第三十二話
ここまでは、森の中の移動も順調だった。
靴も問題ない。靴擦れの心配も、この分なら問題ないだろう。
問題は、ここから先の道のりだ。
昨日はあの辺りから、足元が滑りやすくなった。丁度、密集していて、薄暗い場所が続く。リヤカーでも危ないだろう。
迂回してみるか。どちらに行くか・・・左だな。
担いでいた糸を木に結ぶ。左へ進路を取り、密集地帯を避けて、リヤカーが通りやすい場所を選んで進む。
結構進んだな。漸く、木漏れ日が見えるようになり、本来の進行方向と平行するように進む。
密集地点を越えたと思われる地点で、今度は右に進路を取る。このまま進めば、目印の糸が見つかるはず。
リヤカーが通りやすい場所を選んで進むため、真っ直ぐではないが、確実に進んでいく。
有った!元のルートに帰ってきた。木に糸を結び、短剣で切る。これで、ここまでは、リヤカーで来れる。
糸に沿ってそのまま進んでいく。
昨日、糸を結んだ木まで辿り着いた。その木に担いでいる糸を結ぶ。
この担いだ分で、塩の道に出れますように!
辺りを警戒しながら、先へ進む。遠くで、鳥のさえずりが聞こえる。
草も獣の足跡も無い。鳥しかいないのか?他の種類の木も見当たらない。不思議な森だ。
1回目の糸が終わり、糸を継ぐ。
そのまま進むが、変わらない景色が続く。時折、振り返り方向を確かめる。
あっ!あの先明るい!出口か?!
はやる気持ちを抑えて、注意しながら進む。
もう少し。
あとちょっと。
向こうが見える!出口だ!!
大きく息を吸い、深呼吸する。気持ちを静めて、辺りの気配を探る。気配はない。
念のため、もう少し近づいてから、スキルも使おう。
索敵!
半径100mに反応はない。
森から出よう!
明るいほうへと進んでいく。おっ!糸がなくなった。少し戻って、糸を最寄の木へ結ぶ。ここからだとすぐにわかるかな?
印をつけよう。向こうから正面になる場所の木に短剣で×の印を大きくつける。
見えるか確認しながら、進む。そばの木に×の印を大きくつける。何度か繰り返して進んでいく。
向こうは草原のようだ。
抜けた!
まぶしい!!手で影を作る。
どうやら、森を抜けたところは、野営地のようだ。焚き火跡が残っている。
野営地にするために、森の木を伐採したのか?森が凹んだ状態になっている。
こちら側に草は生えていない。
森に接したところが塩の道かな?鑑定をしてみよう。
鑑定!
塩の道:サテラ共和国からライトール村への道。ほぼ直線の道。距離およそ900km。北にライーラ草原、南にツォーレの森がある。
塩の道発見!でも現在地不明!!北と南はわかったけど、サテラ共和国とライトール村、どっちが近いんだろう。
ほぼ、直線なんだから、人工物が見えるほうに行ってみようか。
まずは、塩の道に立ってみないと。
道幅がひろいな。これなら対向車ともすれ違えるんじゃないか?結構、でこぼこしている。車輪の幅も統一はされていないようだ。
うん?蹄の跡か?・・・大きすぎないか?・・・蹄の跡に足を沿わせる。・・・長さが私の足と変わらない!
馬の蹄って、馬の足は細いから、サラブレッドでも人間の足より小さかったはずなのに・・・地球よりも大きな種類がいるのかも。
あっ、こっちは小さい。
他にも探してみる。
二つに分かれている、大きな蹄跡がある・・・牛か?
とりあえず、草原が北だから東はこちらか。
森と草原に挟まれた道と、空しか見えない。
くるっと回って、西を見る。・・・あれは城壁か?
進むべき方角は、西だな。
なにか役に立ちそうな草はないのか。
草原を見渡す。少しはなれたところに黄色い花が見える。あの形は・・・もしかしてタンポポ!?
傍に駆け寄り、観察する。セイヨウタンポポにそっくりだ。
鑑定!
ダンディライオン:薬草であり、葉は食用にもなる。葉には、解熱・発汗・健胃・利尿などの作用がある。根を乾燥させて炒ったものは薬湯として、二日酔いや肝臓、便秘によい。花からは黄色の染料がとれる。
名前は違うけど、ほぼタンポポ!
根っこから掘り起こさないと!これでタンポポコーヒーが飲める!!
スコップを取り出し、周辺の土を掘り起こしていく。
よし!一つ目。ん?あー虫がいる。そうだ!確か、茎の乳液は虫除けになったはず!
茎を掴んで折る。乳液が出てきた。周辺に液をたらす。茎から液が出ている状態で、傍においておく。
続いて、固まって3株ある場所を掘る。
今度のは、根が深いようだ。
周りを確認するが、虫は近づいてこない。虫除け効いているのか?
