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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
48/186

第48話 ▶提案

 あらすじ:宝物部屋&備然発見

 突如として視界に飛び込んできた、真津璃と備然のドンパチ。鞘から抜いた模造刀が振り下ろされる。いまいち状況が掴めずにいると、備然は軽やかな動作で一歩後退。斬撃を避けて刀身を鷲掴みする。


「そう急ぐな。私はまだこの宝箱を開けていない。むしろキミたちを待っていたんだよ」

「なんだって……?」

 真津璃はギリリと声を震わせる。いきなり斬りかかるとは何事かと思ったが、なるほど。備然がすでに弩級からくりを手にしている可能性を考慮していたのか。確かにそうなるとおちおち手段を選んでいられない。迷っていたらこちらが弩級の餌食になってしまう。


 備然は祭壇の上から辺りを見下ろし、俺たちのことにも気がついたようだ。ニヤリと意味深に口角をあげる。両手を掲げると、演説でも始めるかのようにやつは声を張った。

「役者は揃ったようだな。少し話をしよう、ここまであがって来い」


 何を考えているんだ、あの黒コート野郎は。弩級からくりがあるのならさっさと取ってしまえばいいだろうに。ジョーと顔を見合わせて、警戒しつつ前へ進む。

 祭壇を上っていると、役者とやらが俺たち以外にもいることがわかった。宝箱に座す備然の周りにはおよそ十人の生徒たち。

「あれ見ろよ、唯人。オレたちより前にあんなに人がいたってのか」

「これだけしか残っていないとも言えるけどな。全員無事ならいいんだが……」

 一段一段上りながらそんなことを思う。祭壇に着くと、筋骨隆々な男どもに紛れ、天地やゴシップの姿もあった。見知った顔が多いのは喜ばしいことだ。なにより。


「真津璃」

「……唯人」

「お前、無計画に突っかかるのはどうかと思うぜ。結局備然に止められてるし」

「う、うるさいな! 開口一番がそれかっ? もっとこう……あるだろう!」

 しゃああ、と毛を逆立てる真津璃。思いのほか元気そうでよかった。


 さて、と備然は手を叩く。

「ここにいる者たちはみな、この洞窟を攻略した手練れだ。キミたちの腕を見込んだうえで、あえて提案しよう。これから始まる()()()についてだ」

「後半戦だぁ……?」


 ジョーの呆れたような声に備然は頷いて返す。

「見ての通り、これが弩級からくりの入った宝箱だ。しかし、開けようにも鍵がかかっていて開かない」

 真津璃が率先して宝箱の口を持ちあげようとするが、固く閉ざされていたようだ。諦めて首を横に振る。


「困ったことに、鍵穴はあるのだが当の鍵がない。鍵がなければ宝箱は開かない。わかるな?」

「フゥン、どうやらお前は俺たちを馬鹿にしているようだな!」

 そうではない、と備然は刀に手をかけた天地を諫める。


「私を斬りつけたところで事態は好転しないぞ。……して、鍵の在処だが」

「……奥の部屋ですかな?」

 備然が指したのは自身の後ろ。よく見ると、祭壇の奥に隠し扉のような輪郭が薄っすら浮かんでいた。周囲から感嘆の声があがる。俺も全然気づかなかった。


「オマエ、そこまで知ってんだったらさっさと取りに行きゃいいじゃねえか」

 誰かが言った。そして、誰もが思ったことだろう。わかっているのであれば、なぜ俺たちを待つ必要があった?

 備然は短く鼻を鳴らす。

「言うまでもない。まったく、何重にも面倒なことをさせるやつらだ。……開かないんだよ、その扉も」


 そんなはずねえ、と扉付近にいた男たちがペタペタと壁を触る。結果は恐ろしく単純明快だった。

「ほ、本当だ。開かねえどころか鍵穴すらねえぞ。どう開けんだ、これ」

「私の見立てだと、あれだ」

 俺は後ろを向いて、納得した。祭壇から見下ろす景色には通路が四本映っている。一本道だと思っていたが、複数の道がこの部屋に繋がっていたようだ。

 そして、各通路の床にはそれぞれ数字が刻まれている。向かって左から1、2、3、4。なんだか道路標識みたいだな。


「あの数字の上に載ると、わずかに床が沈むんだよ。それを四つ同時に作動させたら……どうだ、何かが起きそうじゃないか?」

 俺は四本の通路を眺めながら言葉を発する。

「ゲーマー的な考えだが、今までの傾向からしてあり得なくはない、か」

「独走を防ぐという意味でも理にかなっていますな」

「どういうことだよ、ゴシップ?」


 情報屋は眼鏡をクイッとあげる。

「宝箱を開けるためには自分を除いて四人が必要。加えて、弩級からくりを手にした後も四人が通路を守っていますな。そうなると交戦は必至ですぞ。最低でも四人が弩級を狙ってくるわけですから、当然お宝を独り占めできる確率はガクッと落ちますな」

「所有者をめまぐるしく変えるための仕掛け、ということか」


 こくりとゴシップは首肯した。確かに、交戦が学校側の目的なら合点がいく。後発組や出待ちにここまで寛容なのも、復路の争奪戦を盛りあげるため。一番乗りであろう備然には気の毒だが、俺たちからしたらこれはチャンスだ。

「で、お前は俺たちに何を求めているんだ」

「わかるだろう? 一時的な同盟関係だ。キミたちに頼みたい任務は、通路に書かれた四つの数字を踏むこと。扉が開いたら私が中で鍵を取ってきて、この宝箱を開ける。……そこから先は恨みっこなしだ。キミたち全員でかかってくるといい」


 その言葉を聞いた瞬間、辺りに重苦しい圧が放たれた。相変わらず人を馬鹿にするのがうまい野郎だ。わざわざ全容を明かすということは、ここにいる十数人全員を出し抜く自信があるってことだ。

「やってやろうじゃねえか」

「フゥン。唯人がやるなら、俺もだ!」


 祭壇の上はたちまち賛同の声で一杯になる。初めは静観しているやつらもいたが、俺たちがずかずかと階段を下りると全員後ろについてきた。不服そうな顔もいくつか見える。代案が浮かばない以上仕方ない、と思ったやつもいただろう。まあ、これで間違っていたら盛大に笑ってやろうぜ。


 ――じゃあ、お前は四の通路についてくれ。

 ――お前は二番だ。よろしく頼む。


 極力偏りが出ないように、十数人を四チームに振り分ける。仕切ったのはいかにもリーダーっぽい佇まいの男。誰かは知らないが、Aランクということで不満を口にするやつはいなかった。


 俺は、真津璃やゴシップと同じ、四番通路の担当に決定。

「これでいいのか……?」

 真津璃が途中こぼした言葉はいやに印象的だった。



「配置完了だ! 備然クン、扉の方はどうだ?」

 リーダーっぽい風貌の男はハキハキした口調で準備万端の旨を伝える。それを聞いた祭壇の備然は声をあげた。


「開いたようだ。感謝する」

 おお、と歓声が湧きあがる。しかし、どうにも備然の様子がおかしい。


 まさか、と思った時には遅かった。


 やつはコートの内ポケットから()を取り出すと、そのまま鍵穴に挿入。宝箱の封を解いたかと思えば、中のものをぶんどった。まさに刹那の出来事。誰もが呆然とその様を見ていた。


 訳がわからない。

 ただ、これだけは確かだ。


「──備然、テメェ!」


 後半戦が、始まった。

 ちこくしました。

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