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僕と狼の日常  作者: ゆり
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プロローグ

プロローグ




 僕は、女の人の膝の上に座り絵本を読んでもらっている。その女の人のすぐ隣には男の人が座っている。

 

 場面が変わった。


 今度は、大きなホワイト狼の背中に僕は乗って、外を散歩している。そのすぐ隣には、男の人が並んで歩いている。僕は、その男の人に何やらしきりと話しかけている。


 また、場面が変わった。


 数頭のダークブラウンの狼と外を走り回っている。


 また、場面が変わった。


 僕は床に座り、小さなホワイト狼と遊んでいる。じゃれ合っているうちに、喧嘩になり、お互い相手に噛み付いている。 


 僕は、はっと目を覚ました。

 僕は、いつの間にか見慣れてしまった天井を見つめた。白い天井はとても眩しく、何度も瞬きをした。

 また僕は、倒れたらしい。

 大きな溜息をはく。

 時間はお昼ごろだろう。

 この頃、この時間にこのベッドで、いつも同じ夢を見る。どの夢も、月明かりが差し込んでいる。太陽の光は一切出て来ない。不思議な感じがする夢だ。普通、あんなに小さい子供が夜、外に出て遊んだりしない。でも、あの夢に出てくる二歳位の男の子は僕の様な気がする。他の人物の顔ははっきりと見えたことがない。それに、なぜあんなに狼が出てくるのだろう。一般的には狼は、動物園に行かなければ見る事はない。ましてや一緒に遊ぶなど考えられない事だ。

 まだ重い頭をノロノロと持ち上げて、上体を起こす。そして、眩しさに慣れない目を保護する為に、濃い色のサングラスをかける。昼間はどこへ行くにも、このサングラスが欠かせなくなってしまった。

 かっこ悪い。

 誕生日を過ぎた頃から、しっかりと睡眠がとれていない。

 ベッドに入ってウトウトし始めると、体が火照りだし眠れないのだ。その後、何度も寝返りを打ち、眠れない事にイライラして朝になってしまう。

 眠る前に体を疲れさせ、ヘトヘトになるまで筋トレや柔軟体操などをしても眠れない。入浴後、ホットミルクを飲んで落ち着いても眠れない。読書をしたり音楽を聞いても眠れない。頭を冷やしても眠れない。睡眠薬を飲んでも眠れない。何をしても、眠れない毎日がずっと続いている。おかげで、昼間倒れて保健室のベッドにいる。

 ホームドクターの話では、成長期にたまにある症状だと言う事だったが、友達に聞いてもこんな経験をした事は無いと言う。

 僕は、どうなってしまったのだろう。

 ベッドからゆっくりと降り、上着のポケットに入れてある薬瓶を取り出す。その瓶の中には、透明感のある紅い錠剤がいくつも入っている。

僕は、この薬を毎日飲んでいるのだけれど、倒れた時にもこれを三錠飲む。

 うっ、不味い

 思いっきり顔を顰めて、大量の水で無理やり薬を流し込む。

こんなに不味い薬は他には無いだろう。誰が作った薬か知らないが、飲む者の事は一切考慮されなかったように思う。しかし、この薬はすぐに効く。重たかった頭もすっきりし、手足も暖かくなる。きっと顔色も良くなっていることだろう。

 保健室の先生に挨拶をして、僕は教室へ向かった。

 僕は、中等部の一年生。

 この学校は、幼稚園から高等部まであり、この辺りでは知らない人はいない名門校だ。初等部四年生から、成績順にクラス分けされている。

 僕は、この学校に幼稚園から通い始めた。幼稚園から通い始めると、成績も上位を取りやすい。

 僕は初等部四年生からずっと一番上のクラスにいる。でも、今の状態では来年度はクラスが下がってしまうだろう。ずっと同じクラスだった友達と違うクラスになるのは寂しいが、今の僕の状態では諦めるしかなさそうだ。

 僕は、教室に戻っても授業を受ける事なく、荷物をまとめて自宅に帰る。ホームドクターの診察を受けなければならないからだ。

薬を飲めば、授業を受けても大丈夫だと僕は思っているが、マリーがとても心配するから仕方がない。

 マリーは僕の家のハウスキーパーであり、僕のナニーだ。

 僕は、物心着いた頃から、このマリーに育てられてきた。服の着方や靴の履き方、食事の仕方など身の回りの事は全てマリーが教えてくれた。僕が悪戯をすれば、叱ってくれるのもマリーだ。僕にとっては、本当の母親のような存在だ。

