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天才薬師と弟子  作者: ポムの狼
第1章 先生と弟子

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第11話 職業診断の儀式

 今日はメイにとって待ちに待ったウィルの職業診断の儀式の日だ。


 職業診断の儀式は子どもの成長を祝う大事な行事で、家族や親しい友人も一緒に教会の儀式に出席することができるのだ。


 今日は朝からメイもオルガも準備に忙しかった。いつも長い赤毛を後ろでまとめているだけのオルガも今日はいい香りのオイルで髪を結い上げていた。いつも着ているローブとは違う、黒の上等な生地のローブを着たオルガはいつにも増して美しかった。


「先生、きれい……」


 いつもとは違うオルガの様子にメイは見入ってしまい、自分の準備が進んでいない。

 そんなメイを見たオルガは優しく微笑んだ。


「メイも来なさい。手伝ってあげよう」


 オルガはクローゼットから黒色の小さなローブを取り出した。フードと袖の縁に緑色の糸で三つ葉の刺繍がされている。

 オルガはメイにそのローブを頭から被せて着せた。


「先生! このローブ新しい! いつの間に買ったんですか?」


 オルガはメイに優しく微笑んだ。


「こないだ薬屋が持ってきたんだよ。こういう時は気が利くね」




 メイが甘いものをあげた方が良いとセヴェリにアドバイスしたのは、結果的に大成功だった。


 オルガは甘いもの好きなのは勿論だが、食べ物を粗末にすることが嫌いだった。

 セヴェリが「君が食べないなら、捨てるしかないな……」と言うので、渋々受け取るようになったのだ。

 セヴェリはいつも見たこともないきれいなケーキや、外国のお菓子を届けるようになって、メイとオルガはかなりのスイーツ通になっていた。


 薬屋とオルガの距離が少しだけ縮まったのか、メイのローブまでプレゼントできる仲になっているらしい。


 メイはセヴェリの選んでくれたローブを着て、嬉しくて踊り出した。


「ほら、じっとしてて。髪もやってあげるから」


 オルガは自分につけたオイルと同じものを手につけ、メイの髪を優しく梳かしてくれた。いつもと同じ1本三つ編みだが、間に緑のリボンを一緒に結ってくれた。


「すごい!お姫様みたい!」


 メイは鏡に映る自分を見て、喜び鏡の前でくるくると回った。


「さあ、ゆっくりしていると。遅刻してしまうよ」


 オルガとメイ二人で並んで仲良く街まで出かけた。






「ウィールー!!」


 教会の前に杖をつきながら歩くウィルとロンとアンナを見つけた。メイは大きく手を振りながら、ウィルのいるところまで駆けた。


「ウィル! すごい! ひとりで歩けるようになったんだね!」


 メイは、ウィルが外を歩いているのを初めて見て感動していた。


「まだ、杖がないとよろけちゃうんだけどね」


 ウィルは照れて頭をかきながら言った。

 ウィルとウィルの家族も今日は正装で、特別な装いだ。


「おめでとう、ウィル。大きくなったね。ロンとアンナもおめでとう」


 オルガは笑顔で3人にお祝いの言葉をかけた。

 3人とも笑顔でそれにこたえている。


 そのやり取りを見ていた。メイも遅れてお祝いの言葉を伝えた。


「ウィル、緊張してる?」


 少しそわそわして落ち着かない様子のウィルを見て、メイが言った。


「うん。そうなんだ。希望している魔法系の職業だといいんだけど、中には聞いたこともないような職業になってしまう人もいるって本で読んだことがあるから……」


 ウィルは手に汗をかいているようで、しきりにハンカチで手を拭いていた。

 ロンがウィルの肩に手を置き、励ます。


「大丈夫さ。創世の女神さまはとても優しいんだ。向いてない職業に選ばれることは絶対にない。自分の長所を見つけてもらえると思って、気楽に受けなさい」


「うん……」






「次の方!ウィル・イブリさん!来てください!」


 教会から、ウィルを呼ぶシスターの声が聞こえた。








 シスターに招かれて、5人は教会の中に入った。


「わあ……」


 メイとウィルは初めて教会に入るので、その高い天井に圧倒された。天井には美しい彫刻がほどこされ、奥の祭壇の後ろには大きなステンドグラスが荘厳と輝いていた。


「生まれて100日のお祝いも、この教会に来たのよ」


 アンナはウィルに優しく声かけた。


 (私も覚えていないけど、お父さんとお母さんと来たことがあるのかな?)

 メイはそんなことを考えていた。



 シスターの案内で、祭壇がよく見える席に腰掛けた。他にも儀式を受けに来た家族で教会の椅子はいっぱいになった。


 司祭と思われる、真白い髭を伸ばしたおじいさんが祭壇の前に立って、参加者に深く礼をする。大人たちはそれに合わせて礼をするので、子どもたちも見習って礼をした。司祭が儀式の説明をしてくれた。


「これから、職業診断の儀式を行います。名前を呼ばれた人から、祭壇の前に来てください。儀式を受ける人は、祭壇のクリスタルを手でふれてください。そうすると、天職となる職業やスキルが浮かび上がります。その内容をこちらで紙に書かせていただきます」


 司祭はにっこりと優しく微笑み、話を続けた。


「補足ではありますが、診断された職業はあくまでも向いている職業を診断するに過ぎません。その結果で大事なお子様の未来が決まる訳ではございません。そのことを忘れないように、お子様もご家族もご理解ください。それでは、儀式を始めます。

ウィル・イブリ、前へ」


 司祭に名前を呼ばれたウィルは杖をつきながら立ち上がり、祭壇の前まで進んだ。


 ウィルは司祭に説明された通り、祭壇のクリスタルを手で触れた。


 するとクリスタルは大きな光を放った。メイたちは1番前の席に座っていたので、クリスタルの中にいくつかの文字が浮かびあがってきているのが見えた。浮かび上がった文字がクリスタルの中をまわっているのは分かったがなんと書いてあるかまでは、見えなかった。


 ウィルの表情もメイの席からは見えなかったが、後ろ姿が少しだけ震えていた。


 光が収まると司祭は横にあった紙に、さらさらと文字を書いて、「おめでとう」と一言付け加えて、診断書をウィルに手渡した。


 ウィルは司祭に礼をしてから、メイたちがいる席まで戻ってきた。頬を染めてにこにこしている表情からは、ウィルにとって良い結果だったことがうかがえた。


 儀式中は他の家族もいるので、診断書は本人しか見られない決まりになっていた。見ると一喜一憂してしまう家族もいるからだ。

 メイは早くウィルの診断結果が見たくて、そわそわ落ち着かなかったが、オルガに「し!」と注意されて、ぎゅっと我慢するのだった。


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