少年と不運の少女 4
翌日の昼過ぎ、僕はまた歌舞伎町ダンジョンへと向かっていた。
昨日の事が有ったので、休もうかとも思ったのだが……流石に彼女が待ち構えていたりはしないだろう、と高を括っていた。
——それが、甘かった。
「あら、ムノ君。偶然ね」
歌舞伎町ダンジョン入り口の施設へ入ろうとすると、背後から不意に声をかけられる。
こ、この声は……。
「げ、ヒメさん」
振り返ると、昨日の黒髪の少女が居た。
昨日と同じお嬢様学校の制服に、手には何故か有名コーヒーチェーン店の、スタードックスコーヒーのカップを片手に。
「げって何よ。嫌がるにしても、流石にあからさま過ぎない?こんな美少女に話し掛けられるんだから、少し位喜んでも良いんじゃないの?」
「……自分で美少女って言う人はどうかと思うよ。もう少し奥ゆかしさを持てば、男受けも良いんじゃないかな」
確かに外見が美少女なのは間違いないのだが……。
「ムノ君なんて、私が入り口で待ってても、絶対に声かけてこないで、そのまま素通りしてダンジョンに入っていくタイプじゃない。」
まあ、その通り。仮に居ても気付かないフリをするつもりでした。
「あっははー……」
僕はヒメさんから目を逸らす。
「図星なのが分かりやすすぎるわ……」
ヒメさんはため息をつき、額に手を当てる。
「でもヒメさんこそ、偶然って絶対に嘘じゃないですか。施設前のスタドで見張ってたんじゃ」
「さあ、どこにそんな証拠が有るのかしら?——ホワイトホットチョコレート一杯で、早朝からスタドに居座って、店員に白い目で見られながらムノ君が来るのを待っていたなんて証拠が!」
「完全に自白じゃないですかそれ……何時間も居座るならせめて、追加注文位しましょうよ……」
「そんなお金無いわよ。昨日の魔石を売ったとはいえ、普段素材で稼げないわたしの生活はギリギリなの」
「そう言われると……」
「まあ、今日はただの挨拶代わりよ。でも、ムノ君とパーティーを組むのは諦められない。私は心変わりするまで、ネットカフェで漫画でも読みながら待つわ」
「……お金が無いなら、そこも削るべきだと思います。それに、漫画読んでるってそれただの趣味なんじゃ……」
「ハチ公みたいにずっと体育座りで座って待っていれば、心変わりするかしら?」
「目立って迷惑なのでやめて下さい」
「なら、やっぱりネットカフェへ行くわ。それじゃ、また明日」
そう言い残し、ヒメさんは去っていく。
ま、また明日も来るのか……。
僕はダンジョンに入る前だというのに、既に疲れ切ってしまっていた。
ーーーーーー
——翌日。
「あら、また偶然ね」
——また翌日。
「あら……」
このやり取りは、一週間続くことになった。
ーーーーーー
——歌舞伎町にあるグンセさんの店兼、僕の寝床。
「グンセさん……助けて下さい……」
「お、おい……そんなにやつれて、どうしたんだよムノ」
ヒメさんとのやり取りで、僕の精神力は大きく削られていた。
だからと言って強く突き放すことも出来ず、それが更に僕を悩ませる。
そして限界を迎えた僕は、グンセさんに相談する事にした。
「——は?黒髪美少女に、パーティーを組めと毎日付き纏われてる?」
グンセさんは唖然としながら呟いた。
「彼女、素材が全く落ちないくらい運が悪くて……。そんな中、偶然僕の運の良さを知られてしまって、それで……」
カウンターに突っ伏しながら、グンセさんと会話をする。
「まあそれだけ聞くと、確かにその少女には、ムノが最後の希望なんだろうな」
「その気持ちもよく分かるので、どうしたら良いか迷い続けてて……」
「けどな、ハッキリしないのが一番ダメだと思うぞ?ムノにとっても、その少女にとっても、良い事にはならねぇ」
「ですよね……。僕としては、パーティーを組んでも良いとは思ってるんですよ、でも——」
「偽造DH免許の件が引っかかってるのか……」
「そうなんですよ……」
「だがな。ムノがしっかりと説明すれば、余程の事がない限り理解してくれると思うぞ?それに、18まで正規のDHにならないと決めたんなら、それまで仮で組んでりゃ良いんじゃねえのか?少女の境遇を考えるに、それ位なら受け入れてくれんだろ」
「ああ、それは良い案かも。……もう少し考えてみて、思いつかなければそうしようと思います」
「おう。少年、若いうちに沢山悩めよ」
「……グンセさん。少しおっさん臭いです」
「……相談乗ってやったってのに、そりゃねぇだろうよ……」
グンセさんがため息をつくのを横目に、僕は二階への階段を登っていく。
——ベットの上に身を投げ出し、目を閉じて考える。
(もしも彼女の助けになるなら、出来れば助けてあげたい……だったら)
この一週間悩んでいたのが嘘のように、僕の中で答えが出た。
(もし——明日、ヒメさんに会えたなら、その時に全てを打ち明けよう)
そう答えを出し、僕は意識を手放した。




