第88話 ▶ヒートアップ・ファイナル
磁力のあるところへ飛びかかることができるからくり、『磁力バット』。示す先は備然……ではなく、その足元。
「唯人氏、備然氏に向かって飛びましたぞーっ!」
左手にバット、右手に刀。真津璃ほどじゃないが、俺だって二刀流くらいやれるんだ。想定外、という表情の備然に刀を振るう。
バキッ
やつの横っ腹を叩き斬る。
──入った!
久方ぶりの爽快感。こちらの動きは読まれているはずなのに、なぜだか綺麗にヒットしたぞ。
珍しく顔を歪ませながら、備然はその場で後退する。
「チッ、砂鉄か……!」
「ご名答っ」
足元に『磁力バット』が反応した理由、それは無数に広がる砂利……に含まれる砂鉄だ。こんなものに意識を向けるのは小学校での砂場遊び以来か。
なんにせよ。
ぶっつけ本番だったが、上手くいって助かった。
「ようやく人間らしい表情をしてくれるようになったな、備然!」
「弱者が、生意気な……!」
距離を取ろうとする備然を逃さず追走。このチャンス、逃してたまるかよ。
「続けていくぜ、歯ぁ食いしばれ!」
「チィッ」
刀の一閃が備然を襲う。もらった! と勝利を確信した刹那、俺の身体はふわりと宙を舞っていた。
「……は?」
意味がわからない。やつの手元に武器らしきものはなかった。しかも、『磁力バット』の検証で金属の類という線もあり得ない。あの状況から吹っ飛ばす方法なんて……。
視界の隅に見えたのは、そう。
「備然氏、ここでまさかのカウンター攻撃ですぞー! 手にしたからくりはさながら如意棒っ」
数メートル先の地面に尻もちをつかされた俺は、仁王立ちする備然をキッと見上げる。
「如意棒、だと?」
「いかにも。私も少しは本気を出せそうだからな。……名を『ガンダーラの如意棒』という」
嫌な孫悟空もいたもんだ。
「なーるほど。手のひらサイズのそいつを伸ばして反撃ってわけだ。二つ目のからくり……テメェも出し惜しみ無しで嬉しいぜ」
「出し惜しみ無しだと? 笑わせるな。キミの力はそんなものじゃない。あの時の……私を圧倒したキミは、今よりずっと強かった」
ドクン、と胸が波打った。
今まで押し込めていたあの時の自分。
俺が俺でなくなるような感覚。
「……何言ってるか、わかんねえなあ」
あれはダメだ。本能的なものがそう囁く。あれを呼び出せば、俺はまた自我を忘れてしまう。
『しかし、このままでは備然に勝てないぞ? 負けてもいいのか。全力を出せぬまま負けても』
誰かが、そう言った。




