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星織が消えた世界で、俺たちはまだ戦う  作者: 秋乃 よなが
第六章 星織の塔の試練

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第二十四話 最後の祝福、そして旅立ち


「このままじゃプロキオンさんに勝てない……! みんな、力を貸してくれ!」


 アルタイルの願いに、三人は頷いて応える。


 ベガは体勢を整えるように後方に下がる。そして熱と衝撃が荒れ狂う戦場に鋭い風が割り込んだかと思えば、ハダルが素早くスピカの身体を抱き上げ、そのまま安全圏へと退いた。


 アルタイルは仲間に視線を走らせる。ベガが大剣を構え直し、スピカとハダルはすでに陣形を整えている。四人が揃った今、この場に迷いはなかった。


「プロキオン……今度こそ、止める!」


 その叫びを皮切りに、再び戦端が開かれた。


 土塊を纏ったプロキオンは、両腕を振り下ろす。大地が牙を剥き、隆起した岩槍が一斉に四人を突き上げた。


 ベガが前へ飛び込み、剣閃で槍を切り裂く。ハダルは横へ転がりながら風の矢を解き放ち、風の奔流で押し返した。


「硬いな……!」


「なら、削っていくしかない!」


 ハダルの風の矢が連射され、岩の外殻を削り飛ばす。だが、そのたびにプロキオンは土を呼び込み、肉体を再生させた。


 苛烈な攻防の中、祭壇が軋みを上げる。祭壇の間の大きな柱の一つが、崩れ落ちた。


「一気に決めるぞ!」


 ベガが大剣を構えて突進する。その背にハダルが魔力を注ぎ込み、大剣が炎と風で覆われた。轟々と燃え盛る大剣と化したベガの切っ先が、プロキオンへと迫る。真正面からの衝撃に、プロキオンの巨体が揺らいだ。


 その隙を狙い、ハダルが風で足元を切り崩し、バランスを奪う。さらにスピカが立ち上がり、最後の魔力を込めて水の槍を放つ。槍は裂け目に突き刺さり、土の外殻を大きく砕いた。


「今だ、アルタイル!」


 全員の声が重なった。アルタイルは剣を高く掲げ、眩いばかりの光を刀身に纏わせる。光が熱を帯び空気を歪ませ、崩壊する祭壇を赤々と照らした。


「プロキオンさん――これで終わりだ!」


 渾身の一撃が振り下ろされる。光の刃は土の巨体を断ち割り、プロキオンの叫びが戦場を震わせた。崩れ落ちる肉体の中心から、光り輝く『土の欠片』が浮かび上がる。肉体はもう、動かなかった。


 しかし、それはアルタイルの手には収まらなかった。欠片は一瞬だけ彼の掌に近づき――だが拒絶するかのように震え、ひび割れを広げていく。


『我は……お前の手には渡らぬ……! この世界ごと、砕け散る……!』


 呻き声とも呪詛ともつかぬ声が響き、土の欠片は自ら砕け散った。煌めく破片が宙を舞い、やがて土煙の中へと溶け消えていく。


 戦場に残されたのは、勝利の余韻と、失われた力の残滓のみだった。


「やった、のか……?」


 仲間を自らの手で斬ったという現実が、じわじわと胸を締め付けていく。


「まだだ! 塔が崩れる! 全員階段へ飛び込め! 私が援護する!」


 塔自体が崩れるのも時間の問題だった。アルタイルたちはハダルの指示通り、昇ってきた螺旋階段の中心に向かって飛び降りる。


 するとハダルの風魔法がふわりと身体を包み、四人は問題なく塔の入口へと着地した。


 塔の遥か頭上で轟音が鳴り響く。四人が星織の塔を出ると同時に、それは頂上からゆっくりと崩れ落ちて行った。


 戦場に、崩壊の音だけが響く。崩れゆく塔を見上げながら、アルタイルは呟いた。


「土の欠片が……俺たちを拒んだ……」


 英雄がまた一人欠け、星織を織り直すための儀式に必要な欠片も祭壇も失ってしまった。


 こうしている間にも、空の裂け目はどんどん広がり、漆黒が空を覆い尽くしつつある。そしてところどころから、一群、また一群と魔物が地上へ降りていくのが見えた。


 星織の加護が消えていく。


「……ああ。私たち、間に合わなかった……」


 水の国の湖は干上がり、都は地上に露出した。


「星織が……消えていく……」


 風の国は地上へと落ちた。天空樹から吹く、魔法の風が弱まったせいだ。


「世界が、終わる……?そんな……」


『――まだ諦めてはなりません』


 絶望に瞳を暗くしかけたアルタイルを叱咤したのは、光の欠片だった。


『星織の欠片として、最後の祝福を与えます。あなたたちはこれから、この僅かな祝福を糧に、懸命に生きていくのです』


「なにを……?」


 光の欠片が輝き出す。それに呼応するように、水、風、火、闇の欠片も輝きだした。


『この愛しき世界に祝福を! 生きとし生けるものたちに祝福を――!』


 欠片たちがそれぞれの色彩を放ちながら、その光が天高くへと昇っていく。そうして薄い膜のように空に広がったかと思えば、アルタイルたちは手首に強烈な熱を覚えた。


「熱……っ」


 ――パリン。その瞬間、星織の欠片たちは粉々に砕け散った。全ての力を使い果たしたのだ。


 世界に満ちていた膨大な魔力は失われ、魔物の脅威は勢いを増していた。それでも欠片たちの祝福で、僅かな魔法だけが残された。


「星織の欠片が……」


「最後の力を振り絞って、アタシらの世界に祝福を与えてくれたんだ……」


 スピカとベガは空を見上げる。滲んでいた欠片の色彩の膜は、やがて見えなくなった。


「……星織の加護はなくなったけど、世界はまだ、終わったわけじゃない」


 アルタイルの言葉に、ハダルは頷いた。


「私たちにはまだやることがある。魔物の存在がある以上、私たちにできることは民を守ることだ」


 そうして彼らは、星織の欠片に選ばれた英雄として、それぞれが世界を支えることを決意する。


 アルタイルは各地を巡り、星織の崩壊で困窮した人々を助ける旅へ。かつて『魔物に困っている人を助けたい』と願った少年は、今度こそ自分の足で世界を歩き出した。


 スピカは水の国で崩落した湖底神殿を建て直し、信仰や記録の継承を。ベガは火の民を強くし、燃えた火の国の再建を。ハダルは国を守る責任を果たすため、地上に落ちた風の国を導く役目を担うことにした。


「……また、会えるだろうか?」


 アルタイルの呟きに、仲間たちは力強く頷く。そうして短く別れの言葉を済ませたあと、それぞれ、向かうべき場所に向かって歩み出した。


 アルタイルは砕けて小さくなった光の欠片を拾い上げ、それを握りしめる。


「――星織がなくとも、平穏と呼べる世界にしてみせる。何年、何十年かかったとしても」


 決意を秘めたアルタイルの頭上には、星織が崩壊して初めて見えた満点の星空が浮かんでいた。


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