第17話 ▶Dランクも悪くない
あらすじ:唯人と真津璃は相部屋だった
ツクヨミ荘二階の201号室。そこが俺たちの活動拠点だ。キシキシ言う外付けの階段を上り、桃神郷を一望する。
「へえ、結構いい眺めじゃねえか。外装もそこまで悪くない」
「ああ。階段は少しばかり心配だがな」
真津璃とツクヨミ荘レビューをしていると、後方から「おう!」という気さくな声が飛んできた。
振り返ると、入学式で見たヤンキー君が立っていた。坊主頭に鋭い目。赤いインナーに黒ジャンパーと、外見は完全にヤンキーのそれだ。けれど、その人懐っこい笑みを見ていると、案外気のいいあんちゃんな気がしてきた。
「おっす。あんたは……えーっと」
「オレは暮村。暮村丈ってんだ。お前らの隣、202号室で寝泊まりすることになった。隣のよしみで一つよろしく頼むぜ」
そうだったのか。
ちなみに、彼の同居人はそうそうにどっか行っちまったらしい。適当だなあ。
「俺は吉良唯人。まあなんだ。よろしくな、ジョー」
「……我孫子真津璃だ。よろしく頼む」
こちらの自己紹介を聞き終えると、ジョーは初めてオオクワガタを見た少年のような笑みを浮かべた。
「いやあ、お前ら二人のことは知ってるぜ。オレの中では有名人だ。真津璃はあの最強君と『決闘』し、唯人はそれの仇討ちに見事失敗した!」
「喧嘩売ってんのかテメェ」
そりゃ怒りたくもなりますよ。ちくしょう、嫌な記憶を思い出させやがって。
「そう怖い顔すんなよ、何も悪く言ってんじゃねえぜ。あの時のお前たち二人から溢れでていた、絶対こいつだけはぶっ倒す! っつーオーラにオレは痺れたんだよ」
あれ、とジョーはそこで小首を傾げる。
「待てよ。真津璃って確かAランクのエリート君だったよな? なんでまたこんなとこにいるんだ」
うっ、と真津璃は息を詰まらせる。かと思いきや、やつはあっさりと事情を打ち明けた。自分の驕りを知ったこと。ストイックに頑張ると誓ったこと。
それらのことを聞いたジョーは、うおおと拳を強く握った。
「そう、そうだよ! その熱さにオレは惹かれたんだ。敗北を知って、また一から歩みを始める。めちゃくちゃ格好いいじゃねえか!」
「そ、そうか。僕にはわからない境地だな」
機嫌をよくしたらしい、ジョーは前のめりになってこちらに近づいてくる。
「やっぱりお前らは本物だぜ。Dランクなんざ落ちこぼればかりのダメダメ集団かと思っていたが、そいつは違った。お前らの放ったビリビリにオレのハートはバチバチバチだ! わかるだろ、この感覚?」
いやいや、と真津璃は顔の前で手を振る。この二人は根っこからしてタイプが違うのかもな。
別にどちらの肩を持つという訳でもないが……。
「俺はわからなくもないぞ。つまり、お前は俺たちの、備然に対する思いを見て熱くなったわけだろ? 因縁の敵とのバトルは問答無用で熱いもんだ」
「おお、その通りだぜ唯人! オレはこんなグレた見た目だが、ひたむきに頑張るやつは嫌いじゃねえ。お前らと最強君の因縁がこれからどうなるのか楽しみだぜ」
おうおう、乞うご期待ってやつだ。別に、備然に因縁を感じたから喧嘩を吹っかけた訳ではないんだけどな。
……だったら、俺はどうしてあの時無鉄砲に突っ込んだんだろうね? もうよく覚えてねえや。
ジョーはからからと陽気に笑った。
「まあ、なんだ。オレはお前たちに注目しているわけよ。キビダンゴ……だっけか? あれを増やせばランクの昇格もあるってんだし、Dランク同士、お互い頑張ろうぜ」
そう言ってジョーは拳を差し出してきた。いいね、こういうノリは嫌いじゃない。俺も拳を掲げて、ガッシとぶつけ合う。俺たちの健闘を祈って。
▶▶▶
一旦ジョーとは別れて、俺たちは自分の部屋に入ることにした。内装は悪くない。というより、いい。少なくとも想像の何倍も。
「おおっ……天井がある、二段ベッドがあるっ」
「どんな暮らししてきたの、あんた……」
いやね? ウェルカムドリンクに水道水を出された手前、正直家畜みたいな扱いを受けることも覚悟していた。
それが、どうだ。最低限の暮らしができる素晴らしさよ。やべぇ、テンション上がってきた。いつまでも入り口に突っ立ってないで、さっさと物色と洒落こもうぜ。うひょう。
「ちょっと、脱いだ靴は揃えるか靴箱に入れなよ」
オカンみたいなこと言うな、お前。
ざっくりと部屋を見たところ、風呂やシャワーが付いておらず、おまけにキッチンまでないことがわかった。
まあ、洗面台があるだけ良しとしよう。どうせ食材や調理器具なんて持ってない俺たちには関係のないことだ。
もっとも、その旨を真津璃に伝えるとやつはギエエエとか言ってうずくまってしまったけれども。
「ありえないっ。調理ができないのは言わずもがなだけど、これって明日からの服はどうすんだよ。洗濯機ある意味ないじゃん……。これ一着を着回すとか絶対無理……」
「女子みたいなこと言うなよ」
いまだ玄関前にいる真津璃をいなし、俺は観音開きのクローゼットを開けた。
「……服の方は問題なさそうだぞ」
「え、本当?」
中には無地の襟付きシャツが一人二着ずつ入っていた。ちょうど俺が着ているのと同じような感じだ。下はスーツ風のパンツ。ご丁寧にネクタイまで用意されている。会社員かよ、俺たちは。
「唯人、クローゼットの状況説明よろしく」
「あ? えーっとな、まず中は上下に別れていて、上段には替えの服が。下段には下着が入っている」
「し、下着……って、男物?」
「どういう質問だよ」
女物があってたまるか。一応、どちらも未開封だということは伝えておいた。念入りに。
風呂に関しては浴場っぽいものが下にあったから、とりあえず最低限の生活はできるようだ。食事方面は……まあ、なんとかなるだろ。
そんなことより、もっと大事なことがある。
「不安もほぐれてきたところで、そろそろアレ、やるか」
そう言って俺は親指で二段ベッドをさす。真津璃はいまいち的を射ていない顔をしている。かと思えば、突然すべてを察したようにカッとその目を見開いた。
「ベ、ベッド……? あ、あんたこんな真っ昼間からなに変なこと言ってんだよっ」
「お前こそなに言ってんだ。決まってんだろ、どっちが上のベッドを使うかジャンケンだ」
はああ? と真津璃はまたしてもその場でへたれ込んでしまった。
書いてる途中に今回の話が丸ごとぶっ飛んで泣きそうになりました。2時間くらいぶるああああ言いながら書きましたよ。これがあるからweb執筆は怖い……。(こまめに保存!(自戒))




