表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

美香改めフローラ、爆誕する

美香の喪女スキル、また一つ発覚。

 


 ふんわりとしたストロベリーブロンドが風をはらんで広がった。


 やわらかな春の日差しの下、花畑で花を摘む少女は、まるで芸術家が描く絵画のよう。

 現実味の薄い、完璧な美少女である。


 彼女は、赤みがかって見える金髪の波打つ髪を束ねずに風に晒したまま、一心不乱に腕へ下げた篭に花を摘んでいく。


 そんな彼女は小さく歌をうたっていて、それがまた花を摘むのをリズミカルにさせていた。


 歌は……日本人なら分かるだろう、茶摘み歌だ。



 ブロンド美少女が茶摘み歌。


 この残念加減……彼女こそ、女神ヘラに女子力と加護をいただいて生まれ変わった、前世・橋爪美香こと、今世・フローリーチェ。

 通称フローラである。



 彼女の側には孔雀色の羽根を持つ鳥がいる。


 前世の世界の孔雀とは違って、きちんと羽ばたいて飛ぶことができるフォルムだ。

 大きさも、孔雀ほど大型ではない。小鳥と鷹の中間くらいの大きさだ。


 もちろん、この孔雀色の鳥は――羽根ちゃんである。

 この世にフローラと共に産まれ出でた彼は、今の名をハイネと言う。


 単に幼すぎて滑舌が悪い幼女が、「はねちゃん」と彼を呼んでいたのを、周囲が聞き間違えた結果だ。


 つまり彼の本当の名前は、結局ハネちゃん。通称がハイネである。


 神鳥に連なる彼にこの仕打ち。

 フローラは、つまりテキトウな女だった。

 感性が鈍いおかげだろう。図太いとも言う。


 しかし、見る限りフローラは繊細そのものの美少女。

 外見詐欺である。


 彼女の意外な内面について、知っているのはくらしている村の人びとだけだった。


 今も彼女とハイネの少し離れた場所で、見守るように壮年の男性と少年がいる。彼らにはフローラの茶摘み歌が聞こえている。


 どことなく民謡ちっくな異国の歌は、フローラの持つ加護のおかげで、なんと異世界でもダイレクトに通じてしまっているのだ。


 花も恥じらう少女の歌う茶摘み歌(ダイレクトアタック)。しかも結構ガチで歌い込んでいる。


 いや、それはそれで可愛らしいが、傍から見ていて、美少女が口ずさむのは軽やかなハミングとかであってほしいはず。


 しかし彼らはフローラのギャップを知り尽くしているので、いつものこととして、あっさり聞き流してしまうのだ。


 酷いときなんて、アニソン(兄貴)を高らかに歌い、ハイネに合いの手を強要するのは当たり前。



 フローラ8歳、前世では懐かしのアニソンをカラオケで熱唱する愛好家であった。


 お気に入りはG7。

 当然、アニメは見たことはないし、どんなアニメかすら知らない。

 ただ、内容だけは歌の内容から知っている。


 小学生が社長でロボで戦うとか、前世の社会では児童虐待ですぐに問題視されるような内容だ。


 しかし、その歌のサビを神鳥に一緒に歌えと強要する方が酷い。

 神鳥の一部とはいえ、この世界では紛れもない瑞兆なのに。


 その妙なる声で、アニソンのサビ(じ⚪せぶ⚪)。あと絶叫でZ。



 ハイネの心は空より広い。


 そしてそれを生暖かく見守る村民。


 実は口出しすると巻き込まれるので、遠巻きにしているだけである。


 だって意味がダイレクトで分かるのだ。そんなすっとんきょうな内容の歌、歌いたくない。

 サビでだいたい変な名前を連呼する歌というばかりか、何かの技名とか何かの固有名詞だとわかっちゃうのだ。


 ここは(きっと)心の広い瑞兆である神鳥ハイネさまに任せよう。ハイネさまはフローラの神鳥なのだから、と。村民は逃げをうった。


 最近はハイネも諦めて付き合っている。

 神鳥だけに歌は上手いのだ。

 そのせいでさらにソロを強要されているという、無限地獄に入っている。


 ハイネの犠牲に、草葉の陰で村人は泣いていることだろう。爆笑で(笑)。



 そんな美少女と神鳥は、面白いから見守られているのではない。


 フローラの生誕があまりに衝撃的だったし、生まれてから判明した加護の稀少さに、村中が感謝しているからである。



 フローラ、サブタイトルどおりに爆誕したのだ。


