第9話 帰宅後
「先生」
メイはニヤニヤしながら帰宅した。
「……なんだい。その顔は……?」
オルガはメイの変な笑顔を見て言った。
「セヴェリさんっていい人だね」
実はオルガは街では変人扱いされることが多い。若いのに街に住まずに森の中に住んでいるし、薬師のくせに誰にも薬を売らないから、オルガをよく知らない人からは、そういう評価なのだ。
メイは、そんな評価をいつも不服に思っていた。
先生は厳しいことも言うけれど、実の娘ではない自分をこんなに大切に育ててくれているし、昔からの知り合いのギルド長やイブリ書店の人たちは先生のことをいつもほめてくれるんだから。
そんなオルガの魅力に気がつけるセヴェリはメイにとって、間違いなくいい人なのだ。
「なんで薬屋の名前を知ってるんだい?!」
オルガはメイを睨む。メイが勝手にセヴェリに会ったことを怒っているようだ。
「さっき、そこで話したんだよ。どうして今まで会わせてくれなかったの? 先生のことが好きだって言ってたよ! すっっっごくいい人だよ!!」
オルガはため息をついた。
「仕方ない…… 今まで会わせなかったのは、私が薬屋のことを信用してないからだよ。これを見てごらん。」
オルガは、自分の左手首をメイに見せた。手首には赤黒い文字や模様が彫られていて、少し痛々しい。
「前から気になっていたけど、これは何の模様?」
「これは、契約の魔法だ。お互いに約束したことを魔法で強制的に守らせる魔法だよ。私は、薬屋とこの契約をしたせいで、薬屋以外に薬を売れなくなったんだ」
「約束を破るとどうなるんですか?」
「契約の度合いにもよるけど、この契約魔法は5段階中の3番目の契約で、破ろうとするとスキルが発動しなくなるんだ」
「調薬ができなくなるってこと?」
そんな魔法が世の中にあるなんて知らなかった。
「そういうことだ。いいかい、薬屋とはもう会わないでおくれ」
オルガはしゃがんで、メイと目線を合わせて言い聞かせた。
メイは頷かなった。
(だって、分かるんだもん…… セヴェリさんはいい人だって)
なぜかはメイ本人にも分からなかったが、本能的にメイには信用できる人かそうじゃない人かが分かるのだ。きっと何かのスキルなのだろうが、子どものメイにはまだ分からないのだった。




