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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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104/186

第104話 ▶何者

 状況を確認しよう。

 俺は決勝戦で備然と闘っていたはずだ。そして、決着がつくかに見えたその刹那に意識を失った。まだ背中にはじんわりと熱が残っている。


 で、なんで次に目を覚ましたらこんな賑やかなムードに包まれているんだ。どうも俺は透明なドームの内側にいるらしく、傍には真津璃、醍醐、天地……そして月尊ちゃんに花歌さんまでいる。


 ドームが障壁になっているようだ、その向こうには個性的な男女がいた。ボディービルを生きがいにしてそうな野郎と、桃神郷ではまずお目にかかれないミニスカの女の子。


 どちらも頭に角を、背中には羽を生やしている。悪魔か何か? などと無粋なツッコミはしない。あいにく、俺は野郎の方に見覚えがあるのだ。


「おい真津璃、あっちにいる筋肉野郎って」

「この状況下で訊く質問がそれか。まあ、いい。そうだ。あいつは私が船の甲板で斬った……鬼だ」


 やはりそうだったか。あの時はきっと本気ではなかったのだろう。……羽根生やしていなかったし。

 ともかく、それが今になって桃神郷を襲ってきたわけだ。不味いじゃねえか。


「吉良唯人はん」

 流れる空気を裂くような、鋭利な声が聞こえてきた。月尊ちゃんのお姉さん、花歌さんだ。その場にいる全員の視線がそちらに集まる。


「うちらは今、このバリア……『ゲニウスの守護神』によって護られとる。けど、向こうは全力でこれを割ろうとしとるんや」

 ゲニ……って確かランク対抗戦の優勝賞品だったよな。それが使われてるってのか。もしかして、今ってわりとピンチ?


 花歌さんは口元の笑みを崩さず、言った。

「このまま篭城してたらジリ貧や。わかるやろ? せやから、寝起きで悪いんやけど手短に訊くで」

「俺に? な、なんすか急に」


「あんたは何もんや」


 冷たい風が吹き抜ける。その質問の意図が、俺にはわからなかった。


 なぜだろう。視線の端にいる鬼たちの顔が笑っているように見えた。おい、なに悠長に見てんだよ。お前らこのバリア壊そうとしてんじゃねえのか。


 俺は口をぱくぱくさせていると、それを見かねたらしい月尊ちゃんが割って入った。

「お姉ちゃん、いい加減にして! 唯人さん困ってるじゃないっ」

「答えてや、唯人はん。どうにも鬼どもはあんさんに執着しとるみたいなんや」


 一心にこちらを見つめながら、花歌さんは言葉を吐き出す。鬼が、俺に? そんなことを言われてもわからない。何者と訊かれたって、俺は俺としか答えようがない。今まで歩んできた人生だって平凡で、ほら、こう……。


 ──おかしいな。どうして記憶がツギハギなんだろう。自分の人生のはずなのに、まるで他人のそれを覗き見ているような……。


 デジャブだ。

 一度気づいてしまったら、もう視線を逸らすことはできない。そろそろ俺自身も気づいているんだろう。


 俺は、何者だ? 

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