 実際に爆風はなかったが、それほどの衝撃だった。


 彼女が産まれ落ちた瞬間、光の柱が立ち、周囲は薫香で包まれた。

 そして光の柱が消え去ると、残っていのは幼子と一羽の鳥。


 前世で言う、孔雀色のその鳥は、この世界では女神ヘラの象徴と言われていた。



 聖者が産まれたと、近隣大騒ぎになった。


 そしてしばらくして、周囲は落ち着いた。生まれた女の子は可愛らしかったが、それだけである。

 一度見れば可愛い子だね、と。それだけだ。


 一緒にいる鳥も綺麗だが、それだけだ。


 見るだけで明らかな神威などはなかった。


 そしてそれらは、彼女を見た人びとの口から口へと伝わり、やっと騒ぎが落ち着いたとき、彼女に近しい村人たちは、彼女のご利益に気付かされていた。


 明らかに農作物の出来がいいのだ。「今年は豊作だ」レベルじゃない。別次元なのだ。

 実はこれ、前世の日本の農業収穫物にランクアップしていた。

 ヘラ様のくれた女子力のうち、現代料理の再現に必要だったかららしい。


 あと、なんかやたら皆運がいい。病気のお爺さんなんか全快して働きまくっている。


 これもヘラ様のご加護のうち。心がけで上がる好感度と運気のせいだった。


 フローラが心がけで運勢を上げられるのは、見知ったひとだけ。しかも男性限定ではなかった。


 どうも好感度操作は男性限定のようだが、いるだけで豊作を呼び、運気を上げてくれる、あどけない美幼女に好感を持たない女がいるだろうか。


 つまり、村中にチヤホヤされ、フローラは自分に優しい村人たちと、このまま平和に暮らしていきたいと無意識に思っていた。


 近しくなきゃ、普通他人のことなど気にかけない。だからご利益があったのは村の人たちだけだ。


 しかしこのご利益、いずれ周囲にバレる。

 農作物の出来は隠せない。

 一部は売り物にする予定で育てていた。あとはご領主さまにも納める。


 村の中でも、当然だが特にフローラの両親は娘の将来を慮り、悩んだ挙げ句、自分たちの裁量では図りきれぬと、村の祭祀を司る神官に相談した。


 この神官、村に在住ではなかったので、それまでフローラに直接会ったことがなかった。

 相談を持ちかけられ、神官がフローラに会うために村に訪れて、そこではじめて他者の鑑定ができる者がフローラを見た。


 その後、彼女がこの世界で最も信仰される女神ヘラの加護持ち――この世界では落とし子と呼ばれる者だと判明。



 やがて隠しきれない加護の影響で、そう言えばと人びとは思い出した。

 ――あそこって、聖者が生まれたと一時期騒ぎになった所じゃないか、と。


 フローラフィーバー、再び。

 今度はご利益(豊作と幸運)判明済み。



 純粋に、彼女に一目会いたいと人びとが押し寄せ、その内に邪な者たちも紛れ込むこと多数。


 村人はフローラに守り手をつけようと決めた。

 彼女のもたらす恵みと加護に、全員がお世話になっている。

 まずはできることからだと、腕に覚えのある村人を集めて、フローラちゃん自警団を結成。


 その間に神官サイドから領主に話をしてもらって、対応してもらうのが最良だとなった。


 領主もこの騒ぎと幼女について、耳には入っていた。

 ただ、領主さまは平時は王都のお屋敷で生活している。

 実際にフローラ生誕の折の騒動を目にしていなかった。

 なので最近まで、またなんか領民が騒いでるな、程度でしか認識していなかった。


 しかし、大慌てで神官が駆け込んできて、事態を悟った。


 マジものの奇跡の幼女。神の落とし子が自分の領地で発見される。


 領民は、領主のものだ。


 領主さま、大慌てで領軍を村に差し向けた。

 落とし子が自分の領民である幸運を守らねばならない。



 結果、現在この村はほぼ領軍が取り囲んで防備している。そして村のなかでは自警団が持ち回りで見守る体制に落ち着いた。


 案外、領軍らの包囲を突破してくるやつがいるのだ。



 女神さまに愛された、恵みの娘。そばには、瑞兆の化身、眩い体色持つ神鳥。


 その存在は、じわじわと世界に広まっていく。


 ――本人の、残念さを差し置いて。

次回、

領主さま、悶絶する


予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