第10話 オルガのため息
「はあ……」
メイが寝たのを確認してから、オルガは一人で自家製の果実酒をお湯で割って飲みながら考えごとをしていた。
――メイはいつからあんなにませてしまったんだ?
ひとりで街に行くようになってから、明らかに教えていないことまで覚えるようになってきた。
イブリ書店に行くようになってからは、毎週新しい本を1冊買って帰ってくる。完全に本の虫だ。
ギルドの職員やイブリ書店のロンやアンナには、余計なことは教えないように釘を刺してあるから、恐らく大丈夫なのだが、本から学ぶことも多いようで、今日のような突拍子もないことを突然言い出すのだ。
メイが言っていた、「先生のことが好きだって言ってたよ!」を思い出してしまって、恥ずかしさから頬が赤くなる。
「はぁ……」
オルガはまたため息をついた。
――メイにまでそんなことを言うなんて…
実は薬屋からは始めて出会ったその日から求婚されるという衝撃的な出会い方をしていた。出会った当時は、オルガにはアルトという相手がいたし、あの狐のような顔が本当のことを言っているようには思えなくて、全く相手にしていなかった。
その時から数えきれない程求婚されているので、最近では口説き文句がほぼ挨拶化していた。
「オルガ、結婚しよう」
「……」
「オルガ、今日も綺麗だね」
「……」
「俺はオルガしか考えられないんだ」
「……」
あのふざけた狐顔が毎回真剣な顔で言ってくるから、オルガは恥ずかしくて、面と向かうことができないのだ。
しかし、もう10年以上オルガに求婚し続けていることになるので、本気でなければ、10年も言いより続けることはできないだろうということは分かっていたが、ここ数年はメイのことを言い訳に考えないようにしていたのだ。
それに契約の魔法のこともある。
本気で愛しているなら、こんな契約をするだろうか?
ただ、私の薬師としての力を利用したいだけなのではないか。
オルガには分からなかったし、自分で薬屋に聞く勇気もないのだ。
アルトに捨てられてから、人と深く関わることが本当に嫌になってしまった。
森で人を避けて暮らしているのも、そういった理由だ。
深く付き合わなければ、傷つくこともない。
それがオルガが出した結論だった。
――メイを育てなければいけない。
アルトがメイを預けて四年ほどが経った。おそらくアルトとその妻のユウカは亡くなったのであろう。
ユウカのことは分からないが、少なくともアルトは娘のメイを溺愛していた。
風の噂で聞いたが、ユウカは国から依頼された奉仕活動で忙しく、育児の殆どをアルトがしていたらしい。
――生きていたら絶対に迎えに来るはずだ。
アルトとオルガはこの国の大きな港町の出身で、幼馴染だった。
少し抜けているところもあるが、素直で努力家。金色の髪にブルーグレーの瞳。職業診断の儀式で【勇者】に選ばれてからも、威張ることなく皆に好かれる――絵に描いたような好青年。アルトはそんな人間だった。
――アルトがメイを捨てるとは思えない。
そうオルガは信じているのだ。
となると、やはり亡くなってしまったと考えるのが自然なのだろう。
オルガはかつての恋人の死ではなく、遺されてしまったメイのことで目頭が熱くなった。




