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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
85/186

第85話 ▶敵わない相手、変わらない相手

 窮鼠猫を噛む。


 近づいた備然に突き立てられる、『即席の刀』。殺傷能力こそないが、みぞおち辺りをやられており、備然も虚を突かれたように顔を歪める。『第三の目』をもってしても想定外の事態だったのだろう。


「く、ふふ……。見苦しいものだな、弱者の足掻きというやつは」

「その弱者にやられるあんたも大概なんじゃないか?」


 反抗的な目で見あげる真津璃を、備然はブーツの底で蹴りつけた。痺れ毒にやられた真津璃は、横に倒れたまま動けない。無情にもカウントダウンが始まった。


「粋がるなよ。矜恃を捨ててなお勝つことの出来ない弱者が」

 ぐっ、と唇を噛む真津璃。その腹の上に右足を乗せ、備然はひどくつまらさそうにあくびを噛み殺した。


「終わりだ。結局、テメェは何一つ変わっちゃいなかった」

「ここで10カウントーっ! 備然氏、危なげなく真津璃氏を打ち破りましたなっ」


 響く決着のアナウンス。俺は仮設テントを飛び出し、倒れている真津璃に駆け寄った。


「備然……いい加減その足どけやがれ!」

「フフ、そこの弱者が惨めに敗れ、怒ったキミが出しゃばってくる。船の時とまるで同じだな」


 やっぱりこいつは気に食わねえ。やつの主張が正しいのか間違っているか、そんなことはどうでもいい。


「ムカつくからぶっ飛ばす。それだけだ。恨むなよ、備然」

「本当に……変わらないな、キミは。いいだろう。今度こそ完膚無きまでに叩きのめす。恨むなよ、唯人」


 真津璃を担架に任せ、定位置につく。これが最後の闘いだ。醍醐が、天地が、そして真津璃が繋いでくれたリレーバトン。月尊ちゃんの笑顔のためにも、優勝だけは譲れねえ。


 ゴシップの実況も最高潮に達する。

「さあて、少なからずトラブルはありましたが、ランク対抗戦もいよいよ大詰めですな! 吉良唯人バーサス独守備然っ。最後に笑うのはDランクか、Aランクかっ!? それでは参りましょうかな。レディー……ファイナル・ファイッ!」


「行けえ、唯人!」

「俺様の活躍を無駄にするなよー!」

「唯人さん、頑張ってくださーい!」


 ワアア、と双方の仮設テント、及び応援団の席が沸いた。空気の澄んだ山の中腹にあがる、うなるような強い熱気。


 喧騒の中、始まった。

 俺と備然による、二度目の『決闘』が。


 ▶▶▶


 時を同じくして。


「ついに始まりましたね」

「ふん。見るからに楽しそうじゃな、語り手(ストーリーテラー)。年末特番が始まったみたいな反応しおる」

「似たようなものだよ」


 決戦のフィールドから五十メートルほど離れた岩場にて、二人の老人が下の景色に思いを馳せていた。


 からくりマスターはため息をつく。

「まあ、確かにいい勝負じゃよ。Dランクの連中がここまで拮抗するとは思わなんだ。……もっとも、お前にはすべてお見通しなんじゃろうけどな」


 嫌味を含んだその視線を、語り手はあっさり一蹴した。


「いいえ。今回、私は一度たりとも視ていませんよ」

「ほう。珍しいこともあるもんじゃな。……して、その心は?」

「簡単なことです」


 フッと短く笑うと、語り手は仙人のような白髭をちょいと撫でる。白髪に覆われた瞳の奥は、深い期待の色に染まっていた。


「この目で見届けたいのですよ。運命が変わる瞬間ってやつをね」


 ロマンチストめ、とマスターは頭を掻いた。

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