 迎えの車に乗ると、無意識にまた溜息が出てしまう。

 帰宅後、すぐにドクターの診察を受ける。診察は、問診と血液検査。

 それらの結果をドクターは、マリーに話し、マリーは両親に連絡する。

 僕には一切教えてもらえない。何故なのかは分からない。教えてもらえない分、不安は募っていくばかりだ。

 今日も、マリーと両親の長電話が始まった。

 父さんは、仕事が忙しいらしく一緒に住んでいない。母さんも父さんの仕事を手伝っているらしい。

 世間では、週末だけ帰って来る父親もいるようだが、僕の両親は帰って来ない。だから、僕は両親に十年も会っていない。

 そして、何故か両親の写真は一枚も無いので、申し訳ないが顔を忘れてしまった。僕宛に定期的に掛かってくる電話の相手が、父さんや母さんだとマリーが言うのでそれを信じるしかない。

 マリーの話では、父さんは会社の社長で母さんは副社長らしい。それ以上の詳しい事は教えてくれない。両親に直接聞いてみてもはぐらかされてしまう。

 そこで、僕なりに両親の職業を考えてみた。外国にいると聞いているので、日本にない仕事なのだろう。そして、一人息子にも仕事の話が出来ないと言う事は、世間的にはあまり良い仕事ではないのかもしれない。

 別の角度からも考えてみた。

 僕の家には、シェフ・メイド・運転手など様々な職業の人たちが住込みで働いている。そして、僕は学費の高い私立に幼稚園から通っている。と言う事は、そうとう大きな金額のお金を動かす職業ではないか。

 そこで、僕的には父さんの仕事はマフィアだと結論づけた。これは誰にも言っていない。あっ、マットには話した。その時のマットは、変な顔をしていたように思う。

 マットは、僕がものごごろ付いた時にはすでに一緒にいた狼だ。

 ホワイトの毛並みに金色の瞳を持っている。四つ足で立ち上がると、僕の肩の高さに頭がくるほど大きい。こんなに大きな狼は、どの図鑑にも載っていない。マットは、特別な狼なのだろう。

 そんなマットに僕は何でも話している。マットは、どんな話も辛抱強く聞いていてくれる。返事をしてくれるわけではないけれど、マットに話を聞いてもらうだけで気分が落ち着いた。僕の話が終わると、マットは僕の頬をペロンって舐めるんだ。分かったよっていう返事みたいに。

 帰宅後許可されている唯一の外出は、マットの散歩だけだ。

他の人との散歩をマットが嫌がる為、ドクターも仕方なく許可してくれたのだ。これでマットの散歩まで禁止されてしまったら、気が変になりそうだ。そんな僕の事をマットはよく分かっていて、わざと僕以外の人との散歩を嫌がっているのかもしれない、なんて思ってしまう。

 診察後、僕はマットと一緒に外に出た。

 大きな狼を散歩させると、飼い犬という飼い犬はとても怖がるため、あえてコースは決めていない。だからその日の気分であちこち歩き回る。

 今日は、住宅街を避けて、川沿いを丘陵に向かって歩いて行く事にした。

 三月に入ってから、だいぶ暖かい日が増えて来てはいたが、今日はあいにく冷たい風が吹いていた。そんな風もマットがいつの間にか風除けになってくれているから、ちっとも寒く感じない。とても気の利く狼だ。

 人が居ない場所ではマットのリードを外して思いっきり走らせてあげる。

 普段自宅の敷地内をマットが思いっきり走るとみんなが怒る。体当たりされたら困るというのもあるし、花壇がめちゃくちゃになってしまうからだ。

 思いっきり走っているマットはとても気持ち良さそうだ。そしてとてもかっこいい。大型の犬にもない精悍な姿を見る事が出来る。僕が二番目に好きなマットの姿だ。ちなみに一番は、寝ている姿。僕の前ではこの厳つい狼もとても無防備でお腹を上にして寝ている。その姿がとても可愛いから一番。

 急にマットが立ち止まった。きっと小さなネズミかモグラでも見つけたのだろう。姿勢を低くして、素早く動きあっという間に獲物を捕える。マットが散歩中に一番楽しみにしている事だ。

 以前、庭にモグラがいたのをみつけ穴を掘りまくってひどく叱られていた。でもここなら誰にも叱られない。もちろん、掘った穴は埋めてから帰るけど。

 獲物を完食するとマットは、鼻面に草をたくさんくっつけて誇らしげに僕の所に戻って来た。僕は、その草を拭ってやり、散歩を再開する。

 丘陵をぐるりと一回りする頃には、夕方になっていた。夕陽色に辺り一面が染まり始めた。とても綺麗だ。

 僕はその夕陽色を、マットに引きずられるように歩きながら眺めていた。すると、どこからか音が聞こえてきた。その音は、段々と大きくなっていく。

 トクン……トクン……ドクン……ドクン……。

 その音に、押しつぶされそうな感じがした。他にも色々な音が聞こえていたはずなのに、その音しか聞こえない。そのうち、周りの夕陽色が段々と濃くなっていった。たくさんの色が紅一色に変わっていく。その紅が、黒に近くなってくると、身体中から脂汗が吹き出した。そして、ドクン、ドクンと聞こえていた音が、ザーッと勢いよく流れるような音に変わった。

 そして、僕は意識を手放した。


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