第18話 ▶桃神郷で生きるということ
あらすじ:二段ベッド 上で眠るか、下で眠るか
「二段ベッドジャンケンだって? なんだそれは」
「知らねえのか? 部活の合宿なんかでよくやるだろ。同居人とジャンケンをして、勝った方が上段のベッドを使用できるっつーあれだよ」
俺は鏡台の前の腰掛けに、どっこらせと腰を下ろした。頑なに玄関から入ってこようとしない真津璃に、俺は人差し指を立てて言う。
「本来なら、『決闘』で白黒はっきりさせたいところだが、いかんせんフィールドの場所を把握しきれていない。今回はジャンケンでいいだろう」
「いや、僕は別にどっちでもいいし……」
なんだよ、張り合いのないやつめ。こいつとはしばしば妙な擦れが生まれるな。女の子と話しているような気分だぞ。
そういえば、フィールド外での『決闘』はどのような処理がなされるのだろう。俺たちのキビダンゴ讓渡は黙認されたのだから、フィールド外で『決闘』、あるいはキビダンゴの移動があっても問題なしということなのか。
その辺りも近いうちに確認しないとな。
「……で、お前。本当にどっちでもいいんだな?」
「まだベッドのこと言ってるのか? 好きにしたらいいだろっ」
ぷいっとそっぽを向かれてしまった。今の会話で機嫌悪くする要素あったか? 真津璃の感性はよくわからんな。
俺はケッと吐き捨てると、二段ベッドのハシゴに手をかける。
「へん。どっちでもいいってんなら上段は俺がいただいちゃうもんね。後から言っても変えてやんねぇからな、バーカ!」
きしむハシゴを上りきり、ばふんとベッドにダイブする。いい気持ちだ。もうこのまま眠ってしまおうか。今日は一日、色々ありすぎたよ。
「ちょっと、唯人。気が済んだのなら下に降りないか」
「お断りだな。俺は一眠りするんだ、勝手に降りときゃいいだろ」
「月尊さんに訊きたいことがあるんだけど……」
「バッカ、それを早く言え」
二段ベッドからハシゴを使わず飛び降りて、キメ顔。完全に眠るつもりだったが、月尊ちゃんに会うのなら話は変わってくる。
それに、ちょうど一つ俺も訊きたいことがあったしな。
靴を履いて外へ飛び出す。外付けの階段を二段飛ばしで駆け下り、ベンチに腰掛けていた月尊ちゃんを目で捉えた。
「月尊ちゃーん」
こちらの声に気づいた着物女子は、ぱあっと頬を緩めて迎えてくれた。
「唯人さん、真津璃さん。お部屋はどうでしたか? 他のランクと比べると見劣りしちゃうんですけど、林間学校みたいでいい雰囲気でしょう」
「おう。豚小屋にでもぶち込まれるのかと思ってたから、感動したぜ」
「あー、昔はそうだったらしいですよ! 時代錯誤ってやつですね」
わはは、と月尊ちゃんは高らかに笑っているけど、当事者からすれば全然笑えないぞ。末恐ろしい話だ。
「それで、お二人は今からどちらへ? さっそく『決闘』に向かわれるのでしょうか」
「いや、少し訊きたいことがあって来た」
ずい、と真津璃が前に出る。そういえばこいつは何を訊くつもりなのだろう。彼氏はいますか、的なアレか? 抜け駆けは許さんぞ。
「まず、キッチンが無いのはどういうことだ。食事の仕組みを教えて欲しい」
なんだ、わりと真面目な質問だった。月尊ちゃんのことを訊けるかと思ったのでちょっと残念である。
彼女は一つ頷くと、一階の扉が並ぶうちの一番奥を指した。
「あれがツクヨミ荘の食堂になっています。毎日朝と晩、私が皆さんのために丹精込めて作りますからね!」
思わず心の中でガッツポーズをした。こんな可愛い女の子に毎日、手料理を振る舞って貰らえるんだぜ? 一周まわって申し訳ねえよ。なあ、真津璃。
「なるほど。では、風呂は?」
拍手を送りたくなるほどの、清々しい無反応ぶりである。凄いなお前。もしかして、究極体ムッツリーニか何かなのか?
月尊ちゃんは、今度は寮に併設されるように建つ大きな建物に目を向けた。
「もちろん、ありますよ。あれが大浴場です」
「混浴か?」
食い気味になんてことを訊くんだお前。
「落ち着け、真津璃。興奮するのはわかるが、桃神郷は男しか来られないんだろ。お前、船の時そう自分で言ってたじゃねえか」
「……すまない。そうだったな」
やるせない思いを振り払うように、真津璃は自身の頭を掻く。お前の気持ちはよくわかるよ。そりゃもう、痛いほどにな。
だが、気を落とすなよ、真津璃。お前の顔だったらすぐにいい女の子は見つかるさ。
そういう意味を込めて肩をポンと叩いてやると、真津璃はビクゥと飛び跳ねやがった。胸を押さえながら月尊ちゃんに三つ目の質問をぶつける。意味がわからない。
「さ、最後にもう一ついいだろうか。この桃神郷での時間割はどうなっている? 学校というわりに、勉学についての説明がほとんどなかったように思うのだが」
「そうですねー。時間割表自体はお部屋にある机の中に入っているんですが、うちの学校、別に授業は来なくていいんですよ」
「なんだって」
この一言に食いついたのは、もちろん俺。勉強のことなんて知ったこっちゃないし、もっと言えば思い出したくもなかった。
しかし、これは僥倖。授業に出なくていいということは……。
「授業に出なくてもいいということだ!」
「なに興奮してんだ、あんた」
これを興奮せずしていられるか。勉強しなくていいなら、しない。学生なら当たり前だろう?
月尊ちゃんはにっこりと微笑んだ。
「するもしないも自由です。ここでは、『決闘』での勝ち負けがすべてですからね」
完成したのが18:53頃でした。久々に死ぬかと思いました。




