第104話 ▶何者
状況を確認しよう。
俺は決勝戦で備然と闘っていたはずだ。そして、決着がつくかに見えたその刹那に意識を失った。まだ背中にはじんわりと熱が残っている。
で、なんで次に目を覚ましたらこんな賑やかなムードに包まれているんだ。どうも俺は透明なドームの内側にいるらしく、傍には真津璃、醍醐、天地……そして月尊ちゃんに花歌さんまでいる。
ドームが障壁になっているようだ、その向こうには個性的な男女がいた。ボディービルを生きがいにしてそうな野郎と、桃神郷ではまずお目にかかれないミニスカの女の子。
どちらも頭に角を、背中には羽を生やしている。悪魔か何か? などと無粋なツッコミはしない。あいにく、俺は野郎の方に見覚えがあるのだ。
「おい真津璃、あっちにいる筋肉野郎って」
「この状況下で訊く質問がそれか。まあ、いい。そうだ。あいつは私が船の甲板で斬った……鬼だ」
やはりそうだったか。あの時はきっと本気ではなかったのだろう。……羽根生やしていなかったし。
ともかく、それが今になって桃神郷を襲ってきたわけだ。不味いじゃねえか。
「吉良唯人はん」
流れる空気を裂くような、鋭利な声が聞こえてきた。月尊ちゃんのお姉さん、花歌さんだ。その場にいる全員の視線がそちらに集まる。
「うちらは今、このバリア……『ゲニウスの守護神』によって護られとる。けど、向こうは全力でこれを割ろうとしとるんや」
ゲニ……って確かランク対抗戦の優勝賞品だったよな。それが使われてるってのか。もしかして、今ってわりとピンチ?
花歌さんは口元の笑みを崩さず、言った。
「このまま篭城してたらジリ貧や。わかるやろ? せやから、寝起きで悪いんやけど手短に訊くで」
「俺に? な、なんすか急に」
「あんたは何もんや」
冷たい風が吹き抜ける。その質問の意図が、俺にはわからなかった。
なぜだろう。視線の端にいる鬼たちの顔が笑っているように見えた。おい、なに悠長に見てんだよ。お前らこのバリア壊そうとしてんじゃねえのか。
俺は口をぱくぱくさせていると、それを見かねたらしい月尊ちゃんが割って入った。
「お姉ちゃん、いい加減にして! 唯人さん困ってるじゃないっ」
「答えてや、唯人はん。どうにも鬼どもはあんさんに執着しとるみたいなんや」
一心にこちらを見つめながら、花歌さんは言葉を吐き出す。鬼が、俺に? そんなことを言われてもわからない。何者と訊かれたって、俺は俺としか答えようがない。今まで歩んできた人生だって平凡で、ほら、こう……。
──おかしいな。どうして記憶がツギハギなんだろう。自分の人生のはずなのに、まるで他人のそれを覗き見ているような……。
デジャブだ。
一度気づいてしまったら、もう視線を逸らすことはできない。そろそろ俺自身も気づいているんだろう。
俺は、何者だ?




