6 桜広場で 1
わたしが桜広場に着くと、仁川君はすでに来ていた。
「お~い、ここだよ」
仁川君は6時の桜の木のところで大きく手を振っている。よく見ると後ろに、シートが被さった何かがある。
「見せたいものって、これなの?」
わたしはシートを指した。
「いいか、驚くなよ。これはな、タイムマシンなんだ!」
というと、仁川君は素早くシートを取った。
わたしはじっと眺めたが、ただの自転車に、2、3才児が乗る三輪車のハンドルの中央にあるおもちゃの箱がついているようにしか見えなかった。
「何だ、ただの自転車じゃない」
「チェッ、ぜんぜん驚かないや。まあ、そう見えるのも仕方ないか。でも、こいつはすごいんだぜ。あれから俺は、2年前のこの桜ヶ丘町を2週間分、旅して来たんだ。二宮のことを見て来たんだ」
「えっ、どういうことなの?」
わたしは、チンプンカンプン訳が分からなかった。
「話せば長くなるから、そこのベンチに座ろう」
仁川君は自転車にシートをかけ直すと、わたしと並んで、6時の桜の木の脇にあるベンチに座った。
仁川君はまず、マシンT-56(タイムマシン)の紙切れに始まって、これを自転車に取り付けるまでのことを話した。
この時はまだ、わたしはタイムマシンなんて半信半疑だったが、話している仁川君の顔があまりにもキラキラ輝いていたので、ただ、ただ、うなずいていた。
「あっ、その目はまだ、タイムマシンを信じていないな」
わたしは動揺した。
「ようし、じゃあ、二宮のことを当ててやろう。今から2年前の4月X日に二宮は東京から転校して来た。その日、2人の男子児童が遅刻して来た。小林さとしと立花公平だ」
「えっ、どうして、仁川君がそういうこと知ってるの?」
わたしは思わず叫んだ。でも、よく考えると立花君は仁川君の友だちだ。
「立花君から聞いたんでしょう?」
「いや、あいつから聞いたんじゃない。あいつはそんなこと覚えてないよ」
「俺の顔をようく見てみろよ」
仁川君はわたしに顔を近づけた。わたしは少しドキドキした。
「誰かに似ていない?」
「そういえば……」
わたしはあんまり覚えていなかったが、小林君の顔を思い浮かべた。小林君は、5年生の5月に外国に引っ越したのだった。
「あ~っ、似てる、小林君に」
「なっ、似てるだろう。だから、俺は、外国に行って休んでいた小林さとしになりすまして、2週間、二宮の教室にもぐり込んだんだ」
本来なら、2年前の4月X日に遅刻したのは立花君だけのはずだが、仁川君がタイムトリップしたことによって、わたしの記憶も、小林君と立花君が遅刻してきたようになっている。過去を変えると、未来も変わるんだ。わたしは、唖然としてしまった。
それから、仁川君は、タイムトラベルで見て来たわたしのことを半ば気遣いながら、やさしく話した。




