少年と不運の少女 3
「——私ね、今は一人でダンジョンに潜って危険な橋を渡ってるけど、昔はみんなから期待されてたんだ」
彼女は、悲しそうに俯きながらそう呟いた。
「幼少期に受けた鑑定で、魔法を扱う事に優れた才能が有ることが判明したの。——それで、それを聞いた両親が私に英才教育を始めてしまって……」
「私は才能通り、魔法に関するスキルが次々と身に付いた。更に魔法を覚える事も得意で……15歳の頃には、基本の四属性の初級、中級全てを習得したわ」
……よく聞く話だ。
ダンジョンが現れ、才能による格差が生まれた地球。今ではその才能が、今後全ての将来を決めると言っても良いかもしれない。
その才能という"ガチャ"で、彼女は大当たりを引き……人生の勝ち組となった。それだけの話だ。
僕からすれば、唯の自慢話にしか聞こえない。
……正直言って怒りを覚える。
——そんな僕の気持ちを、知ってか知らずか……彼女は話を続ける。
「でも16歳でDH免許を取得して、初めてパーティーに混ぜてもらってダンジョンに潜った時に、とある問題が発覚した——それは」
「何故か魔物が……素材を落とさない」
彼女は膝を抱える。
「最初は偶然だと思った。でも、私が加入してから、数日間ダンジョンに潜って……パーティーの入手した素材が0。これはパーティー皆が異常だと気付いた——そして、私が一時的にパーティーを離れると、何事も無かったかのように素材が落ちた」
「素材の売買によるお金が無ければ、DHは生活が出来ない。私は当然、パーティーを追放されたわ。でも、私はそれを信じきれなくて……それからも何度もパーティーに加入した。結果は……やはり素材のドロップは無くて、私は"貧乏神"という、不名誉な二つ名で呼ばれるようになったわ」
彼女はため息をつく。
——僕とはまるで……鏡の表と裏のように、真逆な人生だ。
そして……彼女もまた、才能に振り回された被害者だ。先程までの、彼女への怒りは消えていた。
「……ゴメンね。こんな重い話を聞かせちゃって。何故だかあなたなら、馬鹿にしないで真剣に聞いてくれると思ったの」
彼女は浮かない表情のまま、僕と目を合わせる。
「いえ、僕も苦労した方なので……あなたの気持ち全てを分かるとは言えませんが、話し相手になるだけなら出来ますよ」
「——そう。ありがとう。そう言えば、名前も言ってなかったわ。私は、や……いえ、今は"ヒメ"って名前だけね」
「僕はムノって言います。よろしく、ヒメさん」
名字を失ったという事は……そういう事なのだろう。そこについては、深く聞かないでおく。
それから——僕達は、主に愚痴だが……話が弾んだ。
それと、ヒメさんと僕は同い年という事も分かった。ヒメさんは随分と大人っぽく見えるよう。
勿論、偽造DH免許の事や、ガチャ装備の事は伏せているが……時折見せてくるヒメさんの獲物を狩るような鋭い目に、全て見透かされているような気がして冷汗が止まらない。
そして——ヒメさんは突如真面目な顔になる。
「よし……決めた。ムノ君、やっぱり私とパーティーを組んでよ」
「え?」
「あなたの運なら……私の貧乏神を打ち消して、更におつりが来そうだわ」
「え、いや……その……」
無能の事を話したというのに、パーティーを組みたい!?どれだけ物好きなんだ!いや、でも彼女は僕の運に縋るしか無いのか……?なら、それを邪険に扱うのもどうなのか。
「どうしたの?」
「えーと……そのですね……」
で、でも偽造DH免許の件もある!やっぱり、ダメだ!!
「ご……」
「ご?」
ヒメさんが首を傾げて聞き返す。
「ゴメンなさい!!やっぱりパーティーは無理です!!すいません!また!」
僕はその場にすぐ立ち上がり、二階の階段を猛ダッシュで駆け上がる。
「あ……ちょっと……!!」
後ろからヒメさんの呼び止める声が聞こえるが、僕は振り返らずに走り続ける。そして——気付いた時には、グンセさんの店まで戻ってきていた。
ーーーーーー
——ムノの去った、二階への階段前の広場。
「うーん、失敗したかな……でも彼、まーだ何か隠してるのよね。結局、デイドリームを一撃で倒す強さについては誤魔化してたし」
そう言いながら、舌舐めずりをする少女。
「でも……わたし、しつこいわよ。もう一度上を目指せるなら、地獄の果てまで追い掛けるわ——覚悟してね、ムノ君」
彼女はフッと笑いながら、二階への階段を登る。
——そして、お金の無い彼女は……デイドリームの魔石を忘れた事に気づき、すぐに焦った様子で戻って来るのだった。




