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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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第20話 ▶からくりマスターと呼べ

 あらすじ:からくりはいらんかね?

 またおかしな人が出てきたぞ。それが、じいさんを目にした俺の率直な感想だった。


 ボロボロのツナギに身を包み、ボールペンで『からくり しゅっちょうはんばい』と書かれた看板を、吹きっさらしの店先に掲げている。

 商品棚らしきダンボール箱の上には、単一乾電池やリストバンドといった小物が無造作に並べられている。

 どう見てもガラクタであるはずなのに、何が俺の琴線に触れたのか。ふらふらとそちらに足が向いていた。


「からくりだってよ、ちょっと見て行こうぜ」

「やめときなよ、唯人。どう見ても怪しいじゃないか」

 真津璃は冷めきった目でこちらを見る。そんな顔をしようとも、俺の意思は変わらんぞ。千鳥足から小走りに変わり、遂にはダッシュを始めていた。


 こちらの存在に気づいたじいさんは、一眼レフのレンズみたいなゴーグルをグイグイと動かしながらニッと笑った。

「おおう! お客さん第二号じゃあ。ほれほれっ、ワシの可愛いからくりちゃんを見てってくれえ」

「おっす、じいさん。からくりってなんなんすか?」


 俺がそう言った途端、じいさんは狂ったように怒鳴りだした。

「違う違う、ワシはじいさんじゃないっ。からくりマスターじゃ! マスターと呼べ、小童がっ」

「す、すまん……ま、マスター」

 むふー、と自称マスターは頬を緩める。目元が見えないくせに感情豊かなじいさんだ。


 商品棚の中から、真津璃は乾電池をひょいと摘みあげた。なんだかメカメカしい形状をしており、側面には犬のシールが貼ってある。

「おじ……マスター。これはどういったアイテムなのですか?」

「ふむ、少年よ。なかなかいい目の付け所じゃな。これは犬印の『バリ乾電池』。凸部分を2回押してから投擲すると、乾電池そのものが強力なスタンガンと化すのじゃあ!」


 ハイテンションな説明に真津璃は若干辟易しているが、俺は溢れる興奮を抑えられずにいた。

「スタンガン? 電撃? ど、どういう仕組みなんだ。おい、真津璃。早く俺にもそれ見せろよ」

「えっ……あ、うん」

 置いてけぼりのやつから乾電池を受け取ると、上下左右、舐めまわすようにそれを観察した。やはり特殊な仕掛けは見られない。単一乾電池にしてはややずっしりしているが、違和感はない。


「気に入ったようだな、目つきの悪い少年。ほれ、ちょいとワシに貸してみろ」

 ちょいちょい、と俺に手招きするので、言われた通り乾電池をマスターに渡す。かと思えば、じいさんは素早くプラス極端子を二度押すと、野球ボールでも投げるかのように俺に乾電池をぶん投げてきた。


「はあああっ!?」

 完全に頭も身体もパニック状態で、動こうにも動けない。結果、俺は為す術なく乾電池が横っ腹にヒットする。


 刹那。


「ぎゃあああああああああ!!」

 冗談みたいな量の電気が身体中にバリバリと流れた。頭をノックすると電気の走るボールペンがあるが、あんなものの比じゃない。なんだこれ。俺、死ぬのか?


「ちょっと、おじいさんっ」

「ワシはからくりマスターじゃ。だいじょーぶ。一時的に身体を痺れさせるだけで、命にかかわるようなもんじゃないぞい」

「い、い、いま。す、スタンガンって言ったじゃねえか!」

 くそっ、ろれつがうまく回らねえ。少しずつ痺れは引いてきたが、めちゃくちゃ危険じゃねえかこのじいさん。

 文句の一つでも言ってやろうと足を踏み込む。じいさんは地に落ちた乾電池を拾って、俺に差し出した。


「もしもの話じゃ。お前さんがバリ乾電池(こいつ)を身に着けていたら、独守……なんといったか。ともかく。あの船での『決闘』の結果も変わっていたかもしれんのう」

 じいさんの口から飛び出したのは、予想だにしない言葉だった。真津璃も何か言いたそうに口をぱくぱくさせている。

 一方的にボコられた備然との闘い。あの時、からくりを持っていたら……。馬鹿か、俺は。そんな『もしも』を考えてどうする。


「あ、あんた。なんで船でのことを知ってんだ」

「ワシが桃神郷の人間じゃから。それ以上の説明がいるかの?」

 差し出された乾電池を手に取り、俺は気づいた。ああ、そうか。珍しいものに目が眩んでうっかりしていた。

 ここは桃神郷。そして、ぶっ飛んだ力を持つからくり。

 簡単なことじゃないか。


「じいさん……いや、からくりマスターさんよ。あんた、このからくりを俺たちに売りつけるつもりだろ」

「ふんっ。売りつけるとは人聞きの悪い。望むのならばくれてやってもいい、そう思っとるだけじゃよ」

 ニヤリとマスターは腕を組む。こちらの出方をうかがうような、挑戦的な笑みだった。

 いまいち理解できていないらしい、真津璃は俺に耳打ちする。

「唯人、どういうことだよ。男二人で盛りあがっちゃって」

「おめーも男だろが。いや、んなことはどうでもいいんだ。これは、チャンスかもしれねえぞ」


 はあ? といつもの馬鹿を見る顔をしている。だがな、今回ばかりはゲーマーの俺が一枚うわてだったみたいだぜ。

「月尊ちゃんが言ってたろ。『決闘』以外でキビダンゴをやり取りしても構わない、って」

「ああ、覚えている。合意の上であれば可能なのだったな」

「その通り。じゃあ、俺とマスターの利が一致したら、キビダンゴでからくりを買うことも可能ってこった」

 ハッとした表情を浮かべる真津璃。その顔は、驚きの表れか、それともそんな危ないもん買うなよ、の意か。


「問題ねえ。『決闘』のルールにアイテム持ち込み禁止なんてルールはなかったし、仮にマスターが怪しい人間だとしたらとっくに忍者共が動いているはずだろ?」

「確かに、それもそうか」

 そうだとも。キビダンゴに価値があるのなら、物を買う店があってもおかしくない。ゲームで培った慣性だったが、まさかこんなところで役に立つとはな。


「……悔しいが、キビダンゴで物を買うなど僕には無い発想だった。考えてもみろ、あれの所持数がランクに直結するのだろう? ひたすら貯めることしか頭になかったよ」

「まあ、そこは駆け引きだよな。お前は素で強いから一心不乱に集めりゃいいが、俺みたいなクソ雑魚は道具の力でも借りねえと一生負け犬Dランクだ。そのために多少のキビダンゴを失うのは仕方ねえ。いわば未来への投資だ、これは」

「なるほど……これは存外、奥が深そうだ」

 真津璃は納得したように頷くと、腰元の巾着袋を開いて微笑んだ。

「……で、からくりマスター様よお!」

 俺はじいさんに向き直る。


「このからくり……『バリ乾電池』だったか? こいつ、キビダンゴ何枚で譲ってくれる?」

「50枚」

 ひょー、なんて声を出したのは、後にも先にもこの時だけだった。

 異能アイテム『からくり』、登場です。

 将来的にこれは間違いなくインフレするので、異能(仮)としておきました。

※タイトル変えました

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