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第160話 ジョーカー

 魔王城へと順調に歩を進め、ボン爺曰く「あと半分くらいかのう」という距離まで来ていた。


「そろそろ野宿じゃなくてフカフカとは言わんが布団で寝たいな」


「あと少しでとある村に着く、そこに行けば多少は身体を休める事が出来るじゃろう」


「とある村?」


「ちょっと特別な村でのう、所謂半魔と呼ばれる者が生活をしている村なのじゃよ」


 魔族大陸に於いて、半魔は忌み嫌われる存在とされている。魔王オルトの政策により偏見は少なり、嫌悪感を表に出す者は少なくなったがそれでも差別意識は払拭されて居ない。


 特に種族至上主義者からの攻撃から庇護する為に一箇所に集められた村だ。


「半魔ってそんなに嫌われてんのか」


「半魔という言葉自体が差別用語に指定されてはいるが、人の心というのはそう簡単に割り切れる物ではないからのう」


「魔族と雖も人って事だな」


「そういう事……若っ!」


「分かってる」


 二人は後方へ振り向く事もせず、素早く気配を消して身を隠す。


「なんだあの殺気は」


「わからぬ……じゃが、危険な事に変わりはない」


「ヴィト、お前は剣の姿に戻ってろ」


【……あい】


 殺気を放つ正体不明の何かが、二人の後方から近づいており身の危険を感じる。


 その正体不明の何かが二人が身を隠した近くで立ち止まる。


(なんだあれは? 魔族だろうが……やばさが桁違いだ。くそっ! もしかしてジョーカーを引いたか?)


 二メートル近い身長で筋骨隆々、二本あったであろうツノの片方は折れてなくなっており、身体は傷だらけだったが背中に傷はない。鬼の様な形相で周囲を見渡す。


「臭う、これは忌々しき人間の臭い! それも強者だ」


(動物並の嗅覚かよ!)


「何処だ! 出てこい!! いるのは分かっているんだぞ!!! 出てこねぇならこの辺一体を爆散させるぞ!?」


 男は拳を高く突き上げ力を込める。拳には徐々に魔力が収束し禍々しい光を放つ。


(あれは普通に戦って勝てるモノなのか? ははっ……嘘だろ? 手に汗が)


 どういった感情かわからないが、クロの手のひらは汗で濡れていた。


 そんなクロの様子を見たボン爺は小声で話しかける。


「若、決して出てはならぬ」


「出ないっつーの! でもあれをくらったらやばいぞ?」


「ふむ、ここを南に進むと渓谷に出る、その渓谷を右に大回りした所に件の村がある」


「ん? お、おう?」


「その村に行けば魔王城までの道のりを知っている者も居るはずじゃ」


「は? お前何を言って……うっ! ボン爺……お前……それは……許さな……」


 ボン爺は長い針を取り出し、クロへと刺す。


「ヴィト殿、若をよろしく頼む」


 針には致死性の低い神経性の毒が塗られており、クロは身体が麻痺しながらも必死に踠く。


「ボン……爺! やめ…ろ!」


 ボン爺はクロの静止も聞かず男の前へと姿を晒す。


(若よ、初めて会った時は生意気な小僧が吠えているわと侮り、孫も殺されたが裏社会では力が全て、恨みなどはない。その強さに惚れ、付き従った事に後悔はしておらん。じゃから若はまだ死んではならんのだ)


「どんな強者かと思ったら枯れかけた人族の爺だったとはな!」


(友人の息子と知ってからは立場を忘れ我が孫の様に思ってしまった。この生い先短い老人が孫のためににできる事は一つ)


「ほっほっほ! 生い先短い爺さんを見逃してはくれんかな?」


「ほざけ、人族は老人だろうが女や子供だろうと皆殺しだ!」


「それは残念じゃ」


「勝手に魔族大陸へと足を踏み入れ、この俺様に出会った事を後悔しながら死ね」


「俺様? 名のあるお方なので?」


「き、貴様! まあ人族如きが知らぬのも無理はないか、冥土の土産に教えてやる! 俺様の名はバルザイル! 魔王と唯一渡り合える者にして、悪鬼と畏れられる存在だ!!」


(こやつがバルザイル……確かにとんでもないオーラを放つ魔族じゃが、オルト様と同格? そこまでの者か?)


 魔王オルトと面識のあるボン爺にはバルザイルがそこまでの力があるとは思えなかった。


(オルト様と対峙した時は絶望しかなかった。じゃが、この男にはそれはない……強者には変わらぬが絶望感はない)


「どうした恐怖で声も出ぬか!」


 ボン爺は懐から煙幕玉を取り出し地面に投げつけ視界を遮る。


 その隙にヴィトは剣から元の姿に戻り、麻痺して動けないクロを咥え安全圏へと逃げた。


「ふんっ!」


 腕の一振りで煙幕は消え去り、バルザイルの顔はこめかみに青筋がたち爆発寸前だった。


「小細工などして隠れても無駄だ!」


「魔族と対峙して真正面から挑むほど阿呆ではないわい」


 ボン爺はバルザイルの背後を取り、チョークスリーパーをかける。


(少しでも時間を!)


「何をしている? その程度の力で俺をどうにかできると思っているのか?」


「さあどうじゃろうな!」


 ボン爺は暗器を取り出しバルザイルの首へと突き刺す。


「むっ!?」


「何だ? 蚊か?」


 突き刺した暗器は皮膚を貫く事なく折れ曲がった。


「硬いのう……」


 ボン爺は、一旦バルザイルから距離を取り考える。


「さてさて、どうしたものか……」


何かすごく強い衝撃(グレートインパクト)!!」


 バルザイルが地面を拳で思いきり殴ると爆散した破片がボン爺へと飛び、遅れるように衝撃波が襲う。


「ぐっ! があっ!」


 衝撃波は木々を薙ぎ倒しながらボン爺を数十メートル吹き飛ばした。



 〜〜〜〜〜〜



「ヴィト……戻…れ」


【主の命の方が重要】


 ヴィトは幼体ではあるがフェンリル、クロを咥えながらも神速を使い安全圏であろう場所まで離れると一息つく。


【主はあれに勝てる?】


「勝てる……とかそういう……問題……じゃ」


【主はあれに呑まれてた、だから危険】


 戦うという心構えの時点で負けていた。ヴィトはそう言いたいようだった。


(くそっ! 何も返せねえ!)


 悔し涙を流すクロの耳に轟音が聞こえ、衝撃の余波が届く。


(今のは攻撃か? ボン爺は無事なのか!? くそっ! 動け俺の身体!)


 ボン爺の使った神経性の麻痺毒の効果は高く、クロの身体が動く事はなかった。

作品を読んでいただきありがとうございます。

この作品はカクヨムでも掲載しております。

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