領主さま、フローラに貢ぐ(金銭にあらず)
どんどん残念になっていく……
アレ? 恋愛ってどこだろう……
しょっぱなからフローラたんにメロメロになった領主さまだが、仕事は忘れていなかった。
「済まないが、村の空いている屋敷などないだろうか」
しっかりフローラを抱きかかえたまま、領主さまは村長に相談を持ちかけた。
本来、領主さまは村人に相談などせず、好きなように振る舞える。
しかしこのディールさま、信心深く仕事もできる、メッチャ珍しいタイプのデキる領主であった。
わざわざ人に憎まれるようなことはしない。
これ、当たり前のようだが、権力者はそれが当たり前で忘れがちである。
たった一言、事前に声をかければ済む。だから声をかける。これが自然にできる権力者。
評判がすこぶるいい彼は、愛される領主であった。
フローラが彼の領民に生まれたのも、実は自身の持つ豪運の賜物である。
下手な場所に生まれたら、それだけで大変なことになりかねない素養満載のフローラともう一羽。
生誕の場所も善良な人間しかいない、村人全員知り合いの片田舎だったのは、なるべくフローラに不利益がないように考えられてのことだった。
そしてその場の権力者も選考されていた。
アホに利用されてもいかんし、エロ目的のバカに見初められるなんてもっての他。
それでは乙女の味方・幸せな結婚をしてほしいヘラ様の主旨に反する。
ヘラ様はやりすぎたとしても、やはり仕事のデキる女であった。
そのヘラ様のお眼鏡にかなったディールさま、収穫や年末年始に寄り合い所として使われる家に案内された。
はっきり言って、ボロい民家である。
村人からすれば広い屋敷に近いが、領主さまは普通に部屋数二十ある、使用人付きの屋敷に住んでいるのだ。
だが、田舎で文句を言ってもしょうがない。
だって、お屋敷なんてないんだもの。
つか、村人本物の屋敷見たこともないし。
わめいて屋敷が出来上がるわけもない。
大人しく寄り合い所をしばらく借り受けた領主さまは、その場にあった丈夫ででかいだけの机に最低限持ち込んだものを広げた。
まず、村の防備にあたらせている兵士のリストだ。
そして彼らが所持している備品リスト。
これから搬入される備品リスト。
交代要員のリスト。
リストリストリスト。
最低限とか言いながら、ゲシュタルト崩壊しそうな数のリストを眺め、臣下と話し合いをはじめた。
その間、フローラは領主さまの膝の上にお座りしていた。
大人の真面目な話し合いに参加できないフローラを慮り、臣下の一人が気をきかせて紙とペンを与えたりしていたーー高級品なのに。
それぞれが背負える荷物しか持ってきていない中、貴重品の紙を。
そして誰もそれを止めない。
領主さま一行は、相変わらず落とし子に目が眩んでいる。
実物めっちゃ可愛いし、本来の幼児みたく騒いだり泣いたりぐずったりしないし。
さらに領主さまは男系の家柄で、女の子に憧れがあったのだ。
全然いないことはないのだが、数少ない女児は男系の脳筋に育てられるからか、ほぼ猛女となる、悲しい家系なのだ。
そんな中、キラキラかわいい女の子~って感じのフローラたん。しかも落とし子。
領主さまも、臣下たちも、一族の女を見てきている。
剣を振り回し、馬に乗り、権謀術数の中を笑顔で渡り歩き、不利益な相手を何の感情も見せずに葬っていく女たち……。
フローラたん、マジ天使!と、彼らは内心うっきうきだった。
そのせいで、貴重品の紙とペンを与えようが、誰も気にするどころか、もっととんでもないものをフローラに貢ごうとしていた。
「よし。では、この村まで道を通すぞ」
……一大事業が始まろうとしていた。
次回、
まだまだ貢ぐ領主さま(シ○シテ⚪ー)
予定です。