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『異世界職能レビュアー』 ~元・管理職のおっさん、鑑定スキルで有望株を「青田買い」して、最強の快適生活をプロデュースする~  作者: レイフォン


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1九話 イレギュラーズ

ここはセブリオン商会の外、店の外に生えてる大木を背にラベルとシルヴィアが立っている。

ラベルは手持ち無沙汰なのかしゃがんで木の枝を持ち蟻の観察を行っているが、シルヴィアはフードをまぶかに被り、終始、腕を組みながら大木に寄りかかっている。

ゴブリンの集落があった森から徒歩で帰って来た為、あたりはもうすっかり夕闇が街を包み始めていた。


商会内にある応接室を使っていいか確認を取りにリオが中へ入ってから数分。

取り残された二人の間には、少しだけ重苦しい沈黙が流れていた。


ラベルは隣に立つ少女の横顔を盗み見る。

かつて泥だらけになって自分の後を追ってきた少し歳の離れた幼馴染は、今や一国の命運を左右する

「剣聖」

けれど、ラベルから見た今の彼女は、その重責に震える一人の小さな女の子に見えた。


「シル、嫌、シルヴィア・・さまか、大丈夫か?

少し顔色が悪いぞ。」


ラベルは立ち上がり覗き込むようにして、シルヴィアに優しく声をかける。

その声は、二年前よりも少し低くなっていた。

身長も、体格も、二年前よりも大きく・・・。

かっこ・・よ


「・・・シルヴィア様?」

「ひゃ・え・・?」

「ひゃ?」

「 あ、ううん。

大丈夫、あんな位じゃ怪我なんてしないから・・・。」

「ちげーよ、剣聖様に怪我の心配なんかするかってーの、俺が言ってんのはここの話だよ。」


そう言うとラベルはドンドンと拳で胸の辺りを叩いて見せる。


「・・・お前、昔から頑張りすぎるところあるからな。そんなに気を張るなよ。」


そう言って、ラベルは大きな手でシルヴィアの頭を軽くポンと叩いた。


「ほわっ!」


その瞬間、貴族の淑女らしからぬ声と共にシルヴィアの頭の中は真っ白に染まった。


・・ダメ。

・・・・そんな優しい声で言われたら

・・・・・・・私っ!!


赤く染まっていく頬を隠そうと俯くシルヴィア。

封印していたはずの恋心が熱を帯びて心臓を叩く。


ああ・・・・ラベルにぃ・・ラベルにぃ・・・・ラベルにぃ・・・・ラベルにぃ!!!

ばべぶびーーーーーい!!!!!


まさに、彼女の感情が溢れ出そうとした、その時だった。


「おーい、二人とも!

応接室使っていいってー!」


間が悪すぎるタイミングで、リオが勢いよく商会から顔を出した。


「・・・あ。

リオ・・・早い・・・わね。」


シルヴィアは引きつった笑顔でこちらを見つめてくる。

その手にはいつの間にかラベル君の着ている服の裾が握られていた。

ラベルは「?」という顔をしてシルヴィアの事を見ていたが、まぁ、全く気にする事じゃないだろう。


「母さんもシルヴィア様なら大歓迎よ!

って張り切ってお茶の用意してるからさ。

さあ、入って下さい。」


商会の奥の応接室、マーサが淹れてくれたこだわりの温かいお茶と、俺とマーサのこの数ヶ月の努力の結晶であるお茶請けを前にシルヴィアは重い口を開いた。


「修練中に、現れたの。

カスティールの警備網を抜けて、私の前に。」


それは少女だった。

自分より歳は上に見えるが、そう離れていない、そんな少女が、この国でも有数の騎士団であるカスティール騎士団の警備網をかいくぐった。

それの意味するところを思うと背筋に冷たいものが走るのを感じる、そんな愕然とするシルヴィアに少女は淡々と告げた。


「うちの上司、普段は不公平上等なのだけれど。

・・・今回は平等な気分。

だからヒント。

最初に。

あと一年もしないで、ガウェイン男爵領、いいえ、エブンが消える。」


敵の狙いは、小領主ガウェイン男爵。

そしてその最大戦力であるシルヴィアだった。



時間はほんの少しだけ遡る。

ところ変わって、ここは何処かの何処か。

一人の少女が、空間に浮かぶ光の枠を、苛立ちを隠さず高速でスワイプしていた。


「フッガぁーーーーーー!!

