第28話 ▶ダウト!
『ダウト・ジョーカー』
1~4+ジョーカーの計5枚を手札に持ち、スタート。
互いに1枚ずつカードを出し合い、強さを競う。
最強札はジョーカーだが一人一度だけ「ダウト」を宣言でき、
見事ジョーカーを言い当てたらその回は宣言したプレイヤーの不戦勝となる。
手札が尽きるまで繰り返し、持ち点の多いプレイヤーの勝利。
「唯人氏……だ、ダウトですとな?」
「それはこっちの台詞だよ。男に二言はねえよなあ?」
ゴシップはバランスを崩し、椅子から転げ落ちてしまう。無意味にがたがた揺らしてるからだよ。
「ま、待つのですぞ。今ならまだダウトを撤回しても……」
「ショーダウンだオラァ!」
「ああああ、なんてことを!!」
1を出した俺に対し、ゴシップのカードはジョーカーだった。
最弱vs最強。本来なら逆立ちしても勝てない対面だ。しかし、最強のジョーカーは切り札でなく道化師。
化けの皮を剥いでやったのだ。
『い、1がジョーカーに打ち勝つなんて……っ』
ここまで無言だった風音もモニター越しに驚いている。
「な、なぜ小生がこのタイミングでジョーカーを出すとわかったのですかな? 捨て札である1を出したということは、初めからダウトを狙っていたのでしょう?」
「簡単な話だ。俺がダウトさえしなけりゃ、お前はジョーカーで必勝だったからだよ」
先ほどの三回戦、ゴシップの手札は1、2、ジョーカーだった。二勝という蓄えがあるとはいえ、手持ちが最弱の1と2では心もとない。
だから、ゴシップは必勝のジョーカーを使い、手堅く三連勝を狙うと踏んだのだ。
「正直、逆の立場だったら俺も同じことをしてたと思うぜ。ジョーカーを出せば負けることは無い。怖いのはジョーカー同士がかち合って引き分けになることだが、それもダウト宣言をすることで未然に防げる」
「そ、そうですぞ! だから小生はジョーカーを出した……。懸念事項といえばダウトを宣言されることですが、唯人氏はここを外せば四戦目での敗北が確定! 無防備を晒す危険を冒すはずがないと思っていたのですがな」
俺としてもここは大きな賭けだった。
いかんせん、先の二敗が痛すぎる。多少危ない橋でも渡らざるを得なかった。
……もっとも、この三戦目を落とせば確実に俺の負け。ならば、せめて、というヤケっぱちな思いも少なからずあったのだが、いい方に転んでくれて助かった。
「まあ、これで俺の一勝二敗。四戦目と行こうぜ」
「そ、そうですな。……ん?」
ゴシップは怪訝そうに眉をひそめる。そして、「あっ」と間の抜けた声を漏らした。どうやら気づいたようだ。
すでに、自分が詰んでいるということに。
「ああっ、ああああ!」
この四戦目、ゴシップの手札には1と2しか残っていない。ジョーカーも宣言も使い切り、手元にあるのは最弱のカードばかり。
おまけに。
「わかっていると思うが、俺の手札は4とジョーカー。どうかち合おうと結果は変わらねえ。チェックメイトってやつだぜ、ゴシップ」
「……か、完敗ですな。『透紙眼鏡』を持ってして負けるとは」
情報屋はガックリと項垂れ、陥落する。陥落ついでに訊いてみたが、思った通り。ゴシップの掛けている丸眼鏡は、カードの裏を透視できるというからくりだった。いよいよ何でもありだな。それズルい! と言えないのが辛いところである。
最後の二戦は早かった。消化試合のようにあっさり展開し、結果は俺の三勝二敗。無事勝利を収めた。
顔には出さないが、死ぬほど緊張した。もう本当こんなギリギリの闘いはしたくない。せめて、こっちもからくりを手に入れてからだな。
「……はっ、そうだ。からくりの情報っ、俺が勝ったらくれるんだったよな。キビダンゴを使わずして手に入れるんだっけ」
「ええ、ええ。承知の上ですぞ。……風音氏、もう少々この場をお借りしてもよいですかな?」
自分に話を振られるとは思っていなかったのだろう、風音の肩がビクッと跳ねる。
『あっ、えっと……一応ここは『決闘』用のフィールドなのですけれど、誰かが入ってくるまでなら、大丈夫でしょう……たぶん』
すこぶる心配だが、まあいいだろう。ちゃちゃっと聞いて終わらせよう。
カードを箱に片ながら、対面のゴシップに訊く。どうでもいいけど、これ確か新品だったよな。毎回新しいのに変えんの?
「……で、なんなんだ。キビダンゴ無しでからくりを手に入れる方法ってのは」
やれやれ、とゴシップは首を振る。
「簡単なことですな。キビダン無理ゴ以外のものを交換材料にすればいいのですぞ。例えば、一生マスターに仕えます、みたいな」
「ヘビーすぎんだろ」
だが、確かに盲点だった。今回だって俺の個人情報を賭けて闘ったわけだし、キビダンゴがすべてじゃないのは肝に銘じておこう。
「でも、俺たちは手ぶらでこの島に来たんだろ? 贈賄できるもんなんてねえじゃんか」
「贈賄言っちゃダメですぞ。それに、無いなら作ればいいではないですか。あなたが目の敵にしている備然氏だってそれを引き換えに強力なからくりを手に入れたのですから」
「備然が……? お前、知ってるのか」
やつの持つチートアイテム、『第三の目』。それをどうやって入手したのかは純粋に気になる。
「ああ、アレですかな? 備然氏がマスター氏と契約したんですぞ。『毎日必ず一つ、花歌氏に関する情報を提供する』と」
「ええ……」
クソ野郎とエロジジイの顔が脳裏に浮かぶ。
そういやあいつ、花歌さんに好きな食べ物訊いてたっけ。トムヤムクンとかなんとか返されていたはずだ。
そりゃ確かに、目的のためなら手段を選ばないやつだが、普通そこまでやるか?
……いや、たぶん本命は別だ。備然の野郎は花歌さんに惚れている。だから、あいつにとって花歌さんの情報を得ることは自分のプラスにも繋がるのだ。
絵に描いたような一石二鳥。たいした野郎だ。
けどな。
『あ、あふぅ……』
ほら、風音もドン引きしてんじゃん。
バツン。
しかも一方的に通信切られたわ。モニターが真っ暗闇に染まる。当たり前だよ馬鹿野郎。あの子、たぶん今頃布団被ってビクビクしてるぞ。可哀想に。
「でも、待てよ。『第三の目』って心の声を聴けるんだろ。だったら、あのエロジジイが自分の足で行けば……」
花歌さんの秘密を盗み聴きし放題だ。そんな便利アイテムを作っておいて、なぜ自分から動かない?
ゴシップは眼鏡を押さえてニヤつく。
「さあ、なぜでしょうな? これ以上の情報は有料なのであまり多くは語れませんが、面白い勝負をさせてもらったよしみで一つヒントをお教えしましょう」
やつは俺の前に賭け代を3枚差し出すと、不敵な表情を一層強めた。
「──からくりは、完全無欠ではありませんぞ」
上等じゃねえか。
俺はキビダンゴを根こそぎぶん取り、ちょっと変わった情報屋と拳を交わした。
心理戦って読む分には非常に楽しいですけど、書くとなると本っ当に大変ですね。本当に。
でも楽しい……。




