閑話 『吸血姫と五人の王子』③
「むぅ、違うって言ってるでしょ⁉︎ 皆がわたくしを崇める最高の国で――」
「ちっ! 先を読みなさい! 早く終わらせるのよ……次のページでしょ?」
「まだよ!」
「は? ちょっと待って。このページに五人も紹介されてるの? ク――主人の事だから、自分の番には見開き1ページ使うと思ってたのに……」
「そうね? 『五人目の王子は言いました。“君の国へ宣戦を布告する。これ以上の勝手は許さない”と』……これは覚えているわ⁉︎ この後、戦争になったのよ!」
「へぇ? 主人にしてはまともじゃない! 最初は吸血鬼を倒そうとしてたのね?」
「次のページよ!」
「ただの吸血鬼が主人に勝てる訳ないし……ふふっ、不様に負けた所も描かれてるのかしら?」
「『そして、五人目の王子を片付けた使用人――究極の執事フィオドールが言いました。“カリンさん、寝室の準備ができました。私の準備も出来ていますよ?”と』」
「クソ主人ぃいいいいい‼︎」
「あ……めっ!」
「ふざけんじゃないわよ⁉︎ 王子関係無いじゃない⁉︎ こいつらただの被害者だわ⁉︎ さり気なく五人目も殺されてるし!」
「でもでも、執事姿のフィオもカッコ良かったの!」
「何の慰めにもなってないわよ⁉︎ そりゃ1ページにまとめて描かれるわ⁉︎ クソ主人が居ないんだもの!」
「むぅ……めっ!」
「痛っ⁉︎ ちょ、ちょっと! 乙女が頭突きってどうなの⁉︎」
「次のページ!」
「わ、分かったから! 頭突きはやめて! ……うぅ、瘤になったらどうしてくれるのよ」
「『究極の執事フィオドールは続けます。“この五人分の血液はどうしますか? カリンさんが望むなら、寝室に撒きますが……” 吸血姫は答えます。“いやよ? わたくしは、もう貴方の血以外に触れたくないの”と』……か、感動のシーンだわ⁉︎ 名場面よ!」
「こ、殺されてる⁉︎ 王子様が全員殺されてるわよ⁉︎」
「当たり前じゃない! 王子なんてフィオの引き立て役なの!」
「何のための舞踏会よ⁉︎ 冒頭の部分全否定されてるんだけど⁉︎」
「ごちゃごちゃ煩い! 早くページを捲りなさい!」
「い、嫌よ! どうせ次はクソ主人との濡れ場でしょ⁉︎」
「めっ!」
「痛っ⁉︎ ……お、覚えてなさい⁉︎ いつか絶対――ああ、もう! 酔ってる最中は記憶が残らないのよね⁉︎」
「次のページよ!」
「も、もう捲ったわよ!」
「だから、その次のページ!」
「はぁ? ……ほら、捲ったわ」
「はぁ、格好いい。次のページ!」
「……はい」
「この角度も素敵ね……次!」
「待ちなさい! さっきから文字が無いの⁉︎ 何が描かれてるのよ⁉︎」
「今はフィオがこちらに向き直ってる場面よ! 色んな角度からフィオが見れて最高ね!」
「ページの無駄! 何ページ続いてんのよ⁉︎ 次の次の次……ここは⁉︎」
「フィオの横顔だわ⁉︎ この角度は中々見れないの!」
「まだ半分⁉︎ 向き直るまで飛ばすわよ⁉︎ ……この辺!」
「フィオが何か言おうとしてるわ⁉︎ わ、わたくしに跪いて……ああ、この頃のフィオもいいわね!」
「ま、まだ文字が無いの⁉︎ ……次は⁉︎」
「『わ』」
「……は?」
「“は”じゃないわ⁉︎ “わ”よ!」
「そうじゃなくて! い、一文字だけなの⁉︎」
「フィオの口がアップで描かれているわ⁉︎ ……も、もう少し絵本を近付けなさい! 絵本の中のフィオとキスをするの!」
「次は⁉︎」
「あっ……『た』ね」
「……次」
「『し』」
「付き合ってられるかぁ⁉︎」
「きゃぁ⁉︎ トゥアエ!暴れちゃ……めっ!」
「痛っ⁉︎ だ、出して! 私をここから出しなさいよ! こんなの地獄だわ⁉︎」
「むぅ……確かに、このフィオを見られないのは可哀想ね⁉︎ 分かったわ! 続きは明るい所で読みましょう!」
「ち、違う! 私は絵本を読みたい訳じゃ――ぐぇっ」
「わたくしがベッドまで運んであげるわ! トゥアエは軽いわね⁉︎」
「く、苦し……力、入りすぎ……」
「どうしたのかしら? 元気が無くなって……あ、トゥアエも眠いのね⁉︎ いいわ! わたくしのベッドで寝なさい!」
「ク、ソ――」
「めっ!」
「んぐっ⁉︎」
死ぬ……死ぬわよ⁉︎ このままじゃ潰されて死んじゃうわよ⁉︎
酔った吸血鬼に潰されて……不様過ぎる! そんなの死んでも死に切れないわ⁉︎ も、もう少し力を抜いてくれないかしら⁉︎
いや、こんな時の為に聖力を補充したのよ! これは叛逆じゃない……正当防衛よね⁉︎
生きる為に仕方なくよ……ごめんなさい、吸血鬼――死ね‼︎
「【聖ぎ――」
「ぽいっ!」
「ぶっ⁉︎」
「さ! 続きを読むのよ⁉︎ ……あら⁉︎ どこまで読んだかしら⁉︎」
