第三十三話
「マイ、その前に足を見せて欲しい。マイの靴を作るから。あ〜、実物を見せたほうがいいかな?脱ぐから、ちょっと待ってね。」
靴紐を緩めて、靴を脱ぐ。
「マイ、これがポヤの木で作った靴。トレッキングシューズを参考にした、歩きにくい場所もある程度大丈夫な靴だよ。こんな感じでマイの靴を作ろうと思っている。どうかな?」
「わぁ、触ってもいいですか?」
「どうぞ。ここはこうして欲しいとかは、出来る範囲で対応するよ。」
マイが靴の底や布地の部分を確認する。
「これと同じで大丈夫です。この革靴だと不安だったので、うれしいです。・・・アルさんは靴も作れる職人さんですね!」
「仕事でトレッキングシューズも実物を触ってるし、工程も錬金があるから、イメージさえできれば作れる。錬金が無ければ、さすがに作るのは無理だよ。魔法のある世界でよかった。工程をショートカットして、すぐに製作できたんだから。・・・まぁ、靴を専門にするつもりはないから。自分のは色々試して、研究してたから、出来たけど。他人のは、初めて作るからね。知識を総動員して頑張るよ。何個か作るから、試してね。」
「?何個も作るんですか?」
「作るよ。足を痛めるわけにはいかないから、合う靴を見つけて欲しい。さっき言ったように、他人の靴は初めて扱うんだよ。正直、1回でしっくりくる靴が出来るとは、思ってない。それにその革靴で、マイが町まで歩いていけるとは思えない。道はホントに凸凹してるんだ。車輪のあとも残ってるし。道幅は確保されてるけど、舗装はされていないんだよ。森を抜ければ、町は見えるところにある。装備をきちんと整えてから、移動しよう。」
「わかりました。お願いします。」
「じゃ、靴を脱いでね。」
マイから靴を受け取り、履きなおす。
マイの足は甲が薄い。靴下は厚めに作ってあるが、調整が必要だ。
「アルさん、靴脱ぎました。」
マイの傍に移動して、足元に屈む。
「右足から確認するね。」
マイの右足を両手で掴み、靴下を履いた状態で、サイズを確認していく。足の裏を確認する。土踏まずはあるな。指は親指が一番長いエジプト型か?
「マイ、靴下脱がすね。」
マイの右足から靴下を脱がす。足の指はエジプト型だ。爪は鷲爪ほどではないが、少しカーブしてるか・・・巻爪にはなっていない。炎症を起こしているような場所も無い。
エジプト型なら・・・幅広の先の円いタイプではなく、先のやや細いスマートなタイプがいいかな。靴下を履かせて、今度は左だ。
「次は、左足を見るね。」
マイの左足も両手で掴み、サイズを確認していく。足の裏を確認する。こちらも土踏まずはある。
「マイ、靴下脱がすよ。」
靴下を脱がして、指を確認する。左足もエジプト型だ。他も問題ない。右より若干大きいな。足に合わせて調整しよう。
靴下を履かせて、足を戻す。
「マイの足はエジプト型だから、私のより先のやや細いスマートなタイプがいいと思う。その形を中心に、いくつか作ってみるよ。出来上がったら、試してね。」
「はい。お願いします。・・・アルさん、アパレル会社なのに、仕事で靴も扱ってたんですか?」
「製造はしなくても、トータルコーディネイトに必要だからね。通常の分は企画が担当してたんだけど、山ガールとうちのブランドの客層が被るんじゃないかってことで、本格的なものじゃなく、初心者向けにアウトドア用の商品を売り出したんだ。マネキンにトータルコーディネイトさせるのに、登山靴が必要でね。価格も手頃で、ハイキングや低い山なら登れるようなのを、ピックアップしたんだ。登山靴は専門店で購入して頂く様にしてたんだけど、低くても登山するなら靴を買ったほうがいいってことを説明するのに、足のタイプ別に分けて資料も作ったし。もう、どれだけ履き比べたことか!まぁ、そのおかげで、登山靴の知識があるわけなんだけどね。」
