秘密の花園
先日上げた閑話が伏線ですが、読まなくても問題なく進みます。
ただ、読んでいただけるとあの方が誰か、確実にわかります。
まあ、読まなくてもバレバレでしょうが……。
領主さまとカーネリアは、臣下と村の代表と話し合いをするからと、子どもを別室へ移した。
子ども同士、仲良くなってほしいとの思惑もあったのだろう。
うまい具合に大人と離れ、あとはアイアゲートをどうにかすればさんにんになれると考えたフローラは、カワイコぶってディアンの腕をひいた。
「ね~ディアン、わたしのお部屋見せてあげる!」
「仕方ないなぁフローラは」
さっき花畑で仲良くなったアピールで、子どもの無邪気を装って、アイアゲートを残してフローラの自室に入ったさんにん。
途端、ため息をついて脱力した。
「ヤバかった、ヤバかったよぉ……」
「おまえ自爆してったじゃねーか……アホだろ? アホなんだろ?」
「はぁあ……いろいろありすぎて疲れた……」
三者三様でぼやくと、フローラの自室のテーブルセットのそばに集まる。
ーーちなみにフローラのお部屋は、四歳児農民の娘に与えられるべきではない個室。
置いてある家具は上品なカーブを描く白か薄ピンクかやわらかい色を生かした木目のもの。あとは紗のついた天蓋付きベッド……領主さま&カーネリア+フレミア家一族の貢いだ賜物である。
四歳村民がもて余すこと請け合いの二人がけのソファーと椅子・猫足のテーブルという、乙女全開のテーブルセットに当たり前に座った二人と一羽は、なぜかこそこそとした仕草で、小声で話す。
切り出したのはディアンだった。
「じゃあ、とりあえずさっきの続きを話し合うか」
「りょーかい」
「じゃ、ちゃっちゃと出せ。アレ、出せ」
「ハネちゃんのも後で見ないとね……」
「ハネちゃん言うな」
フローラがステータスオープンと言うと、先ほど自分たちを混乱の極みに突き落としたステータス画面が現れた。
半透明なそれに、ちょっとげっそりしたディアンが呟く。
「やっぱり見えるな……」
六歳児をここまで疲労させた原因のフローラは、なぜかちょっと嬉しそうにしている。
「でもよかったねー、ハネちゃんと見てても、私たちだけだとどこがどう変かってわからないし。心強い味方を得たね!」
「ハイネって呼べ!」
驚愕のステータスを前に、平時と変わらずボケとツッコミをするふたりに、ディアンが六歳児はしてはいけない顔になる。
「いいかげん、おとなしく見ろよ」
ディアン、実家では四人兄弟の四男で、男くさい一族の中母親似の美少年として生まれ、みんなに甘やかされてきて、けっこうぶいぶい言わせているほうだったのにーーそれよりも酷いやつに混じると、どうにも馴染みきれなかった。
理不尽なやつは自分を理不尽だとは思わない。ディアンは自分が甘やかされて図に乗っている自覚があったので、かわいいものである。
この世界では異質なステータス画面を前に、言うことにすら耳を傾けない幼女と神鳥に、どうすべきか懊悩する六歳児。
軽くカオスである。
そこへ、さらに石が投げ込まれた。
ただでさえばっちゃばっちゃだった水面に、特大の石が投げ込まれ、もう波紋どころの騒ぎではない。
「みんな、なにしてるの? 楽しそうだけど、それ、なに?」
投げ込まれた石ーー扉が開いた様子もないのに、当然ノックも無しでフローラの部屋の中にいてそう声をかけてきたのは、笑顔を浮かべた真っ黒なアイアゲートだった。
「おまっ、どっ……!」
驚きすぎて声にならないフローラの様子に、アイアゲートは少しだけ笑みをやわらかくした。
残念でほほえましい、といわんばかりの眼差しである。
アホな孫を見守るおじいちゃんっぽい。
「いや、 みんなが仲よさそうで、うらやましくなって。ちょっと覗いてみたら、めずらしいものがあるから」
しれっとレディーの部屋に侵入したのを認めて笑うアイアゲートを、ディアンは何でもないことのように流した。
「まあ、いい。それよりもここ座れ」
二人がけのソファーの自分の横にアイアゲートを促して、画面を指差す。