念のため、塩の道を移動するときは、持ち歩くようにしたほうがいいな。
大分掘ることになったが、3株取れた。紙を取り出し、纏めて包み、ショルダーバックに入れる。
茎を折った分は、花と茎と根に分けて、それぞれ紙で包む。
茎の部分のみ手に持ち、残りはショルダーバックに入れる。
マイにもいい報告ができる。町も見える場所に有るし、無理をさせずに町へ行けそうだ。
来た道を戻る。
遠回りで帰るか、近道で帰るか・・・靴の性能の試しも兼ねて近道しよう。
わざと滑りやすい場所も、歩いてみる。
荷物が無ければ、歩くのは問題ない。が、リヤカーを押してとなると危険だ。
やっと結界が見えてきた。
「ただいま、マイ」
「アルさん、お帰りなさい。どうでしたか?」
「塩の道見つけたよ。道に出たら西に城壁が見えた。移動は無理しないように、お互いの様子を見ながら、ペース配分するようにしよう。一輪リヤカーなら森の中も移動できる。連結して荷車になるリヤカーを考えてみるね。」
「じゃあ、先にお風呂にしますか?今、洗濯が終ったところなんです。あの・・・洗濯はどこに干したらいいですか?」
「あー、考えてなかったな。お風呂は、後にするから、柱を二つ使ってロープに干そう。結界の外でも大丈夫じゃないかな。マイ、ロープ出して。」
「わかりました。」
荷物置き場に行き、ショルダーバックをおろす。手に持っていた茎も傍に置く。
風呂場に行き、布を外し、柱を2本結界の外に移動させる。
「アルさん、このロープでいいですか?」
「それでいいよ。今日はロープに干そう。この辺りがよさそうだね。マイ、丈の長いものは無い?」
「無いです。スカートはまだ着れると思ったので、洗ってません。」
「じゃ1mの高さにするね。これ棒は二つに分かれるようにしてあるから。持ち運び可能にしといたよ。そっちも外してもらえるかな?」
「わかりました。」
「上の部分も外してね。外した上の部分を土台が付いてる方につけて。」
「はい!」
「マイ、出来た?」
「これでいいですか?」
「ありがとう。後は、ここにロープを結ぼう・・・そっちも結んでもらえるかな?・・・これで干せると思うよ。」
「ここに洗濯物をかければいいですか?」
「土台はしっかりしてるから、倒れないと思う。洗濯物干してみて。」
マイがロープに洗濯物を干していく。
倒れないし、これでいいな。
「アルさん、干し終わりました。」
「じゃあ、テーブルに座って、お互いの報告をしよう。」
「はい!」
ショルダーバックから水筒と紙の包みを取り出し、茎と一緒にテーブルへ運ぶ。
「アルさん、水はいりませんか?」
「水筒の残りがあるから、大丈夫。」
テーブルの端に荷物を置き、椅子に深く腰掛ける。
「マイから聞かせてもらって、いいかな?」
「はい。私のほうは、お風呂に入りました。洗面器は、消火用の水が入っていたのを捨てて、使いました。あっ、着替えを置く棚がなかったので、椅子を使いました。石鹸は問題なかったです。かゆくなったりも無いです。結界のお湯に最後浸かってから出たんですけど、水滴が付いてこないので、乾いた状態で出てこれました。ただ、乾燥しすぎのような気もしました。櫛も使ってみました。使いやすいです。
その後、洗濯板で、洗濯しました。ちょっと時間がかかってしまいました。洗濯機が無いってこんなに大変なことなんですね。自分で経験して、初めてわかりました。洗い終わったところに、アルさんが、帰って来ました。私のほうは以上です。」
「報告ありがとう。うーん。乾燥しすぎか・・・こちらは後で確認するね。洗濯物はなるべく少なくしていこう。電化製品がなければ、家事に時間を取られることになる。この辺は、どこで暮らしていくかにもよるから、出来ることから改善していこう。
次は、私から報告。塩の道を見つけたよ。森を抜けた先で西側に建物が見えた。まずは、そこを目指そう。森の中の移動距離は3kmもないけど、リヤカーで移動できるように迂回している。木が密集しているところは、危ないから糸に沿って迂回してね。森を抜けた場所が、野営場所になってるみたいで、焚き火跡があったよ。
道に蹄の跡があったんだけど、サイズがすごく大きいんだ。馬ぐらいの大きさもあったし、蹄の形が違うのもあった。荷車引く動物は、色々いるみたい。道はでこぼこしているから、歩きにくいと思う。
後は、これを見て。」
紙を開いて中を見せる。
「わぁ、タンポポですか?」
「鑑定したら、ダンディライオンって名前だった。でも内容はタンポポと一緒だったよ。だから、マイお願い。タンポポコーヒー作って下さい。」
「タンポポコーヒーですか?」
「そう。根っこがね、コーヒーの味に近いんだ。花は染料になるし、茎の乳液は虫除けになる。葉は食用にもなるから、サラダにしてもいい。
他には葉の薬の効能として、解熱・発汗・健胃・利尿などの作用がある。煎じるのか、すり潰して使うのか色々やってみたほうがいいと思う。医者も薬もあるかわからないし。この辺は一緒に実験してもらえたらと思ってる。私の知っていることも教えるから、マイも自分で作れるようになったほうがいいと思う。」
「わかりました。一緒に実験します。」
「それで、これは完全に私の個人的なお願いなんだけど、コーヒーが飲みたいんだ。お願いできないかな?」
「わかりました。どうしたらいいですか?」
「タンポポコーヒーの作り方は、根を水洗いして、1〜2cmの長さに切って、水に晒して灰汁抜きした後、細かく刻む。乾燥させて、フライパンで強めに焙煎して風味を出す。コーヒー同様にドリップするか煮出すんだ。乾燥させるのは、錬金で私がするから、他の工程お願いできないかな?」
「昨日頼まれた、塩とライカの果汁でスポーツ飲料の試作と、どっちを優先しますか?」
「タンポポコーヒーをお願いします。すっごく飲みたいです。マイはコーヒー飲める?」
「ミルクと砂糖があれば、飲めます。普段は、お茶か紅茶を飲んでました。」
「うーん。お茶なら町にあるかも。ただ、日本のお茶とは名称同じで別物だったり、他の名前になっていることもあると思うから、じっくり探そう。」
「麦茶を優先して、探して欲しいです。」
「わかった。町に着いたら、情報収集しながら探そう。」
「はい!報告会はこれで終わりですか?でしたら、タンポポコーヒーを作りますけど。」
やった!これで飲める!でもその前に、マイの足を確認しなくては!靴が無くては移動は危ない!