「色々種類があるんですか?」
「ハイキングシューズにトレッキングシューズ、それに本格的な登山靴に重登山靴。お手軽、そこそこ、本格的に冬季対応って感じで捉えたらいいと思う。登山に適しているほど、舗装されたところは歩きにくいよ。だから、今回はトレッキングシューズを選んだんだ。・・・うーん。靴の説明も、ちょっとしておこうか?」
「靴の説明ですか?」
「そう。靴選びも、場所によっては必要になると思うから。基本的に舗装された道はないと思うんだ。アスファルトもないし、あって石畳だと思う。舗装するのに労力がいるから、一般人の生活エリアの中にあるとは考えにくい。塩の道も土のままで、凸凹だったよ。
本格的な登山靴ほど、アウトソール・・・地面に当たる側の部分は硬いんだ。硬いアウトソールの靴は力を分散できるから、凸凹の道でも歩きやすくなる。たとえば石の上を歩く時、石に乗っている部分だけに力が入るのではなく、足の裏の面で捕らえることができるから、疲れにくくなるんだ。でも、アウトソールが固すぎる登山靴は、平坦な道や緩いのぼりの道では、足の裏を曲げることが出来ないから歩きづらくなる。そういう場合は、柔らかいアウトソールの方がいい。
それと、登山靴はローカット、ミドルカット、ハイカットの3タイプに分かれる。ローカットの靴はスニーカーの様な靴で、アッパーの部分が足首より下にある。足首が固定されていないから、自由に動かすことができるけど、下りの時には足首に負担がかかる。登山に向いているのはハイカットの靴で、ハイカットの靴は足のくるぶしまでカバーするタイプ。足首を固定されるので自由度は減るけど、その分下りで足首の負担を減らしてくれる。体重を靴にまかせることが出来るから、ローカットの靴と比べかなり楽に下ることができる。それに、足首をがっちりと固定してくれるから、足首の怪我をしにくくなる。ミドルカットの靴は丁度その中間になるね。ハイカットの靴に比べると自由度が高いから、上り下りの少ない道に向いているよ。
纏めると、足場の悪い上り下りする場所では、アウトソールは硬く、足首を固めるタイプを選ぶ。歩きやすい場所では、アウトソールは柔らかく、足首も自由なものを選ぶ。どういう場所で、どういうタイプの履物が足の負担にならないか覚えておいてね。」
「わかりました。」
あとは・・・サイズの合わせ方かな。これも説明しておくか。
「マイ、トレッキングシューズのサイズの合わせ方、知らないよね?」
「はい。知りません。」
「トレッキングシューズのサイズの合わせ方は、靴下を履いて、靴紐は緩めにし、足の爪先をトントン!ってして、足先を靴の爪先に着けた状態で、足の後ろのかかとの部分にちょうど指1本入るくらいの余裕があれば大丈夫だよ。基本的には、普段はいている靴プラス0.5〜1cm程度になるかな。」
「普段履いてる靴よりも、大きいサイズを履くんですね?」
「靴の中で足の指が自由に動かせるのが理想なんだ。この余裕がないと、下り道で足が靴の中でずれた場合に、爪先が靴の内側に当たって、痛い思いをすることになる。痛いだけじゃなく、下手をすると爪が死んだり指が変形したりする。だから爪先に余裕が必要なんだ。
だけど、いくら爪先に余裕があっても、足を踵に詰めてしっかりと靴紐を締めても、歩くと甲の部分や踵が浮く様だとその靴は足に合っていない。足の長さだけでなく足幅と足囲も重要なんだよ。これが合っていないと、足の親指の付け根や小指の付け根が靴の内側に当たって、とても痛い思いをすることになる。足に異常は無かったけど、靴で痛い思いをしたことはある?」