「で、これについて意見があったら教えてくれ」
「うん」
ディールの妹の子であるアイアゲートに馴染みがあるディアンにすれば、この年下の天才に隠し事ができるわけがないというのが常識であった。現にそっこーバレたし。
隠せないなら仲間に引き込むしかない。
アイアゲートがソファーに座ってステータス画面を眺めはじめると、驚いて固まる幼女と神鳥に、ディアンはゆっくり語りかける。
このふたり、驚くと固まるな、と頭の端で思いながら……。
「いいか、フローラ、ハイネ様。アイアゲートと付き合っていくなら、こいつをごまかせるとか思うな。無理だ。
どういうことかはわかってないけど、こいつに隠し事をするなんてのはあきらめろ。隠したいことがあるなら理由を話して仲間に引き込め。それしかできない」
いたずら盛りの少年にここまで言わせるアイアゲート。今までどれだけ悪行をあっさり暴いてきたのか。
ディアンは投げやりになっている。
「話してこいつがおもしろいと思ったら、黙っていてくれる。約束は破らない。だから大丈夫だ。アイギーは俺より頭もいいし、勉強もできる。
それより、こいつにも言っておいたほうがいいだろ。これからこいつ、おば様とずっとこの村にいるんだぜ」
つまりフォロー役をアイアゲートにしよう、と言っているのだ。
そのアイアゲートは一通りステータスを見終わり、大人びた仕草でひとつ頷いた。
「うん、これは確かに、とんでもないことが書いてあるね……」
アイアゲートは半透明なステータスに触れようとしたが、花畑でフローラが画面に触れたようにはいかなかった。
触れようとした手が画面を突き抜けてしまったのを見ると、指を差し出して何度か確認し、触れられないものとして納得したらしい。
「これは完全に個人の力量の範疇ではないね。あやしいのはやっぱりヘラ様のご加護か、守護鳥のご加護かな。時空の聖者もあやしいか……?」
ステータスをこうして他者に投影して見せる、これはやりようによっては時空または光か闇の精霊でもできるらしい。
「しかし、問題は中身だ。自分のステータスでもここまで理解しているものはいないはず。君が自分で自分のステータスを投影してるの?」
当然違うので、フローラは首を横に振る。
「だろうね。このステータスが正しいなら、君にはまだ魔法が使えない。つまり投影する魔法がないはずだ。だから、投影されるようにするものが、君の能力に含まれている」
アイアゲートは魔法でないのなら称号だろう、とあたりをつけたらしい。
「うーん、時空の聖者だけでは能力を把握するのがなあ……複合してるのかな……ところで、この最後のほうの、ヘルプ? これ、なに」
相互理解の能力で日本語を把握しているアイアゲートにも、あまり意味がよくわからなかったらしい。
直訳すれば“助け”になるが。ステータスで助けってなに、ってことだろう。
「私もまだよくわかってないの。でもたぶん……」
読み上げるか触れるかすればいいのだろう、と思い、フローラはまずは触れてみることにした。
アイアゲートは素通りした画面は、やはりフローラでは当たり前のように触れることができた。
ヘルプの部分を長押しすると。
【 ヘルプ(※)
ヘルプキャラ >
サポートセンター > 】
と、表示か増えた。
「ヘルプキャラとサポートセンター」
興味深そうに増えた表示を読み上げるアイアゲートと対照的に、フローラとハイネは嫌な予感が的中して顔をしかめた。
そんなふたりの様子に、こいつらがこんな顔するなんてと、ディアンの顔色も悪い。
前世の世界でこの言葉に思い当たることがあった一人と一羽は、しかしここまで来て触れずに終わるわけにはいかないと、見つめあって、頷きあった。
このどちらかには絶対に、お約束大好きなあの方がいらっしゃる……!
この世界で最も尊いはずの神さまがこんなところにいるはずかないと、ハイネですら思っていないのは明らかだった。
フローラは震える幼い指で、神さまがいるだろう、秘密の言葉を押した……。
次回、
世界の中心
予定です。