聖剣少年と黒い影 9
僕が懐に入り込もうとしても、エラーの反応は鈍く次の攻撃は来ない。
僕は聖剣を手に出現させ、そのままエラーの右足を斬りつけ、即座に背後に回りアキレス腱の辺りをとにかく斬る。
エラーにまさかアキレス健が有るとは思えないが、もしこれでバランスを崩してくれればラッキー程度の考えだ。
するとエラーはやっと動き出し、右脚を上げて僕の真上に移動させる。どうやら踏み付ける気のようだ。
でもステータスのおかげが動作がゆっくりと見え、僕は今度左脚へと移動する。
そこで振り下ろされる右脚。
コンクリートを破壊し、大きく地面が揺れる。
それと同時にコンクリートの破片が僕に当たって少し痛い。これは予想していなかった。
左脚を斬って、斬っていると……今度は左脚での踏み付け。だが先程とは違いかなり速い動作だ。
慌てて右脚の方へ行こうとすると、左脚が勢い良く地面に下される。そして——その直後に右脚が動き始め……。
マズい!
僕はエラーから離れるように横へと全力で飛び、そのまま転がりながら距離を取る。転がりながらも分かるその地響きの大きさ。
それは僕が身体を起こしても繰り返され、エラーは僕がいなくなっても、右、左交互に地団駄を踏んでいる。
……エラーは知能がほぼ無いようだと思っていたが、どうやら違うらしい。この動きは僕の動きが嫌で、明らかに対策としてしてきた行動に思える。
僕は一度離れて距離を取り、グンセさんとレイジさんの近くへと戻る。
「はぁ……ビックリした。まさかエラーが地団駄してくるとは思わなかった……」
「ハッ見てるこっちは面白かったけどな。まるで足ツボマットで痛がる人間みてえだったぜ」
グンセさんとレイジさんは大笑いしている。
「あははっ!エラーも意外とかわいい所が有るもんだね。動画撮りたかったなぁ」
「ちょっと二人とも、こっちは必死なんですって!」
僕の訴えも虚しく、二人は笑うばかり。
また、エラーは黒い弾による魔法での攻撃に切り替えたようで、レイジさんのパーティーメンバー四人と、ヒメさんがそれを防いでいる。
「でもこれじゃうまく攻撃出来ないですよ。攻撃が効果が有るのは分かりましたけど、近づけないです」
「それなら、剣を投げたらどうだ?ヘリでやってたみてえに」
「う、うーん。効果は有りそうですけど、物凄く地味で地道ですね……」
「だが、安全だ。DHの戦い方としちゃ、地味でもそれが一番正しい」
グンセさんは真面目な顔になってそう言い切る。
「そう言われると確かに……安全圏から投げてみますか……」
僕はトボトボと魔法を防いでいる五人の後ろへと移動する。
「アリみたいに潰されなくて良かったわね。逃げ回る動きはアレだったけど」
ヒメさんが顔をむけないまま僕に話しかけてくる。
「サイズ的にはゴ……何でもない」
アレとはそう言う意味だったのだろうか。
「僕がここから剣を投げて攻撃してみる。効果は薄いだろうけど、巨大化は防げる……と、いいな」
「もし刺さったらそのまま放置でも効果は有りそうね」
「そう言われるとこのエラー……さっき腕に剣が刺さったんだった。今までのエラーだと貫通して終わりだったのに、何故だろう」
「大きさ?濃度?どちらにせよ今までとは別物と思った方が良さそうね」
「そうだね。少し知能も有りそうな気がするし、安全策で行くよ」
「よっしゃ!防御は俺達に任せとけ!」
レイジさんのパーティーメンバーで、最前線に居る大楯持ちの男性がそう言い切る。
「お願いします」
僕は手元に聖剣を出現させ、そのまま大きく振りかぶって、全力で投擲する。
ステータスによって高められたその腕力は、100メートルはあろう距離を物ともせずに、聖剣は一直線にエラーへと到達する。
そのままエラーの脇腹へと聖剣が突き刺さる。そしてエラーはまるで痛がるかのように身を捩らせる。
また刺さったら場所からは、魔素が湯気のように蒸発している。
「……効果は有りですね」
「おいおい兄ちゃん凄えな。まさか一発で当てるとは」
大楯持ちの関心したように顎に手を当てる。
他のパーティーメンバーも「おおっ!」と声を挙げた。
「い、いや。投擲スキルとか無いんで、今のはただのまぐれですよ……?」
「ん?そうなのか。俺ぁてっきりよ……」
当たったのは単に運が良かっただけだ。別に計算した訳でも何でもない。
ん?運が良かった?
いや、まさか……こんな所まで運の良さが仕事してないよね?
僕は聖剣を手元に戻し、もう一投。
ちょっと上の方に投げた聖剣は緩やかなカーブを描き、そのまま高度を下げ……エラーの右肩へと突き刺さる。
いや、これ……運の良さが仕事してるかもしれない。
「ぷっ!くくく……」
ヒメさんが僕が何を思っているのかに気付いたのか、急にお腹を抱えて笑い始める。
「あはは!……お腹痛い!」
その様子に狼狽る他の四人。
その後も数回投げるも、僕の聖剣投げはどこかしらに突き刺さっていく。
僕はもう真顔で無の感情。
笑うばかりのヒメさんに、戸惑う他四人。
グンセさんとレイジさんは唖然として口を開けている。
だが、その一方的な攻撃は突如終わりを告げる。
突然発電所から警報が鳴り響き、その後に放送が流れ始める。
「DHの皆さん!今発電設備が停止されました!それてエラーが動く可能性が有ります!気をつけて!」
その声が聞こえると同時に場の七人は雰囲気を一変させ、真面目な表情へと切り替わる。
「聞こえたな!教育学校の方に後退しつつ時間を稼ぐぞ!」
レイジさんの声が響く。
「「「「おう(ええ)!」」」」
パーティーメンバー達はすぐに陣形を組み直し、大楯持ちの人を最前列にしてエラーに対して一直線に並ぶ。
僕とヒメさんは一度グンセさんの元に戻る。
「俺達も時間稼ぎを手伝うぞ。俺は瓦礫で足場を悪くする。嬢ちゃんは魔法で防御、お前は出来る限り投擲で攻撃しよう」
「「了解」」
「もうすぐ世界DHギルドのパーティーが来るはずだ。それまで持ち堪えよう」
「……発電所、止めない方が良かったんですかね?」
僕はふと思った疑問を口に出す。
「馬鹿言え。もしもっと巨大化したらもっと手が負えなくなるだろうが。万が一が怖えよ」
なる程、と僕は納得する。
そして発電に使われていた魔素の排気が出てこなくなると、エラーがこちらに体を向ける。
恐らく一番近いであろう大楯の人を目指し、10メートルはあろう巨体がゆっくりと歩き始める。
「来るぞ!」
——そして一際大きなレイジさんの声で、時間稼ぎの撤退戦が始まった。