もう!!!

マジでありえないんだけど!!!!

アチシがオットーに流してる侵食コード、なんでここら辺だけいつもエラーが出るわけ!?」


外見は10代前半程だろうか。

綺麗な赤色の髪をオデコの前でピンとたつようにシュシュで雑に縛り上げ、ボサボサになった髪の毛の左右両サイドからは、未発達の幼い角がひょこりと生えている。

それ以外は人間の可愛く愛嬌のある少女と変わらないが、ネグリジェのような部屋着を着て、椅子の上に胡座をかいて頭をガリガリとむさぼる様はいささか少女の見た目の年齢から考えれば異様に見えた。

彼女が空間に投影していたのは大陸の地図のようで、ピンチアウトした先にあったのはエブンだった。


「帰ってきたの?

お帰りー。

お疲れリリアナちゃん!

マジ感謝!!」


画面を見ながら彼女は何もいない暗闇に向かって声を掛ける。


「ただいま。

・・・・エブンの。

任務完了。

でも。

面白い防衛ロジックが組まれ始めてた。」

「やっぱり!?

アチシも今ログ解析してたんだけどさ、あの石鹸、ただの手洗い石鹸じゃないよね?

あれを普及させることで、人間側の魔力抵抗値を底上げして、リリアナちゃんの自家製ウイルスをパッシブで弾くアンチウイルスとして機能させてる。

たく・・・マジで誰だよっこんなクソみたいなリファクタリングしたヤツ!!」


少女は不機嫌そうに、けれどどこか楽しそうに右手の親指のサムズアップして爪をガリガリと噛み始めた。


「上司。

・・・・ばっちぃ

止める。」


リリアナと呼ばれた少女は目を細めながら、見慣れた上司の癖を咎めるが、赤髪の少女はテンションが上がっているのか聞く耳持たずで、逆に更にヒートアップしてその指からは赤黒い血が流れ出し始めていた。


「決ぃめたっ!

このエブンって街、いい感じにインフラが整理されてるから、丸ごと乗っ取って私の拠点にし〜ちゃおっ!!

んへへ。

そんでもってっ!!

今出来始めてる石鹸の流通ルートをそのままハッキングしてぇ、成分をリリアナちゃん特性の自家製ウイルスにアプデして配れば、一気に感染の拡大が狙えるっ!!。

効率最高じゃない?


ああああ、キレイキレイしようと思ったら逆に汚されて、はぁ・・・・何も知らない人間共がウイルスに汚染されて苦しみ喘ぐあの表情・・見たい見たい、今すぐにでも!!!

はぁ・・・・この背徳感・・・・・・たまんなーーーーーいぃ!!!!!」


天を仰ぐ美少女の顔が醜く恍惚に歪み、大きく開いた口の端からはだらりと涎が流れ、心なしか顔も赤く火照って見えた。


「ふぅ〜」


「よっっしゃー!!

やるぞーーーーーー!!!」


少女はおもむろにテーブルに置いてあったサイコロを振る。

出た目は3。

少女の顔が一瞬にして不服そうな顔に変わる。


「チっ

まぁ、ルールはルールよね、リリアナちゃん今回は籠城戦で行くわ、悪いけどまたお使い頼めるかしら?

推し事、始めるわよ。」

「・・・了解。

推し事、開始」


そう言うや否や、リリアナと呼ばれた少女の存在がそこに最初からいなくなったかのように霧散して消えた。


「さーて、エブンっていう名のクソゲー、私好みに神アプデしてあげる。」


少女の舌が自身の唇をベロリと舐め回した。

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