「無いです。いつも店員さんに見てもらってから、買ってました。そのときは爪先の余裕を確かめてくれてたんですけど、トレッキングシューズは、踵で確かめるんですか?」
「方法が違うだけで、爪先の余裕を確認しているんだよ。トレッキングシューズでも踵をあわせて爪先の余裕を確認する店員さんもいたから、どちらも間違いじゃないと思うよ。本来なら、人の足は夕方にかけて大きくなるから、できるだけ午後の時間帯にフィッテングするのがいいんだけどね。今回は、ちょっと大きめのサイズも作るから、それで試してみて。合う靴が複数あれば、一日交代で履いてもいいし。」
「荷物になりませんか?」
「運べないようなら、置いていけばいいよ。でも、体のスペック上がってるから、いけるんじゃないかと思ってる。とりあえず、ここにあるものは野営地まで全部運ぼう。そこで、取捨選択しよう。」
「わかりました。頑張ります!」
「じゃ、先にマイの靴を作るから、タンポポの処理お願いしていいかな?」
「根はタンポポコーヒーですね。他はどうしますか?」
「あっ、今分けてしまうね。花は後で、染料をとるから、ここに纏めて・・・茎は虫除けになるから、紙に染み込ませて持ち歩こうかと思ってる。塩の道は、草原と森に挟まれているから、虫除けは必須だよ。森では見かけなかったけど、草原には虫がいたし、飛んでくるかも。それに、草原で薬草を探したい。他にも採取できるようなら、しておきたいし。・・・これが最後の葉・・・よし、とれた!じゃ、これが根なんでお願いします。」
「まずは、水に晒して灰汁抜きまでしておきますね。」
「お願いします。その間に、靴の製作に取り掛かるね。」
靴の製作の前に、テーブルの上を・・・んー、針とか待ち針は、入れ物を作らないと片付かないな。袋に入れたまま、端に寄せておこう。他もこのままでいいか。
後は・・・タンポポは部位ごとに紙で包んでおく。寝るまでに容器を作って、成分を抽出しよう。葉の一部は、マイに乳鉢セットを借りて、すり潰してみよう。乾燥させて煎じたほうが効くような気がするが、乳鉢の使い方の練習にもなる。マイにも練習してもらって・・・後にしよう。マイの靴が先だ。
材料は・・・あ~トイレの壁がない。棚にした分しか残ってない。・・・柱を2本作って布で囲うか?・・・いやリヤカーを作る材料として、木を分離させるから高さ1mの幹が出来る。マイの靴の後に作るから、その時確保しよう。
幹を1本を抱えて、荷物置き場の空いてるスペースに座り込む。
ふぅ。まずは、体力と魔力の確認をしておこう。
能力把握!
体力 : 23/25
魔力 : 13/25
ほぼ、休憩なしで動いていたが、体力の減りは少ない。負荷がそれほど掛かっていないからか?
魔力は時間経過で多少回復したか。
材料は1本だと・・・んー、硬い部分が大分余るな。
材料はあるし、他の種類で私の分も作っておくか。ローカットとハイカットでイメージを調整する。
次はマイの靴だ。私のミドルカットを修正していく。サイズの変更と爪先の形の変更。それによる靴底の溝の変更。よし、これを基準にサイズを展開させる。長さを0.5cmと1cm大きいものをイメージする。
次はこの3サイズを基準に足幅と足囲を僅かにサイズアップさせてイメージする。
まずは、6足作ってみて試そう。私のと合わせて計8足。
材料のどこを使うか、決めていく。
もう一度イメージを固める。どの部分をどこに使うか、はと目の位置と数。紐の太さも。爪先は、生地の上からしっかり補強を。靴底に深い溝を作って滑りにくく。マイの足裏に合わせて、インソールを調整し、細部までイメージする。
物質変形!