「じょ、冗談でしょ……」
「忘れてしまったわ⁉︎ んー……そうね! トゥアエは絵を見てないし、最初から読みましょう!」
「地獄よ……ここに本物の魔界があるわ」
「はい! 二人で読みましょう! 読むまで寝かせないわ⁉︎」
「いや、あんたが寝るんじゃなかったの⁉︎ 趣旨が変わってるわよ⁉︎」
「えっ……そうだったかしら⁉︎」
「そうよ! あんたが寝るまで付き合うって約束だったでしょ⁉︎」
「で、でも……楽しみで寝られないのだわ! 読み終わるまで付き合って頂戴!」
「くっ、人には約束を守れとか言っておきながら――あ、あら? 意外と絵が綺麗ね」
「ふふっ、そうでしょう⁉︎ フィオが描いたのよ⁉︎ とっても素敵だわ!」
「ふ、ふーん? ……いい? 読み終わるまでよ⁉︎ 私にも仕事があるんだからね⁉︎」
「勿論! わたくしは約束を守るわ⁉︎」
「その約束がついさっき破られてんのよ……っ! ちょっと⁉︎ な、何で抱き着いて来るの⁉︎」
「わたくし、抱き枕が無いと眠れないの!」
「はぁ⁉︎ この部屋に抱き枕なんて――ク、クソ主人⁉︎ あいつが抱き枕代わり⁉︎」
「めっ!」
「んっ……は⁉︎ 頭突きじゃないの⁉︎ なんでお尻を揉んだのよ⁉︎」
「いいから読むのだわ! はい、トゥアエが捲って!」
「ま、待ちなさい! あんたにそっちの気は無いわよね⁉︎ お、女同士とか――ひゃん⁉︎」
「次は直に揉むわ!」
「分かった! ちゃんと読むから揉まないで! ……な、なんで貞操の心配までしなきゃいけないのよ」
「トゥアエ、さっきから思ってたのだけど……柔らかいわね⁉︎ 不思議だわ⁉︎ メイド服の上からなのに、こんなに柔らかいなんて!」
「あっ……や、やめて! 離れなさい! 手つきがいやらし――あぁっ⁉︎ 服の中はダメよ!」
「下着は着けてるのね⁉︎ 柔らか過ぎて履いてないのかと思ったわ⁉︎」
「んな訳ないでしょ⁉︎ 私は痴女じゃないのよ! もう……いいから離れて! これじゃ本が読めな――」
「ただいま帰ったっす! カリン様、エイリーンが自分の領域に戻ったんで――お、お邪魔したっす!」
「「……」」
「あ、あの! トリスにはそんな趣味無いんで! この事は秘密にしておくっすから……わ、我が主人ぃー! スクープ! やっばいスクープっすよぉー⁉︎」
「ま、待ちなさいトリス! それは誤解よ⁉︎ クソ吸血鬼とはそんな関係じゃ――あぐっ⁉︎」
「……う〜ん」
「はぁ⁉︎ このタイミングで寝るの⁉︎ ぬ、抜け出せないし……待って! 待ちなさい! トリス⁉︎ トリア⁉︎ あんたも居るんでしょ⁉︎ トリスを止めなさい!」
《嫌よ。そっちの方が面白そうだし》
「こ、この快楽主義者! ……クソ吸血鬼! いやもうカリン様! 離して⁉︎ お願いだから⁉︎」
「ん……んん? ……えへへ」
「うっ⁉︎ な、なんで力が強まってんのよ⁉︎」
《あ、トリアにもそっちの気は無いから。それじゃ……邪魔者は退散するわね》
……終わった。私がこれまで築き上げてきた『清純派美少女メイド』としての地位が……一瞬で『淫乱美少女レズメイド』に早変わりよ。
しかも相手がクソ吸血鬼だなんて! 考えうる限り最悪の……さ、最悪の……
「えへへ……トゥアエ……」
「……」
「んぅ……」
「はぁ……どうせ起きたら忘れてるんでしょ? もう知らないわよ……私も寝る!」
よく考えたら、私が必死にならなくてもいいのよ。ク――吸血鬼が否定するでしょうし? なんだったら、クソ主人に【審判】を使って貰えば解決するわね。
それに、この状態じゃ仕事もできない――いや、これも仕事の内? そうよ! ウーナが言っていたわね?
『私達メイドは主人に仕えるのが仕事、主人の望みを叶える義務があります』……だったかしら? ふふっ、楽な仕事じゃない。
「……おやすみ、カリン」
「……えへへ」
「ぐぇ⁉︎」
ダ、ダメだわ……物理障壁を張っておきましょう! 吸血鬼が起きるまで、身が保たないかもしれないわ⁉︎
しかも起きたら記憶が飛んでるのよね⁉︎ 吸血鬼が起きた時、私に抱き着いたままだったら……ぜ、絶対突き飛ばされるじゃない⁉︎
最大出力よ! 全力で守らないと……ああ、もう! なんで一緒に寝るだけなのに、こんなハラハラしなきゃいけないのよ⁉︎
やっぱり吸血鬼は悪! いつか必ず……必ず私が討ば――うぐっ⁉︎
後書きまでお読みくださり、ありがとうございます。
これにて閑話『吸血姫と五人の王子』は閉幕です。
次に人物紹介を投稿いたしまして、その後に四章となります。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。




