「実に面白い! では、さっそく参ろうか」


 四人は同時に首を振り、鬼のいる戦場に繰り出した。


 一方、フィールドの中央で佇むビドゥとアンジュは、視線をそのままに言葉を交わす。

「来たわよ、ビドゥ。しかも、あの袖が長い美形クン。アンタのお望みの相手じゃない?」

「ああ、間違いねえ。今度は俺が圧倒的に勝つ。お嬢さん、ここは俺に任せてくれねえか」


 ビドゥはボキボキと拳を鳴らす。相当、やる気に満ちた様子だ。

「……わかったわ。じゃあ、アタシはあっちの雑魚共を蹴散らしてくるから。くれぐれもダァトは巻き込まないようにっ!」

「ああ! あの美形野郎が付けている甘いマスクは、俺が剥ぎ取ってやるぜ!」


 大丈夫かしら、とアンジュは頭を掻くと、押し寄せる観客・応援団の方へと飛んでいった。

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