1話。 この世界の話。
サ・キカタ大陸。
その地は、歪とまでは言えないまでも、決して綺麗とは呼べない長方形の輪郭をしていた。
四方を絶海の海に囲まれ、外界から完全に切り離された閉鎖環境。
他に大陸が存在するのか、あるいはこの世の果てなのか。それを知る者は未だいない。
現在、大陸には四つの国家が存在する。
北西の【ア・バン】
南西の【イ・オー】
北東の【オットー】
南東の【ベイク】
国境付近で小競り合いこそあるものの、ここ数十年の間、国家を揺るがすような大戦は一度も起きていない。
多種多様な人種、思想、宗教が混在しながら、なぜ人類は手を取り合っていられるのか。
理由は単純だ。
人類には、共通の「敵」がいた。
「悪魔」
それは、人を襲い、貪り食う異形の者たち。
彼らにとって人類は生存を競う相手ですらない。ただの「食糧」だった。
奴らは獲物の頭から皮を剥ぎ、四肢をもぐ。
ここで事切れる者は、まだ幸運だ。
生きたまま内臓を引きずり出され、心臓に近い「美味な部位」から順に咀嚼されていく恐怖は、筆舌に尽くしがたい。
背骨をボキリと折られ、中から溢れる髄液をデザートのように啜られる。
そんな絶望の象徴であるデーモンに対し、人類は四国同盟を締結。
「英雄機関」を設立した。
「英雄」
この世界では十歳になると、神からのギフトとして「スキル」を与えられる。
その中でも対デーモンに特化した能力を授かった者は、国の召喚を受け、十三歳で「英雄学院」への入学を許される。
卒業し、英雄として認定されれば、莫大な富と名誉が約束される。
たとえ殉職したとしても、残された家族には一生暮らせるほどの遺族年金が支給されるのだ。
だが、認定されるのは毎年わずか数名。
選ばれなかった者は、軍や警察、あるいは「冒険者」として、死と隣り合わせの現場で生きていくことになる。
「お父さん、お母さん。僕、英雄になれるかな?」
十歳の少年、リオ・セブリオンは、何度も両親に問いかけた。
握りしめた手は熱く、吐き出す息は白い。
商人を営む両親は、内心では息子に危険な道へ進んでほしくなかった。
だが、少年の憧れを無下にする言葉も持たなかった。
もし今日、戦闘向きのスキルを授からなかったら、その時は全力で諦めさせよう。そう決めていた。
「いいスキルを貰えるといいな」
「うん! 僕、デーモンなんてバーンってやっつけちゃうよ!」
震える手を隠して笑うリオに、両親はお互いを見つめリオに苦笑いを返す。
そのまま三人で静かに暮らしたい。けれど、その平和を守る誰かがいなければ、この世界に明日はない。
オットーの西、国境に近い町・エブンの教会。
朝早くから集まった親子たちが、一喜一憂の声を上げていた。
「其方に与えられしスキルは……『剣聖』!」
教会内に、今日一番の歓声が響き渡る。
少女が授かったのは、最高峰の戦闘スキルだった。
泣き崩れる両親をよそに、少女はきょとんとしている。
リオはそれを見つめ、小さく呟いた。
「……いいなあ。僕も、あんな風に……」
神官が、次の名前を呼び上げる。
「リオ・セブリオン。前へ」
少年の運命が、今、定まろうとしていた。