まばゆい光が収まると・・・靴が8足と紐が16本、出来ていた。それに残りの材料・・・中心部分を取り巻くように使ったから、リング状にゴボッと抜かれているな。・・・ババロアの容器を大きく深くしたような感じか?残った中心部の柔らかい部分は布にして、他は容器とクッション材がわりの糸に使おうか。ん~、リヤカー作った後だな。先に靴を確認しよう。
マイの分から確認していく。紐を取り、緩めながらはと目に通していく。
6足とも、イメージしたとおりに出来ている。順番に試してもらおう。
ローカットとハイカットを確認する。イメージどおりに出来ている。靴を脱ぎ、ハイカットに履き替える。紐を取り、はと目に通していく。ぎゅっと締める。もう片足も、同じように締める。
立って、歩いてみる。屈伸をして、足の状態をみる。窮屈なところはない。次は、ローカットだ。
足の根元でしっかり締める。動き回って確かめる。足元が安定している場所は、こちらがいいな。ここでは、ローカットを履いておこう。
「アルさん、水に浸けました。次は、スポーツ飲料を試そうと思うんですけど、いいですか?」
マイから声が掛かる。
「マイ、その前に靴ができたから、サイズの小さいのから試して。」
「わぁ、ありがとうどざいます!アルさん、靴屋さんも出来るんじゃないですか?」
「無理無理。本職じゃないから、経験が足りないよ。履き方なんだけど、トレッキングシューズに足を入れたら、かかとを立てて強く地面に押し当てて、そのまま動かさずに、つま先から足首にかけて紐をキツめに締めてね。靴紐を結んだら、しばらく歩いてみて全体的に違和感がなければ問題ないよ。歩いて、爪先が少し当たるようなら大きめのモノに、変更してね。テーブルに運ぶから、あっちで試そう。」
「持ちます。」
「じゃ、これお願い。こっちから履いてね。」
「はい。」
マイに2足渡して、先に行かせる。
残りを持ってテーブルへ。
早速、マイが履き替えている。
「履けました!」
「ちょっと歩いてみて。」
マイが結界の端の方へ歩いていき、ターンして戻ってくる。歩く姿からは、問題はなさそうだ。
「マイ、どう?痛いところはない?」
「はい。これ、歩き易いです。」
「次の靴に履き替えて。足幅をほんの少しだけ、大きくしてるんだ。履き比べてね。」
「わかりました。」
マイが靴を履き替え、端の方へ歩いていき、ターンして戻ってくる。
「どうかな?」
「こっちの方がいいみたいです。」
「じゃ、それをしばらく履いて慣らしてみて。その後、このセットを同じように試してみてね。最後がこのセット。で、合わないと思った物は私に渡してね。」
「はい!」
マイを手招いて、テーブルに座る。
早速、最初の靴を受け取り、靴紐を解いていく。
「その靴は、どうするんですか?」
「んー。どうしようか。上は分離させて、靴底を売り物にしてもいいかも。このまま試作品として持っていくのでもいいし。・・・後でどうするか決めるよ。森の中の移動は明日で終らせたい。今日、ある程度荷造りしてしまおう。必要なものとか、あったらいいなって思う物があったら、遠慮なく言ってね。」
「わかりました。じゃあ、明日は野営地で一泊ですね?」
「そうしたいね。・・・んー、何度も往復することになるから、リヤカーは森の入り口の手前に集めておいて、もし明日中に運びきれなかったら、結界を張って保管しておこう。で、その場合は私達はここで一泊する。どうかな?」
「それでいいと思います。リヤカーが何個分になるかですね。水樽はどうしたらいいですか?あのままだと重すぎると思うんです。」
「小さな水樽を作って、小分けしようと思う。ただ、あの樽は使い道があるから持っていこう。水が入ってなければ、運べるよ。」
「わかりました。今から荷造りに取り掛かったほうがいいですか?」
「いや、まだリヤカー作れてないから、マイにはスポーツ飲料の試作をしてほしい。
森の中は一輪のリヤカーで荷物を運んで、その一輪のリヤカーを連結させて荷車にしようと思う。そうすれば、荷物も一回の積み込みでいいし。」
「連結・・・連結させるなら一輪のリヤカーは、間を空けずにくっつけたほうがいいと思います。リヤカーの前後左右を、ねじとかで固定するのはどうですか?」
「そうだね・・・その案で1回作ってみるよ。まずは、4個作ってみるね。じゃあ、マイはスポーツ飲料の試作をお願いします。」
「任せてください!」
次は一輪リヤカーの作成だ!




