幸運少年と大企業
JHWはその規模から、装備の値段を左右する程の力を持っている。それに加えて日本DH協会とも関係が有り、企業としての地盤はとても固い。
現状では装備を扱う他企業も価格を右に倣えをするしか無く、もし逸脱すれば、JHWに潰される可能性まである。
だが、その事に不満を持つ企業は多い。価格競争を行えず、被害を受けるのは装備を扱う企業だけでは無い。
個人の職人や、町工場が一番の被害者だ。装備の生産体制の改善により原価を下げても、その分安く売る事ができずに売上の上昇は見込めない。
利益率だけなら上がるが——それだけでは企業の成長は見込めない。
駆け出しのDHにしてもそうだ。JHWにより装備品の価格が下がる事がない為に、能力に見合った武具を新調する事が難しい。
そういった不満は、少しずつ溜まって来ていた。
——僕とグンセさんはそこを狙う。
ーーーーーー
「さて、計画を実行するにも前準備が必要だ」
グンセさんは腕を組みながらそう話す。
「資金の調達に、弾の準備、現状に不満を持つ中小企業や個人店への根回し……やる事は多いぞ。それらの準備が整わなけりゃ、計画を実行に移せねえ」
「資金と弾は箱ですかね。根回しは……グンセさんお願いできますか?」
「おう。そのつもりだ。栗生組も上手く使ってやってやる。箱も出来る限りかき集めるし、ムノはそうだな……」
「僕に良い考えがあります。それは——」
グンセさんに僕の計画を話す。
「——なるほどな。確かにそうすれば弾も少なく済むし、それを条件に根回しもしやすい。良いじゃねえか、採用だ」
「良かった。なら僕はこの作戦をメインに動きますね」
「ああ。でも、本当に常識からかけ離れてんな……。普通じゃ思いつきもしねえし、実行できねえよ……」
「褒め言葉として受け取っておきます」
こうして、計画は始まった。
ーーーーーー
——歌舞伎町ダンジョン 四階。
歌舞伎町ダンジョンの四階は、洞窟になっている階層だ。
壁が淡く光っているので、三階よりは視界が良く狩りはしやすい環境となっている。
僕がここに来ている目的は、ある魔物素材の収集。
ここにはファングウルフという、灰色の狼型の魔物が出現する。その皮は斬撃にも打撃にも強く、防具の素材として多く使われている。
ファングウルフの皮で作った防具は、マジックレアの下位装備と同等の防御性能を持ち、駆け出しがよく使う装備だ。
けれど——今回の作戦で狙っているレア等級とは少しズレている。何故か?——それは。
今僕が戦っているのは、"黒い"狼型の魔物。
僕は魔物が飛びかかってくるのを躱して、すれ違いざまに胴体を斬りつける。
「ギャンッッ!」
狼型の魔物は斬られた痛みで着地に失敗し、大きな隙を見せる。——そこを狙ってもう一太刀。
「よっと!」
すると狼型の魔物は消失し、なめされた皮だけがそこに残される。僕はそれを拾ってマジックバックへと収納する。
僕が戦っていたのは、シャドウウルフという魔物だ。
その黒い皮はファングウルフの皮よりも防御に優れ、おまけに闇属性耐性(小)まで付いている。
その性能と希少性から高値で取引されており、その皮で作られた防具の性能はレアランクの下位に相当する。
何故、それだけの防具が希少なのかというと。
——シャドウウルフは、ファングウルフのレアポップで出現する魔物だからだ。
デイドリームの一件でレアポップが通常ポップになることを経験した僕は、シャドウウルフを乱獲する事を思いついた。
シャドウウルフの皮が、もし市場へと大量に流れたらどうなるのか?——同等の性能の防具価格が荒れる事に間違いはない。
そうなったら、JHWの価格調整は機能するのだろうか?
「……JHWには悪いけど、僕の運をフル活用させて貰う」
——僕はそう呟いて、また次のシャドウウルフを探す。




